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そのつぶやきは法律違反? 注意点を深澤弁護士に聞く

弁護士の深澤諭史氏=提供写真

 思わず書いた他人の悪口、良かれと思ってリツイートして拡散させた「マスコミが書かない話」−−。インターネットの進歩で誰もが情報を全世界に発信できる時代ですが、そのつぶやきは法律上、問題はないのでしょうか?  法律違反にならないよう、どんな点に注意すればいいのでしょうか。ネットに関する法律やルールを紹介する「その『つぶやき』は犯罪です 知らないとマズいネットの法律知識」(新潮新書)の執筆者の一人、深澤諭史弁護士に聞きました。【聞き手・馬場直子/デジタル報道センター】

 −−深澤弁護士は4人の筆者のうち唯一のツイッターユーザーでアカウント(@fukazawas)を持っています。なぜ、この本を書こうと思ったのですか。

 深澤氏 ネット関連の相談はとても増えていますが、一番多いのが掲示板などへの書き込みについてです。会社であれば「ブラック企業」と書かれて採用にも差し支えが出ているとか、個人であれば自分の個人情報や悪口が書かれているというものが多いですね。また、書き込んだ人を発信者と言いますが、事務所に相談してくる発信者の中には「私がなぜ責任を問われるのか」「悪いことかもしれないが、そんなに責任は問われないのではないか」「相手にも悪いところがあるから自分は悪くない」と言う人もいます。私は、そもそも常識の問題であるし、そうでなくてもネットで検索すればトラブルや相談の事例が出てきているので参考にできる。それを読んでやってはいけないことは分かるはずだと思っていました。しかし、実際に調べるとネット上の法律に関するアドバイスにはひどい回答が多い。ある書き込みが違法かどうかという質問に対し、専門家でない上、根拠はよく分かりませんが、信念からでしょうか、安易に「大丈夫です」と答えている例もありました。人は都合の良い情報に飛びつきやすく、こういった不確かな情報が幅を利かせる状況になってしまうようです。法律問題を取り上げた新聞記事が、ネット上の間違った情報と同じ内容になり、話題になったこともありました。本の中でも書いていますが、こういう無責任な「神話」を退治することも目的の一つです。

 −−ツイッターなどソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で「加害者」になってしまう例はどのようなものですか。

 深澤氏 中傷や脅迫を書き込むケースが全体の9割近くになります。動機は大きく3パターンに分けられます。一つが「恨み型」です。誰かに恨みがあり、それを晴らすために書き込みます。嫌いな上司や同僚に対するもののほか、訪問先の従業員の態度が悪かったといったケースですが、件数自体は思ったより少ないのです。こんなひどいことを書くのだから、さぞかし深い恨みがあるのだろうとも思いますが、実際はそうでもない場合が多いですね。書き込みの多くを占めるのは、残り二つの「義憤型」や「ノリ型」です。義憤型は、社会的に非難されるような行為をした、もしくはしたと自分たちが思い込んでいる人を中傷します。法律上はそうではないのですが、相手が悪いのだから、自分たちの行為は許されると思い込んでしまうのが特徴です。ノリ型は、ネットで活発に情報発信するなど目立っている人に言いがかりをつけるものです。嫉妬や「何となく、いけ好かない」といったことが書き込む理由です。

 −−発信者が弁護士に相談を持ち込むのは、どういった段階が多いのでしょうか。

 深澤氏 基本的には、訴えられた、警察から呼び出しがきた、捜索されたという段階で多いですね。

 −−いろいろなパターンがあるようですが、法的責任が問われる書き込みとは、どんなものですか。

 深澤氏 パターンはさまざまです。会社に対し「ブラック企業」「残業代を支払わない」と書き込むものや、個人に対しては、過去に犯罪をしたとか、男女関係をあげつらうものがあります。中傷は名誉毀損(きそん)罪に、「死ね」などの書き込みは脅迫罪にそれぞれ問われる可能性があります。

 −−もし書き込みが原因で相手とトラブルになったら、どんな事態に発展するのでしょうか。

 深澤氏 中傷した場合、民事と刑事の両面で責任を負う可能性があります。民事で相手からの損害賠償請求が裁判所に認められれば、相手側にお金を支払って賠償する義務が生じます。刑事では、書き込みの内容がひどければ逮捕されることもあり得ます。書き込みをしたのが事実だった場合、刑事の処分は大きく3種類あります。まずは「起訴猶予」。初めての犯行だったなどのケースで、起訴したら有罪だけれども、今回は反省しているので処罰を求めないというものです。前科にはなりませんが、「前歴」として捜査機関に記録が残ります。検察庁が罰を与えるべきだと判断した場合などは「略式命令請求」や「公判請求」となります。略式命令請求は容疑者が罪を認めている時に、簡単な手続きで罰金刑が科されるものです。行為がより悪質だったり、問われた罪の内容を争ったりすると、公判請求といって公開の法廷で裁判を受けることになります。最初なら罰金刑となることが多いでしょうが、何度も繰り返したりすると、刑務所に行く可能性が高くなるというわけです。

 −−ツイッターを見ると「バカ」などはよくありますよね。

 深澤氏 発信者情報の開示請求や賠償請求は手間も時間もお金もかかります。多くの人がそこまでやらないので、問題になっていないだけです。「バカ」と書かれただけでは、法的責任を問うことは難しいケースもありますし、弁護士に依頼すると何十万円もかかるような請求を誰もがするでしょうか。とは言っても、賠償請求される可能性がないとは言えません。中傷され続けた人が、目立った発信者1人だけを選んで賠償請求し、その結果を公表して「一罰百戒」の抑止効果を狙うこともあり得ます。現に、山のような中傷が寄せられていたのに、法的措置が取られた途端に中傷がやんだというケースは数多くあります。相談に来る人の中には、被害者であれば「たくさんあるがこの書き込みは特にひどいので、これに対してだけ法的措置をしてほしい」という方もいますし、逆に加害者であれば「他にもたくさんいるからノリでやったが、なぜ自分だけが責任を問われるのか分からない」と疑問を口にする人もいます。

 −−具体的に、どのような言葉を書き込むと法律的に「アウト」になると言えますか。

 深澤氏 安全策で言えば、面と向かって相手に言えないようなことは書かない方がいいでしょう。ただ、私もツイッターで労働法制や司法制度改革について手厳しい意見を書く時があります。もちろん、批判もあることを認識して書いています。よく勘違いされているのは、表現の自由とは批判されない自由ではありません。批判する表現の自由もまたあるのです。私も「こんな弁護士淘汰(とうた)されてしまえ」といわれたことがあります。ただ、批判が不穏当であったり、人格攻撃に及んだりすると、違法になる可能性が出てきます。

 −−ツイッターの利用者からは書き込みが犯罪になるのは窮屈だなどの問題提起も出ています。

 深澤氏 そういう人たちに逆に聞きたいのは「ネット上のことだからといって、犯罪にならないような社会はどうなのでしょうか」ということです。あなたのプライバシーや恋人の盗撮写真が掲示板に貼ってあったらどう思いますか。つぶやきや掲示板などネット上の書き込みは、仮想空間での出来事ではありません。現実に生きている人がそれを書き、読んでいる。現実社会の一部なんです。ネットに書き込まれたことは不確かだとの見方もありますが、判例では否定されています。

 −−それはどんな判例ですか。

 深澤氏 ある飲食店がカルト集団と関係があるなどとホームページに掲載したことが名誉毀損罪に問われ、最高裁はネット上で個人が情報発信する場合も軽率な行動で他人に被害を与えることは許されないと判断しました。ポイントは五つあります。(1)インターネット上の情報でも、それを信用する人はいる(2)不特定多数が見るので被害が深刻になるケースもある(3)ネット上で反論しても被害を回復できるとは限らない(4)これまで指摘した(1)〜(3)を考えると、他の情報伝達手段と分けてネット上の情報発信だけ責任を軽くはできない(5)一方的な意見を集めて信用したからといっても責任は免れない−−です。

 −−法規制の在り方は、どうしていくべきなのでしょうか。

 深澤氏 インターネット時代になってから、ネット上の中傷防止や表現規制に関する法改正はほとんど行われていません。つまり、現在の名誉毀損の枠組みは活版印刷時代のものとほぼ同じです。以前は情報を発信したり、主張を表現したりするのが新聞社や出版社だけだったので、書いた内容に対する責任が重くなるのは仕方がないとの考え方が社会にありました。もちろん、そういった企業は、慎重に表現をし、裏付けも十分に取り、時にはリスクを覚悟して表現をしてきました。ですが、ネットにおける個人の表現については、そのような事情はありません。実際、今回の著作に対して「何でもかんでも犯罪になってしまうではないか」という反応がたくさんあります。私も反応の一部には納得できるところがあります。一般市民による大勢に対する表現が可能になったことで、新聞社など以前はプロにしか関係のなかった法律が、一般市民に適用されるようになりました。一般市民にとっては少し厳しすぎるのではないかと思えるケースも出てきています。今後、ネット上の表現のルールについて啓蒙(けいもう)や教育が進められることも重要ですが、同時に十分な議論を通じて法改正も検討されるべきかもしません。

 ふかざわ・さとし 東京大大学院法学政治学研究科法曹養成専攻修了。第二東京弁護士会登録。服部啓法律事務所パートナー。インターネット上の取引トラブルや誹謗(ひぼう)中傷、風評被害を中心に扱う。

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