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日本のバイラルメディアはまだ未成熟な段階 田中善一郎さん

田中善一郎さん

 米国で「バイラルメディア」と呼ばれる新しいタイプのメディアが昨年後半から急成長している。フェイスブックなどソーシャルメディアで利用者が共有したくなる情報を発信、拡散するもので、大手のバズフィードは月間1億5000万人もの利用者を誇る。日本でも今年に入って次々と誕生しているほか、バズフィードも年内の日本上陸を発表しており、次世代のメディアとして注目の的だ。日経コミュニケーションなどの編集長を務め、内外のメディア情報についてのブログ「メディア・パブ」を主宰する田中善一郎さん(69)に話を聞いた。

     −−バイラルメディアとはどういうものなのか。

     田中さん 今のアメリカと日本では(バイラルメディアの)段階が違うこともあり、意味が違う部分もあるが、アメリカでは去年の半ば以降、非常にブームとなった。基本的にはソーシャルで受け、評判になって拡散するようなコンテンツを配信するようなメディアをバイラルメディアという。

     それまでも、ネットユーザーは情報収集したり、ほしい買い物をしたいときはネット上の口コミの影響を受けていた。それが去年ぐらいから急激にバイラルメディアが立ち上がってきたのは、フェイスブックの影響がすごく大きい。

     どんなサイトでも、どこから誘導してくるかというのは重要なことで、今までは検索エンジンを経由してトラフィックを増やすなど、いろんな方法があったが、フェイスブックが浸透すると、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)経由のトラフィック(情報量)が増えてきた。人々が物を買うときや行動するときに、ネットの友達の意見に従うようになった。そういう人たちの間で話題になるような情報や記事を発信すれば、ますますトラフィックが増えていく。

     バズフィードは完全にフェイスブックに特化して、成功した。記事そのものをいかにソーシャル系のユーザーが気に入るような、話題にするような内容を発信するか、科学的に仕組みを作ってやりはじめた。それが成功したので、バズフィードもどきのサイトが続々と出てきた。4、5人ぐらいで作ったバイラルサイトも2、3カ月で1000万人のユニークユーザー(実際の利用者)が得られるようになった。

     −−ツイッターも影響があるのか。

     田中さん バイラルメディアでは、ツイッターはトラフィックの誘導はそんなに大きくない。ツイッターは速報性があり、ニュースサイトはツイッターを利用している。ニュースサイトはツイッター経由の流入は多いが、バイラルメディアはツイッターは少ない。バイラルメディアは速報よりも賞味期限の長いコンテンツが多い。動画も多く、フェイスブックで簡単にシェアできる。そのほかにもピンタレストやタンブラーといったSNSもあるが、フェイスブックが一番多く、拡散しやすい。

     −−どんなコンテンツが人気があるのか。

     田中さん 人間の感情に訴える、笑いや涙を誘ったり、かわいいなどといったコンテンツが多い。ニュースはあまりメインではなかったが、後から取り上げるようになった。どちらかというとニュースよりも賞味期限の長い記事。バズフィードで一番人気があるのはクイズ。その次がリスト記事と呼ばれる、「世界の行きたい観光地●カ所」といったまとめ記事で、リスティックという言葉ができたほど。

     そういったコンテンツは動画を集めて簡単に作れるので、あっという間に広がった。日本でも同じような手法で立ち上がっている。大きな問題は素材を外部から持ってきて加工することで、他のサイトから盗用している場合も多い。バズフィードも人気のライターが40本ほど盗用していることがわかり、解雇された。その後、過去の記事を4000本も削除した。

     −−信頼性の問題が出ているのか。

     田中さん 広告ビジネスでは信頼性が重要。それでバズフィードも外部からのコンテンツをチェックしはじめた。もともとネットサービスが始まるときはそうした問題があり、ユーチューブも著作権が問題となった。しかし、だんだんそうした問題に対応して、認められるようになった。バイラルメディアもその段階にある。

     −−バズフィードがピュリツァー賞記者を採用するなど、自前のコンテンツを作ろうとしているそうだが。

     田中さん バイラルメディアといっていろんなレベルがある。ただカット・アンド・ペースト(切り取りと張り付け)をやっているのが一番多いが、ライター自身が、目利きでニュースを集めるキュレーション的作業で、価値のあるコンテンツにしているものもある。調査報道も、データをいろいろ集めて、それを元に取材して作っていく。オリジナリティーの高い優れた記事を作っていこうということだと思う。

     今まではPV(ページビュー)稼ぎのために、ペットとか景色の記事などが圧倒的に多かったが、そういう記事は集客になるが、利用者は飽きっぽい。だから、バイラルメディアはトラフィックの変動が大きい。固定客を増やし、サイトにとってビジネスになるユーザーに来てもらうにはニュース系の記事のほうがよい。信頼性、影響力もニュース記事のほうがある。

     今の若い人たちは新しい情報はソーシャル経由が多いので、それに合った見出しの付け方、テーマといったものはバイラルメディアのほうが分かっている。今までのニュースメディアは、自分たちが重要と判断した記事を提供してきた。そうではなくて、実際のユーザーが望んでいる視点でニュースを配信していこうとしている。

     既存メディアの方も、ニューヨーク・タイムズが、ハフィントンポストやバズフィードを競合相手としてリポートにまとめた。ハフィントンポストも広義ではバイラルメディアの性格を持っている。ニューヨーク・タイムズは過去の記事で埋もれているものを発掘するとともに、新しい記事と組み合わせて、まとめたようなコンテンツをつくろうとしている。既存メディアはバイラルのほうに行こうとして、バイラルはニュースのほうに行こうとしている。向かう方向は一緒ではないか。

     問題は既存メディアは自分たちの記事しかまとめられないこと。バイラルメディアはネット上のどんなところから持ってこられる。キュレーションするためのツール、サービスも新しいものがどんどんでている。

     −−日本のバイラルメディアの見通しは。

     田中さん 日本でも、たくさんのバイラルメディアが新設されている。だが、無断流用などアメリカで起きたような課題も出ている未成熟の段階だ。オリジナルのコンテンツを作ろうとすると時間とカネがかかるため、なかなか成熟できていない。バズフィードの日本版が年内もスタートする予定でもあり、質の低いものはいずれ淘汰(とうた)されるだろう。

     また、既存メディアでは、取材をするのは好きだが、キュレーション的作業が好きという人は少ないのではないか。過去のデータを集める技術はどんどん出ており、そこに目利きの人が加わればすごいコンテンツができるのだが。

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