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第2回 漫画「そばもん」 山本おさむさん

山本おさむ「そばもん」(小学館)

 漫画家はどう福島を描いたか。第2回は山本おさむさん(60)のインタビューをお届けする。

 山本さんは妻の両親の実家があった縁で福島県天栄村に約10年前に家を買い、職場のさいたま市との往復生活を始めたが、3年前の東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で、天栄村に住んでいた家族を埼玉県内に避難させた。自主避難生活を約2年間続け、現在は往復生活を再開している。この間の揺れ動く気持ちや自宅の除染、天栄村の米農家の様子などを「今日もいい天気 原発事故編」(双葉社)にまとめた。

 その後も福島県の食について継続的に取材を重ね、「ビッグコミック」(小学館)で連載中の「そばもん」では福島県産食材と放射性物質の問題を正面から取り上げ、話題となっている。山本さんは「福島県や福島産が危険か危険じゃないかといった議論は数値、データをベースにすべきだ」と話す。なぜ、福島での生活を再開したのか。福島と食を巡る問題などを山本さんに聞いた。【石戸諭/デジタル報道センター】

「原発事故後、気持ちは常に揺れ動いていました」

 −−「今日もいい天気」では揺れ動く気持ちをリアルに描いていますね。

山本おさむ「今日もいい天気 原発事故編」(双葉社)

 ◆震災前から「しんぶん赤旗」(「今日もいい天気」を連載)から何か描かないかと打診があったので、「いい天気」の続編にするか、それともまったく別の作品を描くかを考えていた時、東日本大震災と原発事故がありました。2011年5月には天栄村の生活をあきらめ、家族と自主避難を決めました。その後、僕の方から原発のことも含めた「いい天気」の続編をやりたいと提案しました。当時は原発を描くのは自粛ムードがありましたが、自分が当事者になった以上、記録として残しておきたかった。先方からOKが出たので、11年9月には原稿を描き始めていました。

 −−視点としては記録がメインだったのですね。

 ◆そうです。現在進行形の話になるので、通常のストーリー漫画と違って構成を決めて、ラストをどうするということは決められません。いわば行き当たりばったりで展開していく。まずは自分の自主避難の体験を描きましたが、それだけでは一面的になります。連載では福島に残った人の話、強制的に避難させられた人たちの話にも触れようと決めていました。しかし、自分のことは材料がありますが、残った人や強制避難の人たちをどう取り上げるかは着手した時点では決まっていなかったのです。

 −−慌てふためく様子や気持ちの揺れも率直に記されています。

 ◆僕は原発事故が起きたとき、「シーベルトって何だ」「ベクレルって何だ」という状態でした。テレビを見ていたらあんまり「安全」「安全」を繰り返すので、さすがにおかしいと思って小出(裕章・京都大助教)さんの番組なんかを聞いて、とりあえず「危険」だと考えようと暫定的な方針を決めました。そこで避難もしましたが、放射能の知識が追いつかないので、どの立場が正しいのか分からないのです。

 事故後の被ばく状況について現状が「安全」だという立場の本も、「危険」だという立場の本も両方読みました。前の日に「安全」だという本を読むと「ちょっと心配しすぎかな」と思ったり、次の日に「危険」だという本を読むと「やっぱり危ないと思うことが必要だな」と思ったり、自分の気持ちが行ったり来たりしているわけです。

 犬の鼻血にしても、口内炎(「いい天気」に、山本さんが飼っている犬の鼻血、妻の口内炎について被ばくの影響を疑う場面がある)にしても、チェルノブイリ関連のホームページを読むと一致する症状が書いてあって、「これは被ばくのせいでは」とびっくりしてしまいました。でも、安全だという本や論文を読むと「この程度の被ばくの線量では起こりえない症状だよなあ」と思ったりして、常に揺れ動いていました。何かを主張するよりも揺れ自体を描きました。それが記録です。

「原発の賛否と、人間の健康の問題、福島県産食材の問題は切り分けて考える必要がある」

 −−立場を決めないことを表現することに葛藤はありましたか。

 ◆昔から、一つの情報だけに頼るのはやめようと決めていました。無知だとすぐ最初に出合った情報に染まってしまいます。

 何に関しても、ある論があれば、それに反対する論を調べています。だから放射能問題に関してもさまざまな情報を集め、安易に立場を決めない、という態度で接してきました。今も僕自身が専門家じゃないから正確な判定はできないと思っています。論争があることは分かるけど、どっちが正しいというのは断定できません。

 反原発かどうか、と聞かれると僕は反原発です。事故後、大熊町の町議さんに同行して取材として大熊に入りました。この時に思いました。僕は原発を消極的であれ、容認してきたのです。特に反対もしていませんでしたし、東京、埼玉で何の疑問もなく原発で作った電気を使ってきました。そのことを人に問うのではなく、まず自分に問おうと。原発事故で強制避難した方はこれ自体が被害です。僕も家を除染したり、避難したりした。これも今回の事故の被害だと言えます。事故で甚大な被害をもたらす原発をこれからも容認しようとは思いません。

 それでも、反原発だから放射能と健康の問題について危険寄りの見方をしたり、原発推進だから安全寄りの見方をしたりするといったことには賛同できないのです。原発の賛否と人間の健康の問題、福島県産食材の問題は切り分けて考える必要があると思っています。福島産を放射能の恐怖のスケープゴートにしてはいけないのではないでしょうか。反原発と反福島産はまったく別で語るべきです。

「なぜ福島県産だけを避けるのか」「イメージで放射能を避けられたらこんな楽なことはない」(「そばもん」第134話より)

「『そばもん』の主人公のセリフは私の考え方です」

 −−「いい天気」でも「そばもん」でも事故後、天栄村に残った米農家らによる米栽培研究会がどのように放射性物質が検出されないよう米を栽培し、成功したかが紹介されています。

山本おさむ「そばもん」第134話より=「ビッグコミック」(小学館)5月25日号掲載

 ◆実は僕は同じ村に住んでいながら、この取り組みを知らなかったのです。天栄村では事故後すぐに作付けして、放射性物質検出ゼロを目指してお米を作ろうという取り組みが始まっていました。11年末だったと思いますが、テレビで研究会を取材したドキュメンタリーを見て、自分の村でこんな取り組みがあるのかと驚きました。

 たまたま、その農家の講演会が埼玉県内で開かれるという告知を目にして、出かけました。DVD「米の放射能汚染ゼロへの挑戦 2011年福島県天栄村の挑戦」(桜映画社)を見て、農家の方に「ぜひ、これから取材に伺います」とお話させていただきました。そこで追跡取材が始まり、漫画につながりました。

 −−「そばもん」では3・11に言及した回はありましたが、原発事故と福島の話を直接取り上げたのは今回(「ビッグコミック」2014年3月25日号から掲載中)が初めてです。

 ◆震災3年に合わせようという意図はありませんでした。いつかは会津そばをテーマにした話を描こうと思っていたところに、去年、旧山都町(現福島県喜多方市)から講演に来てくれ、と依頼があったのです。ならば講演と一緒に取材をしよう、と決めました。取材の際、地元の方が「そばが全然売れない」という話をしてくれました。いま、会津そばを取り上げるなら原発事故、放射能の問題は避けては通れないと思ったのです。

 実は「そばもん」で放射能と食の問題を取り上げようという意図はありませんでした。「いい天気」で描きましたからね。それでも、取材すると風評被害の問題は解決していない。だったらスルーせずに描こうと思ったのです。「いい天気」の後も放射能の問題はチェックしていました。どうせ描くなら最新の福島県産食品の検査情報も盛り込んで話に入れたかったのです。

 −−主人公は福島県や産地で避けるのではなく「自分は1キロ当たり○○ベクレル以上は食べないと数値を挙げて言うべきだろう」と述べていますね。

 ◆「そばもん」の主人公のセリフ、意見は全て私の考えを置き換えています。僕も村に帰って福島産を食べていますからね。一時期はチェルノブイリを引き合いにものすごい汚染になると言われていましたが、そんな状況にないということは数値が示しています。

 福島県、福島産が危険か危険じゃないかといった議論は数値が全てです。福島産が危ないというなら、何ベクレル以上が危ないのかというのを言ってほしいと思っています。人が判断する以上、数値を基に話さないと何も決められない。数値抜きにイメージだけで印象を語ることが風評被害の根にあるのではないでしょうか。

 福島産などを危険視する意見は自主避難をしている間にずいぶんと読みました。反原発の方でも危険視する声はあります。この二つを結びつけるのはよくないと思います。帰るにあたって、数値的な根拠を探しました。イメージで放射能を避けられるわけではありません。

「除染も効果があります。数値を根拠にしないで福島県全域が危ないという話は心外です」

 −−何を根拠にしたかを教えてください。

 ◆僕の課題は空間線量と食べ物でした。空間線量はセシウム134の半減期が2年なので、自然と下がります。継続的に数字を見ていても、線量は低くなり続けている。あとは除染です。

山本おさむ「そばもん」第134話より=「ビッグコミック」(小学館)5月25日号掲載

 除染は効果がないという人もいますが、十把一からげにそんなことは言えません。まだ高いところもありますが、除染の効果が出ているところもあります。僕の敷地では効果がありました。自分でやってみたのですが、雨どいの下で毎時27マイクロシーベルトだったけど、除染で2マイクロシーベルトちょっとまで下がりました。

 数値を根拠にしないで福島全域が危ないという話は僕には心外です。数値を基にしているから、帰還困難区域などが整理されているわけです。福島県でも線量が低い地域はあります。

 食べ物に関しては地元紙に掲載されている食品の放射性物質の数値、検査結果を読んでいました。全国紙では掲載されないようなデータも地元紙では報道されています。基準値超えもたまにありますが、「検出せず」の食品がほとんどです。全てが数値として発表されているわけです。空間線量と食べ物が大丈夫なら、僕は福島での生活を再開できると思って帰った。これは主張と関係ない、数値を見た上での行動です。

 −−確かに今回の話はデータや図表が多いです。「そばもん」にあるように秋そばにしても、検出限界値1桁ベクレルで「検出せず」です。

 ◆こうした事実がまだ読者に伝わっていないかな、と思い数値を挙げています。事実をデータと一緒に示さないといけないと考えました。取材を基に話を描く以上、データやきちんとした学説で裏付けられないことを印象だけで描かない、ということは心がけています。僕が取材した天栄村の米農家や現地の方に学ばせていただいたこと、農家の方が研究してきたことの成果がデータで出ています。これを示そうと思いました。

 あとは、できるだけ一次情報にあたって、数値をもとに一人一人が福島産を食べるか食べないかを選択すればいいことだと思います。

「事実やデータを無視して主張先行で話を展開すれば、批判を受けるのは当然です」

 −−主人公はただデータを挙げて安全だと言うのではなく、生産者の取り組みについて「数値にはできないが、信頼している。だから、ありがたくいただく」という話もしています。

 ◆僕の実感を込めました。天栄村の米農家が研究して、1キロ当たり10ベクレルの検出限界値以下のお米を作ってくれたり、生産者の努力があったりしたおかげで僕は帰れたのです。ありがたいですし、恩人です。だから、感謝を込めて、ありがたくいただくのです。「コープふくしま」の陰膳(かげぜん)調査(コープふくしまは組合員に1人前余計に作ってもらい、放射性物質の測定結果を公表している)も調べましたが、日常の食事からは、ほとんどセシウムが検出されていないという事実もあります。食べ物が汚染されていたら、何のために戻るのかと考えてしまいます。

 こんな話もありました。僕が福島に戻って、旬のタケノコでタケノコご飯を食べようと思い立って買いに行ったのです。そうしたら「今、計測中で出していません」というお店ばかりで、やっと探せたのが山口県産タケノコの水煮です。そのくらい福島では測って出すというのが徹底しています。僕の家も梅の実を測ってもらったことがあります。その時は5ベクレルでした。「隠蔽(いんぺい)している」という人もいますが、隠しているとは思えません。

 −−「そばもん」は何かを主張するより、事実を見るという姿勢ですね。

 ◆多様な事実を積み上げていくことで主張が出てくると僕は思っています。主張が事実より上なわけがないですよ。主張にあわせて取材してもしょうがないのです。事実から入ることが大事です。事実やデータを無視して主張先行で話を展開すれば、批判を受けるのは当然のことです。

 −−今後の「そばもん」の展開は。

「そばもん」「今日もいい天気 原発事故編」の漫画家、山本おさむさん=石戸諭撮影

 ◆「いい天気」以降、震災後から3年が経過した僕の考えは「そばもん」の中で全て語っています。放射性物質とそばの話は今回の話で終わりにして、あとは通常の「そばもん」に戻ります。これから会津そばの話がいっぱい出てきますよ。

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