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朱鷺色の空に 2008初放鳥

トキ放鳥3カ月 模索続く「野生」 餌やりの是非、論議に

 新潟県佐渡市で国の特別天然記念物のトキ10羽が放鳥されて25日で3カ月。今月14日にはメス1羽が死骸(しがい)で見つかり、野生復帰の難しさを浮き彫りにした。「試験放鳥」と位置づける環境省は人の関与を極力控える方針だが、地元・新潟県の泉田裕彦知事は「モルモットの実験のようだ」と批判する。一度は絶滅し、繁殖で希望がつながったトキ。自然に戻す最良の方法は何か、模索が続く。【足立旬子、畠山哲郎】

     1歳のメスの死骸が見つかったのは佐渡市内の林。弱っていたところをタヌキなどに襲われたとみられる。9日には約300メートル離れた加茂湖の餌場近くで5時間、うずくまるようにしてほとんど動かなかった。観察しようと近づいた人の気配で飛び立った後、行方不明になっていた。2歳のオスと行動し10羽のうち唯一、つがいになる可能性が高いと期待されていただけに周囲の落胆は大きい。

     「自然で(トキが)どう生きるかというモルモットのような実験は疑問」。泉田知事は17日の記者会見で、環境省のトキ野生復帰専門家会合の「原則として餌をやらない」との方針を批判。前日には高野宏一郎・佐渡市長と連名で「県内では『非情』との見方もある」と「温かい対応」を求めた。

     同専門家会合の方針が決定されたのは今月8日。▽原則として給餌しない▽衰弱やけがなど緊急時に限って保護する−−という内容。地元の委員が「餌場を点検して、あらかじめドジョウをまくべきだ」と提案したが「給餌は動物園に入っているのと変わらず野生復帰にならない」との意見が大勢を占めた。

     佐渡とき保護会顧問の佐藤春雄さん(89)は「野生のトキがいたころは、雪が積もり餌が少なくなると餌をまいていた」と振り返る。「冬は腹をすかせたタヌキやテンに襲われる可能性が高い。群れを形成しない間はなおさらだ。(霞が関の)会議室で話しているだけでなく、現場に来て考えてほしい」と訴える。これに対し環境省は「今回は餌不足より外敵に襲われたのが原因。トキが餌をどう探すかなど大切なデータを集めるのも試験放鳥の狙い。見殺しにするとは言っていない」と、方針は変更しない意向だ。

     専門家会合座長の山岸哲・山階鳥類研究所長は「地元の人の気持ちは分かるが、いま餌をやれば来年もやらなければならない。それではいつまでも野生化できない」と理解を求める。

     野生復帰の試みとしては、兵庫県立コウノトリの郷公園(豊岡市)が特別天然記念物のコウノトリを人工繁殖させ、05年から放鳥している。この場合も原則として餌をやらず、緊急時には保護する方針をとってきた。

     同公園の大迫義人主任研究員によると、コウノトリやトキのように個体数が少ない生物は近親交配で繁殖することが多いため、野生で生きるには生命力が弱くなりがちだという。しかし、大迫さんは「野生復帰には時間がかかる。トキもコウノトリも野生に戻ってほしい気持ちはみな同じだが、違うのは今だけを見て対応するか、50年後を見据えて対応するかということだ」と話す。

    監視、ボランティア頼み−−発信器装着、予算に限界

     「けがなど緊急の場合は保護する」というのが専門家会合の方針だが、監視体制は十分だったか。環境省は死んだトキが今月9日に行方不明になった後の10〜12日、30人態勢で行方を捜したが、その後10人に縮小した。ボランティアとして10月からトキの観察を続け、死骸の発見者でもある地元の大工、笹野正光さん(48)は「そのままの態勢で捜し続けていれば、生きて見つかったかもしれない」と悔しがる。

     環境省は発信器を10羽のうち6羽だけにつけた。予算に限界があるほかトキの飛行や繁殖の妨げにならないようにとの配慮からだ。死んだメスには発信器がなく、監視は笹野さんらボランティアに頼るのが現状だ。

     環境省は15年までに佐渡で60羽の野生定着を目指す。日本獣医生命科学大の羽山伸一・野生動物教育研究機構長は「野生復帰には予想を超える事態が多く起きる。しっかりとした監視体制が必要だ」と強調する。

     冬を間近に控えた時期の放鳥にも見直しを求める声がある。NPOバードライフ・インターナショナルの市田則孝副会長は「餌が豊富な春から夏に放鳥して環境に慣れさせた方がいい」と指摘する。野生のトキは毎春、餌を探して水田を踏み荒らし、農家を困らせていた。秋の放鳥にはこうした配慮もあるとみられるが、市田さんは「人間の都合より鳥の生態に合わせるべきでは」と話す。


    トキの保護をめぐる主な動き◇

    1908年    国の保護鳥にトキが加わる

      52年    国の特別天然記念物に指定

      67年    佐渡にトキ保護センター建設

      68年 3月 トキ「キン」を捕獲

      78年 5月 人工ふ化計画スタート

      81年 1月 野生トキ5羽を捕獲。野生はゼロに

      93年11月 トキ保護センターが現在の「佐渡トキ保護センター」に移転

      98年11月 中国の江沢民国家主席がトキのペア贈呈を表明

      99年 5月 中国からのペアに「優優」誕生。国内初の人工ふ化成功

    2003年10月 日本生まれの最後のトキ「キン」死ぬ

      07年 7月 飼育トキ、100羽を突破

         12月 4羽を分散飼育地の東京都多摩動物公園に移送

      08年 9月 10羽を初めて試験放鳥

         12月 メス1羽が死んだのを確認

             新たな分散飼育地に3自治体を決定

     (佐渡トキ保護センターの資料などから作成)

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