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高倉健さん死去

高倉健さん&近藤・専門編集委員/下 いつか俳優をやめたら…(2012年7月19日掲載)

ゆっくりと問いかけに答える高倉健さん=東京都内のホテルで2012年7月6日、小出洋平撮影

 俳優、高倉健さん(81)と、近藤勝重・専門編集委員の対談は、8月25日公開の映画「あなたへ」(降旗康男監督)を軸としながら、過去の作品、監督、共演者へと広がっていく−−。【構成・小国綾子】

     近藤 「あなたへ」で、大滝秀治さんと共演されました。「久しぶりにきれいな海を見た」という大滝さんのセリフ、その演技に感動したそうですね。健さんは、共演相手の演技に感じ入ることが多いのですか。

     高倉 実はあまりありません。こう言うと、今まで共演した人に失礼だけど。最初、大滝さんのあのセリフを台本に見つけた時、平凡過ぎると感じました。ところが、大滝さんがそれを発したとき、「ああ、この人がこういうふうに言うと、こんなに深い意味になるのか」と感じ入りました。

     近藤 雑学めいた話ですが、「女」という漢字に点を二つ打つと「母」になる。その「母」に「さんずい」をつけると「海」になる。二つの点は乳房だという説があります。妻の遺骨を海に流しにゆく今回の映画では、優しい海に「母」のイメージが感じられました。海に思い入れはありますか。

     高倉 そうですね。一度、沖縄県の西表島に住みたいと思って、土地を買い求めたことがありました。良い海でした。ちょうど映画「ブラック・レイン」(1989年)の頃でしょうか。あの海と、島の人々の心の豊かさとに夢中になりましてね。でも、あの地は俳優がチョロチョロと来て、住むような場所ではない、と気づいた。僕がやろうとしていたことは、自分が暮らしたいと思うほど感じていた島の人たちの心の豊かさとは正反対のことではないのか、と思って。それで、あきらめました。

     近藤 今回はビートたけしさんとも共演されました。

     高倉 今、最も共演したい人の一人です。不思議となにかいいんですよね。彼の最後の「道、間違えてしまいました」という言葉とか。

     僕は本当はたけしさんの役の方をやりたかったぐらいです。良い役ですよねえ。最初の方しか出ないのに、おいしいところを全部食っていっちゃう。いつか、たけしさんとは、がっぷり組んで仕事できたらと思います。

     そういう気持ちを口に出したほうがいい、と教えてくれたのは、6月末に亡くなった地井武男君でした。

     地井君とはずっと、いつか一緒に仕事したいと思っていました。男っぽいヤツだな、と。こんなことになるなら、もっと早く実現させておけばよかった。僕より10歳以上若いのに。僕の持ち時間も、段々と少なくなっていますから。

     近藤 「鉄道員(ぽっぽや)」(1999年)の撮影監督だった木村大作さんが「健さんは映画で自分の人生をやっていると思う」とおっしゃっています。役柄が人間・高倉健になっていく、と。自分自身の生き方と映画の役柄が一体化しているのでしょうか。

     高倉 いえ、ありません。それはまったくありません。

     近藤 映画は映画、だと?

     高倉 はい。

     近藤 与えられた役に沿ってこなしていっているだけ?

     高倉 はい。もう(苦笑しつつ)、ギャラさえ良ければどんな役でも。

     近藤 「森と湖のまつり」(1958年)の内田吐夢監督からは、「活字を読め」と言われたそうですね。

     高倉 「時間があったら活字(本)を読め。活字を読まないと顔が成長しない。顔を見れば、そいつが活字を読んでいるかどうか分かる」と。さらに、「おまえ、マルクス読んでるか」って。僕が「読んでない」っていったら、「ばかっ。それじゃ、おまえはいい俳優になれないな」と吐き捨てるように言われました。

     近藤 「南極物語」(蔵原惟繕監督、1983年)の時は、山本周五郎についての本を持ち込んだのでしたね。

     高倉 あの時は、デイパック一つしか南極の基地に持ち込めず、「男としての人生 山本周五郎のヒーローたち」(木村久邇典著)を持ち込みました。夜になると、繰り返しこの本を読んだ。赤線を何度も引いて。

     近藤 高倉さんのエッセーに書名を見つけると、私もすぐに同じ本を読みました。実に本をよく読んでいらっしゃる。

     高倉 いえいえ、たいして読んでいませんよ。

     近藤 健さんの何気ない言葉に「風」がよく出てきます。あるテレビ番組で、「いい風に吹かれたいですよ。きつい風にばかり吹かれていると、人に優しくなれないんです」とおっしゃっていました。

     高倉 いつか俳優をやめたら、風の良いところに暮らして、そこで死にたいなあ、と思います。いい風に吹かれながら死にたい、と。

     近藤 今度の映画には、山頭火の句がいろいろ出てきますね。<分け入つても分け入つても青い山>。山頭火には「風」を読んだ句もあります。<何を求める風の中ゆく>。健さんにピッタリだなあと思った一句です。プレゼントというのもなんですが、健さんに贈るつもりで選びました。今日は本当に長々とありがとうございました。

     高倉 今度は僕が、近藤さんが文章術を教えている大学で、一番後ろに座って聴講したいですね。中国の留学生の方にも会いたい。カタコトの中国語くらいはできますから。ニイハオ、ってね。

    対談を終えて

     1時間以上にわたって話をうかがった。対談に収め切れなかった中に、健さんがハリウッド映画「ローマの休日」を感慨深く語った話がある。

     グレゴリー・ペック演じるジャーナリストが王女のことを公にしなかった胸中を「お金にもなるし、名前も出る。しかしそれはしない。心意気って言うんでしょうか」と察して同時に、良き時代のアメリカを懐かしんだのだ。「ちょっとへたると見る」映画だそうだが、このジャーナリストに感じ入っている健さんに、私は記者として自ら問うものがあった。

     健さんの映画には、大切なものを守るために、やはり大切なものを捨てなければならない判断を迫られる場面が多い。実際の健さんも、本当に大切にしなければならないものを守り抜く男気にあふれた方であろう。

     記者歴、ファン歴四十数年。「分け入つても分け入つても高倉健」と詠み替えたい。【近藤勝重】

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