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「強くて優しい」新しいリベラルが必要 NPO代表理事、駒崎弘樹さん

こまざき・ひろき 1979年東京都生まれ。慶応大卒業後、2005年4月に全国初の訪問型・共済型病児保育サービスを立ち上げた。現在、NPO法人フローレンス代表理事

 日本の社会起業家のフロントランナーで、病児保育などを手がけるNPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹さん(35)がツイッターやフェイスブックで「新しいリベラル」のあり方について発信し、話題を呼んでいる。駒崎さんがなぜ既存のリベラル勢力や保守勢力ではなく、あえてリベラル像のアップデートについて発言するのか。新しいリベラルの具体像、アップデートのために必要な「草の根ロビー活動」とは何か。ロングインタビューでお届けする。【聞き手・石戸諭/デジタル報道センター】

    健全な対立軸は必要

     −−駒崎さんはツイッターやフェイスブックで新しいリベラルの必要性を語っています。狙いは何だったのでしょうか。

     駒崎さん 今のリベラル勢力の退潮とある種の腐敗について胸を痛めています。リベラルはいろんな課題−−例えば集団的自衛権や原発問題−−に対して、反対はしますが、ではどうしたらいいかの答えを持っていない。それゆえに説得力ある対案を示せませんでした。例えば、集団的自衛権にしても一足飛びに「明日にも戦争、徴兵制がやってくる」といった形で危機感をあおる。もちろん、その可能性が将来的にないとは思いませんが、今すぐにでもやってくるというような物言いで動員しようとしているように見えます。「俺の正義」をぶつけるだけでは共感が広がりませんし、何より議論が成立しません。

     リベラル勢力のあり方に僕が決定的に違和感を覚えたのは、東日本大震災と福島第1原発事故の後です。確かに原発反対は感情としては非常に理解できます。しかし、原発反対と「福島はもう人が住めない」「福島は終わった」といった福島dis(ネット上では「disる」=中傷する=といった意味で使われる)を結びつけたがる層が一定数いました。

     僕の妻は福島県の出身で、現場から支援にも関わりました。そこで見る福島と反対運動を通して語られる福島はまったく違うわけです。生活している人が実際にいるにもかかわらず、「全員避難」といった主張をする人もいる。ここで穏健的な人たちと社会的共感が切れる形になってしまったと思います。

     僕はNPOをやっているので、リベラルなほうだと社会的に位置づけられています。その僕ですら、やっぱり違うと思ってしまった。やはり、このスタイルの延長線上に未来はない。

     では政権与党の自民党はどうか。経済政策に関しては比較的賛成できる点もあります。しかし、子供は親が面倒を見るべきだ、といった伝統的な家族観を口にする議員も多い上、社会保障や社会的弱者に対する考え方も生活保護バッシングに乗っかるなど賛同できない点が多々あります。

     そうすると、権力は絶対に腐敗する以上、健全な対立軸は必要です。今の日本の政治状況は中道左派がぽっかり空いている。そこに新たな思想を確立しないといけないのではないか。僕の中ではそれを「新しいリベラル」と暫定的に呼んでいます。

     −−例えば、経済成長を否定せずに社会的弱者への再分配も考えていくとか、社会の多様性に目配りをするといったイメージでしょうか。

     駒崎さん そうですね。スローガンは「強くて優しい日本」とまとめられると思います。「強さ」は現実的な安全保障が必要といった議論です。現実にある脅威に対して、外交的な努力を通じて回避していく。その一方で、「優しさ」では、伝統的な家族観ではなく拡大家族観、例えば事実婚や夫婦別姓を認め、LGBT(同性愛者など性的マイノリティーの総称)が家族になるとか、里親として子供を育てるといったことも政策として位置づける。

     さらに日本に「経済成長はもういらない」といった考えではなく、成長を否定せずに再分配を考えていく。ただし、経済成長も何かを犠牲にするとか、ブラック企業的なものをはびこらせていくという発想ではなく、イノベーションが生みやすくなるよう無駄な規制を緩和していくとか、政府が創造性を邪魔しないようにする政策が望まれます。成長の在り方もいろんな形があるという議論をしたいのです。

     憲法も「直す部分は直していい」。しかし、憲法の基礎たる「国民の国家への命令」、いわゆる立憲主義的な考えは維持しましょうという考えです。「9条を守れ」的なノリも、憲法に硬直的な家族観を持ち込むとかも勘弁してほしいわけです。

    現場は白黒ではない。問題解決には妥協も必要

     −−なぜ、いまのタイミングで主張するのでしょうか。

     駒崎さん 僕は民主党に政権交代した後、鳩山(由紀夫)政権で半年ほど政治任用という形で内閣府非常勤国家公務員として官僚の仕事を経験しました。

     政策決定の現場を中からみると、思っているほど物事は白黒つけられないことが分かりました。政策を決めるときは、「みんなが不満かもしれないが一番マシなもの」をある種の妥協の末に生み出すことになる。これが政治だったのです。実際、リアリズムを肌で感じたことで、ただ理想を打ち出せば良いという考えはできなくなりました。

     例えば担当した寄付税制政策でも同じ問題に関心を持っている自民党議員と民主党議員の差よりも、民主党内の温度差の方が問題として大きかった。単純に党の問題に還元されない問題もあると知りました。

     ある社会問題をリアルに解決しようと思うなら、反対派の意見も聞き、財源の問題も考えた上で、必要なら100%の解決ではなくなりますが、妥協する必要もあります。そうしないと解決しません。反対するだけの姿勢は誰かを「悪」だと決めつけて簡単な方に逃げているように僕には見えます。「友−敵」図式に逃げ込んでいるようでは解決しないのです。

     どの政党も頼れない。ならば自分たちの世代から新しい思想を議論しないといけない、と思ったのです。

     僕も関わった政策でいえば、来年度から「子ども・子育て支援新制度」(http://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/)が始まります。「保育の市場原理が導入される」といった批判も寄せられますが、ではどうしたら待機児童問題を解決できるのか。僕の考えでは企業参入は大きな論点ではないのです。それより、まともな運営者が残る制度設計が大事。確かにこの政策で100%の解決とは思いませんが、必要なのは対案だと思います。

    草の根ロビー活動で民主主義をハックする

     −−もっとリアルに政治に関わる必要がある、とも主張していますね。

     駒崎さん 政治に対していろいろな関わり方があります。例えばデモはやってもいいと思いますよ。しかし、問題解決のために必要なのは前に進める議論だと思います。

     僕が勧めているのは、現実にある制度を活用した草の根ロビー活動です。解決したい社会問題について、政治家や官僚にパワーポイントなどで資料を作って持っていく。ちゃんとしたロジックなら意外と話を聞いてくれます。こうやって民主主義をハック(ハッキング=改変)していくことが大事だと思っているのです。

     これは自治体レベルでもそうですよ。陳情書一つで変わっていくことだってあるのに、多くの人は知らない。議会には「陳情」と「請願」という市民の声を届ける制度が用意されています。しかし、現実ではこの違いもみんな知らない。「陳情」は誰でも出せますが、「請願」には議員の紹介が必要です。誰を担いで請願を出すか、といったところも考えていけば、思いがけない成果を上げることもできるのです。

     政治家だって選挙で選ばれる以上、目に見える実績を探しています。そこにちゃんとまとめた請願書を持っていき、議会で取り上げてもらえば、住民としても問題解決。政治家も実績を作れる。ウィンウィンの関係にあるのです。これが分かっていない。

     政治家と対決姿勢で行くよりも、実際に解決すべき問題を訴え、彼らを使っていく方が問題解決のためにはずっと大事です。政治に声を届けるツールはあるのです。

     草の根ロビーの可能性はまだまだ過小評価されていると思います。特に伝統的な市民運動の世界ではそうです。シンポジウムや署名もやらないよりは良いでしょう。例えば近隣の公園を犠牲にする都道建設をやめさせるというケースで考えてみます。

     僕ならまずスーツを着て、東京都議会の与党都議をつかまえてロビー活動をする。そこから都知事に訴える機会を作ってもらいつつ、問題のキーマンに働きかける経路を作るところから始めます。あるいは、そこから超党派に働きかけ都議会で取り上げてもらうといったやり方も可能でしょう。ダイレクトに意思決定の現場に直接働きかける運動を展開することが大事です。さらにメディアにも働きかけ、自分たちの主張を訴える。記事に取り上げてくれたら、そのコピーを持って、さらに都議や都庁に働きかける。

     こうした方法論を共有することで、例えば安全な通学路を作るといった地元の課題を解決することもできます。リベラルはかつては批判によって立場を表明していけば良かったのでしょうが、批判だけでは何も生まれない時代に突入しているのです。

    新しいリベラルのイメージを「見える化」

     −−新しいリベラルが政治の場にあるというのは重要だと思います。潜在的に必要としている層は多いと思いますが、どう広げていけばいいのでしょうか。

     駒崎さん 僕も一定数はいると思います。新たな中道左派的な政党は必要ですが、どこが担うのでしょうか。僕にはそれ以上のビジョンはないです。

     先ほど、僕が話したパッケージに共感してくれる人たちは少なくない。「まあ、そういう日本なら良いよね」と思う人たちに向けて新しいパッケージを「見える化」して届くようにしておきたいですね。

     自分がどこまで関わるかは考え中ですが、民間の有識者が考える「明日の日本像」みたいな本かウェブを作って、共感できる人を広げていくことが必要だとは思います。

     「次世代が考える2030年の日本」というビジョンを作っていくのもいいでしょうね。そのころの日本政府は組織や世帯よりもより個人に対してセーフティーネットを張っている。会社に行くと子育てしながら、介護しながら働く人々が当然いる。働き方も柔軟で、友達には男女のカップルだけでなくLGBTもいて、同性カップルも子育てをしている。自閉症の子供もコミュニケーションに問題は抱えているが、しかし計算能力は高い。マイナスをゼロにするのではなく、1を10にする、能力を生かす教育にしていく……。

     こうなったらすてきだよねっていうビジョンも打ち出して、もっとわくわくするような未来を描く。その上で、必要な制度や課題を整理してどう改革するかといった議論が必要でしょう。アクションリストも作って政策を変えていければさらに良いですよね。

     −−確かに働き方やライフスタイルの話は関心が集まりやすい。ライフスタイルから政治を考えていくというアプローチは必要かもしれません。

     駒崎さん ライフスタイルを選ぶことはまさに「政治」です。そこから政治に入っていく経路が必要です。働き方なら労働基準法の問題にもつながるよ、とか。こんな生活になったらいいよなというイメージから入って、それを実現するための制度を作ろうとか、法律を変えようといった話ができるようになるといいですよね。実現したい社会像から実現可能な政治像を示す。共感できる人たちと一緒に、新しいリベラルを作るための議論を始めていければいいと思っています。

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