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コウノトリ空へ 2005初放鳥

元飼育長・松島興治郎さんに聞く/25〜27 /兵庫

修学旅行で郷公園にやってきた中学生を案内する松島さん(右端)。コウノトリの普及啓発が「第2の仕事」だ=今年5月25日

「ただの鳥」にならなきゃ

 −−「飼育の仕事に夢がある」とは具体的にどういう意味ですか?

     生き物と共にしながら生活できる心の安らぎみたいなものってのは、他の仕事にはない部分。単なるモノづくりじゃない楽しさ。今は理解がやっぱり違うなあ。郷公園もできたし、地球規模的に自分の身の回りに関心を持たざるを得ないし、生き物に関心を持つ心の余裕みたいなものが一般的にできてる。バードウオッチングみたいな優雅な趣味がね。昔は鳥見たら銃で落として食べようとか、カモがネギ背負ってきたとか、そういうのが日本人の一般的な自然観だったといわれてた。

     ところが今、都会にしても野生の生き物、特に鳥ですね。非常に身近に見られるようになった。人の顔見て逃げなかったのは公園のハトくらいなことで、たいていの鳥は逃げました。今はごく近くまで来ても逃げない。それはやっぱり、人の心が変わってきて、そういうものに対する見方、思いみたいなものが違ってきてる。社会情勢の変化がある。そういう時ですから、こういう仕事へも多少の理解がね。次のまた次にもつないでくれるという希望がある。

     −−定年後の今はコウノトリが「趣味」になりましたか?

     私はもう、どっぷりつかっちゃいましたから、これはこれとして一つ、終わりにしたい。

     −−「終わり」とはどういう意味ですか?

     いろんな考え方があるでしょうけど、私はもうちょっと少し離れて、鳥そのものとは少し間を置いた形の中でおりたい。みんなそうなってほしいっていう気がありますから。珍しかったり、特別なものだったりする間は、コウノトリが、そこにすむ生き物の中で「市民権」を得てない。スターだったり特別視されてる以上はダメ。「ただの人」にならなきゃいけない。私は「ただの人」と付き合ってた少年時代に帰れるような関係がコウノトリとの間に出来るといいなあ、という気がしてるんですよ。

     買い物いって帰りにちょっと遠回りして、農道走ってたらコウノトリがいてね、っていうようなね。わざわざカメラ持っていって記録したとか、カッコいい写真とって年賀状つくったとかいうことも、時としてはあるかもしれませんけど、出合った時に「おっいたか」「いるね」くらいの関係になれるといいね、と。でもまあ、時間がないんですよ、もう(笑)。

    放鳥したコウノトリが空を舞う姿を、松島さんは優しいまなざしで見届けた=9月24日の放鳥式典で

    二度と帰ってくるなよ

     −−試験放鳥が始まって1カ月以上がたちました。今後もうまくいくんでしょうか?

     そこです。そこはやっぱりもう、決めてかからないことです。

     「ダメだったら帰って来いよ、いつでも見てやるよ」って言い方する人もいれば、「不安でどうなんだろうな」って人もいるけど、それはそれですよ。だけど、いったん放す以上「ダメだったら帰って来いよ」とは、私なら言わない。

     嫁に出す子にわざわざそんなこと言いますか? 巣立っていく者はお前の力で頑張っていけ、もう後は私らの世界じゃないよ、君らの世界だよ、と。だから、それがどのような形になろうとも、見届けてやることはしても、ある時はやっぱり手助けをする必要があるかもしれませんけど、最初から帰って来てもいいということは、私は言いたくない。帰ってくるなよ、二度と帰ってくるなよ、あなたが後の人たち、仲間たちの将来を決めるよ、と言ってやりたい気がします。最初に出たやつがしくじったら、後から出るのはより複雑になっちゃう(笑)。

     −−「決めてかからない」とは?

     相手は自分じゃないから、何をやるかわからない。こちらが憶測したってどうしょうもない。

     −−鳥次第ということですか?

     私たちには計り知れない部分を持ってますし、生き物の力をやっぱり信じたいと思いますし。いつまで待ってもこれで万全だよって、まったく心配しなくてもいいよってことにはならないですから。わが子だってならないんですもん(笑)。だけどこちらが手を染めた以上、責任はやっぱり取りましょう、ある程度の範囲でね。困ってる者を見捨てるということは出来ないだろう、と。

     −−潔い態度が必要なんですね。

     誰かに迷惑かけたときには鳥に代わって、JRじゃないですけど「ごめんなさい」と言う気持ちは持たないといけないと思います。長い年月、空白を作ってしまいましたから。ここに住んでる人たちの気持ちの中に違うものが芽生えておるでしょうし、あるはずですから。新規参入に近い状態だって言われても間違いのない部分だってあるわけですから。今までかかわってきた者がきっちりと責任を、というか精神的な責任っていうのはもって。

    郷公園前の屋根なしケージそばにそろった放鳥コウノトリ5羽=10月6日朝

    鳥も本能で生きてる

     −−放鳥後の5羽は郷公園を中心に生活しています。その様子をどう見ますか?

     いいんじゃないですか。

     −−鳥らしく生活している?

     と、思いますよ。スズメやハトみたいにピーチクパーチク、その辺をうろうろする鳥じゃないんですよ、元々。こういうもんなんですよ。

     −−1カ所にじっとしてる?

     必要なければね。必要がなければじっとしてりゃいいんですよ。そしてやっぱりね、鳥が動く時間っていうのが、だいたい分かったでしょ?

     −−朝ですね。

     朝ね。鳥は朝起きなんですよ。私はずっと前から、生活してきたっていうより、鳥を捕獲するために追跡したりなんかする時に、ずっとそういう鳥の状況ってのを見てきました。やっぱり夜が明けてこう、もやがぼーっと立ってくるような瞬間、いよいよ行動を起こすかなあと思ってると、すーっすーっすーっと飛び立ってくる。昼間はわりとゆったりしておって、夕方少し餌を探して、それからねぐら入りと。それがその日の天候によって、多分に大きく左右されるっていうか、天候っていうか、雨風雪が影響を与える。そういうものに左右されてる。

     −−一番左右されやすいのは?

     やっぱり野生に近いほどね、私たちよりかも、より次の気象情報を予知する能力があるんじゃないかな、と思われるようなそぶりというか、感じを与える行動をとることがあります。例えば、かなり熱心に餌ばみを遅くまでしているとかね、早めに餌ばみをし出すとか。雨が近いのかなあ、もうそういう時が来たのかな、というようなものを感じる。捕獲して網の中に入れた直後でも、まだそういうものをかなり持ってるんですが、だんだんと餌をもらうようになってくると、やっぱり惰性におぼれてやらなくなりますね。

     −−惰性におぼれるんですか?

     いや、学習ですよ。寒冷前線かなんかが近づいてきたり、そういうのが分かるんじゃないかなあと思われるようなふしが、分かってるかどうか知りませんよ。私は学者じゃないから。でも、生き物っていうのは科学的根拠に基づいて生きてるわけじゃないんです。本能によって生きてるんですよ。と、自分の勝手によって(笑)。=つづく

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