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閉鎖病棟から

1(その1) 自由奪う抑制帯 精神科、出られぬ認知症

「抑制帯」で車いすに腰回りを固定されているチャコさん。「亡くなった母が夢に出てきて、元気出せよって言ってくれた」=神奈川県三浦市の福井記念病院で、手塚耕一郎撮影

 精神科病院に入院する認知症の高齢者が増えている。激しい精神症状が治まればすぐに退院できるはずだが、ほかに行き場がなく長期入院を続ける患者も多い。何が起きているのか。神奈川県のある閉鎖病棟に密着した。

     鍵のかかった分厚い鉄の扉が開いた。福井記念病院(神奈川県三浦市)の認知症専門病棟に初めて入ったのは4月中旬だった。1992年に開設され、幻覚や妄想、暴力が目立つ人たちが症状を抑える治療を受ける。回廊式の廊下を進むと、ナース室から見渡せるホールに50人ほどのお年寄りが集まっていた。ナース室の近くは、入院直後や症状の激しい人が多い。最も離れた静かなテーブルから車いすの女性が記者を見つめている。

     隣に座ると東北なまりのか細い声で語り始めた。「(福島の)相馬の生まれでね」。83歳、身長142センチ。「ちゃっこい(小柄なこと)からチャコって呼ばれたのよ」。入院は1年半に及ぶという。話し相手欲しさからだろうか、それからは記者を見かけると控えめにそっと手を挙げるようになった。

     チャコさんは深緑色をしたT字形の「抑制帯」で腰回りを車いすに固定されている。介護施設では認められないが、ここでは転んで骨折してから、再び転倒しないようにという理由でつけられている。日中は食事も含めてその格好で過ごす。「足も弱ってもう歩けないのよ」。立ち上がる気力も衰え、ほとんど笑顔はない。患者の半数は同じように抑制帯をつけられ、自分では外せない。

     チャコさんがひどく混乱したり、暴れたりする様子は見られない。なぜここにいるのか記者は分からなくなった。看護師も「もう治療は必要ないと思う。寂しがり屋なので介護施設の方が合っている」と言う。症状が治まったのに退院できないチャコさんのような人は、病棟の3分の1に上っていた。

     「耐えることに幸(さち)がある。そう思うと少し楽になるのね」。チャコさんは祖母が教えてくれた言葉を何度もかみしめる。4月末、仲の良かった女性が退院することになり、「息子が迎えに来る」と喜ぶ姿を見送った。「私は永遠にここにいると思う。ここまできたらおしまい」。存在ごと消えてしまいそうな声だった。

     チャコさんにも息子がいる。記者はある日、元気かどうか見てきてほしいと頼まれた。「あんなに優しい子が1カ月も来ない。体を悪くしたんじゃないかと思うと夜も眠れないの」。記者のノートに震える字で長男への手紙を書いた。「連絡を下さい」

     実際は昨年末から面会がない。チャコさんの薄らいだ記憶をもとに家を探した。

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