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登山

難易度ランクは適切か 歩いて確かめた

西穂高のルート
信州 山のグレーディング

 安全な登山の普及・啓発活動をしている「長野県山岳総合センター」(同県大町市)が登山の難易度をランク付けした。名付けて「信州 山のグレーディング」。日本の屋根、長野には北・中央・南アルプス、八ケ岳など全国屈指の人気山岳地帯があり、大勢の登山者でにぎわうが、遭難事故は後を絶たない。事故を防ぐためには、実力に見合った山を選択することが第一歩。格付けすることで、実力に見合った山が見つけやすくなる。「グレーディング」は、長野県内外の100ルートをランク付けした。では、そのランク付けは適切だろうか。実際に北アルプスの人気ルートを歩き、確かめてみた。【生活報道部・小野博宣/毎日新聞山の会所属】

     歩いたのは、西穂高岳(2909メートル)だ。スターぞろいの北アルプスにあってはやや地味な存在だが、上高地からものこぎりの歯のような鋭峰を見ることができる。山頂までは岩稜(がんりょう)帯が続き、緊張感を強いられるスリル満点のコースだ。

     「グレーディング」はその山を歩くために必要な体力を10段階、難易度を5段階に分類している。西穂高岳は格付けが「5D」。「5」は体力度で10段階の下から5番目を指し、「1泊以上が適当」とされる。

     「D」は5段階のうち上から2番目に難しいという意味で、「上級者1」に分類される。少々長いがDの定義を引用しよう。「登山道は厳しい岩稜や不安なガレ場、ハシゴ・くさり場、また、場所により雪渓や渡渉カ所があり、手を使う急な登下降がある。ハシゴ・くさり場の補助は限定的で、転落・滑落の危険カ所が多い……岩場、雪渓を安定して通過できるバランス能力や技術が必要となる」とある。

     簡単に言えば、「一筋縄ではいかないし、入門者、初心者は歩いてはダメ!」ということだ。

     8月上旬、新穂高ロープウェイの西穂高口駅に降り立ち、山小屋の西穂山荘を目指す。山荘までは1時間程度の樹林帯歩きになる。

     西穂山荘は、北アルプスで唯一、通年営業をしている小屋だ。定員は250人と大きく、レストハウスで提供される「西穂ラーメン」は名物として知られる。

     だが、難点は人気の小屋ゆえの詰め込みにある。予約して訪れた私たちのパーティーは12人。あてがわれた部屋は8畳程度の個室だった。布団1枚に1人というわけにはいかないが、それなりに余裕がある。「ゆっくり寝ることができそうだ」と思ったのもつかの間、予約なしの4人組が飛び込んできた。

     8畳程度に16人の男女はきつい。足と頭を互い違いにして横になったが、人の足が顔の左右にある。寝返りも十分にうてない。結局翌朝に疲れを残してしまった。

     予約なしの登山者を受け入れなければならないのは、緊急避難施設も兼ねた山小屋のつらいところだ。しかし、あえて暴論を言わせてもらえば、完全予約制にするか、予約した者と予約なしではサービスに差をつけることを提案したい。

     完全予約制で布団1人1枚を確約する山小屋はすでにある。また、それを検討する経営者も現れている。差をつける案は例えば、予約した者はゆったり眠れるが、予約していない者は食事の終わった食堂で雑魚寝……などが考えられる。

     安全登山を考えると、やはり「疲れを残さない」ことは大切な要素だ。狭い山小屋で一睡もできなければ、体力、集中力に影響が出るのは当然と思う。山小屋の利益に直結することだが、関係者の皆さんにはぜひ検討してもらいたいと思う。

     閑話休題。3日午前4時に小屋前に集合した。すでに大勢の登山者が準備に余念がない。

     私も大型ザックを小屋に預け、小型のサブザックを取り出した。ヘッドランプ、水、行動食、防寒着、携帯電話、カメラ、貴重品だけをサブザックに放り込んだ。

     午前4時半、出発。ヘッドランプで目の前を照らし、急な上り道をゆっくり進む。前後には大勢の登山者が黙々と歩みを進めていた。

     最初に目指すのは、西穂独標(2701メートル)だ。真夏とはいえ、2500メートルを超えた稜線は寒い。防寒着のフリースを着込む。午前4時過ぎには、空が白んできた。ヘッドランプの明かりを消す。

     急勾配を越えると、岩場が出てきた。もうすぐ独標だ。山頂直下は険しい岩稜となっている。両手を使い、よじ登る。小屋を出て1時間半、最初の目標である独標に着いた。もう夜は明けた。大勢の登山者が周囲の景色を眺めている。

     ここからが「5D」コースの核心部となる。西穂高岳までは1時間半程度の道のりだが、険しさはさらに増す。平らな登山道はほぼない。ヘルメットのベルトを点検して、一歩を踏み出した。

     岩場を歩く時に、手袋をする人としない人がいる。私は、登山中はほぼ手袋はしないので(もちろん厳冬期は必要)、ここでもしなかった。そのために意外なことに気づいた。

     当たり前のことかもしれないが、夜明け前後の岩は冷たい。全く想像もしなかったことだ。岩角をつかんで体を支え、すうーと足を伸ばす。体全体が一歩前進する。また、別の岩をつかみ……と繰り返しているうちに、手がかじかんできた。「このままだと感覚がなくなるかも。まずいな」。手袋は必要ないと判断して、持ってこなかったのだ。

     しかし、心配もすぐに終わった。太陽が昇り、岩と体が温められると、手の寒さは消え去った。

     「夜明け前後の岩は、手がかじかむほど冷たい」などとは、どの登山本にも載っていない。やはり現場に来て、初めてわかることもあるのだ。今後は防寒用の手袋を、どんな場面でも忘れることはないだろう。貴重な体験をした。

     岩場をよじ登り、岩に抱きつくように降下する。じりじりと高みに移動し、展望は開けてゆく。左手に見える、緑の笠ケ岳と青空のコントラストが目にまぶしい。上昇気流に乗って、糸くずのようだった積雲が渦を巻き、巨大な綿菓子のようになって岩肌を湧き上がってくる。

     午前7時前、斜度のきつい岩壁を慎重に登り、ついに西穂高岳に立った。狭い山頂には大勢の登山者たちが、満足げな笑みを浮かべてくつろいでいた。私もその中の一人となった。

     実は、西穂高岳は4度目の挑戦でやっと登れた。前3回は悪天候で敗退していた。今回の山行のリーダー、太田昭彦ガイド(歩きにすと倶楽部主宰)は「4度目の挑戦? そんなこともあるんだ」と笑顔で握手してくれた。

     難度「5D」の登山道は歩きごたえ十分だった。技術的に難しいとは感じなかったが、「絶対に転んではいけない」場所は随所にあった。そこを通過する緊張感は、5Dにふさわしいと思う。

     山の難易度を格付けしたこと、つまり「見える化」したことは大きな意味がある。何しろわかりやすい。富士山で必ず見かける装備不足の人々や入門者も、難易度を事前に知ることができれば、無謀な登山は思いとどまるかもしれない。

     西穂高岳の北方には、ジャンダルム(3163メートル)がドーム状の威容を見せている。ここを通過して、奥穂高岳(3190メートル)に至るルートは、国内の一般登山道としては最難関とされる。格付けは……されていないのだ。あまりにも危険で、ランク外ということだろうか。

     また、私の実力では、とても挑戦できない。憧れの山として、今は眺めておくだけにしよう。

    穂高に沈む太陽=2014年8月2日午後6時50分、小野博宣撮影
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