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おんなの時代

山口百恵さんの「原点」横須賀を歩く

【写真1】山口百恵さんが中学まで暮らした公営団地 

 「私の原点は、あの街−−」

     山口百恵さん(55)が自叙伝「蒼い時」でこうつづった横須賀を訪ねた。米軍基地にほど近い京急汐入駅からバスに10分ほど揺られると、高台に公営団地=写真(1)=が見えて来る。高度経済成長期に入った60年代に山を切り崩して建てられたこの団地に、山口さんは小学2年生から中学生でデビューするまで母と妹の3人で暮らしていた。 

     外壁はひび割れ、空き部屋も目立つ。高齢世帯が多くなり、外国人住民も増えたという。団地に住む70代の女性は、40年前のことを覚えていた。「あの子は、夏休みの朝早くに眠そうな顔で新聞配達に行ってね。まだ放し飼いの犬も多くて危なかったし、中学生の女の子の新聞配達はあのころでも珍しかったわね」

     「蒼い時」によると、母が内職で家計を支え、実の父が時折訪ねて来る生活。逆境がスターを目指す原動力だったのだろうか。山口さん自身は、経済苦から逃れるためにデビューしたという見方を「(歌手に憧れたのは)幼い少女がおとぎ話のヒロインを夢見る、その程度の気持ちだった」(蒼い時)と否定している。山口さんの母親と親交のあった団地の高齢女性は言う。「でもね、あの子は生い立ちでとっても苦労したの。だからちゃんと家庭を作りたかったのよ」

     山口さん家族が過ごした部屋には、男性(55)が1人で住んでいた。6畳2間に狭い台所。傷ついた古い柱や壁が時の流れを物語る。男性は偶然にも山口さんと同じ年。以前は自衛隊や関西の大手家電工場で働いたが、15年ほど前に越して来て、今は闘病中という。山口さんの話題になると顔をほころばせた。「働いて買った車のラジオで、百恵ちゃんの『横須賀ストーリー』を聞いたっけ。好景気がいつまでも続くと思えた、いい時代だったねえ」

     山口さんが、少女路線から「陰のある大人の女」に脱皮してトップスターに上り詰めるきっかけとなったのが、「これっきり、これっきり、もうこれっきりですか〜♪」で始まる「横須賀ストーリー」(76年)だった。詞を提供した作詞家の阿木燿子さんが著書「プレイバックPART3」の中で当時の横須賀の街と山口さんのイメージを重ねたいきさつを書いている。

     「横須賀のネオンは華やかだ。(略)。どんな賑やかな繁華街でもちょっと路地に入ると、もうそこは人通りもまばらでひっそりしている。表と裏の落差が激しい。横須賀の少女は、華やぎと同時にひっそりとした暗さを持っている……」

     山口さんが横須賀で過ごした60年代後半〜70年代前半は、ちょうどベトナム戦争が泥沼化した時期と重なる。当時、米兵相手のバーが軒を連ねる汐入駅近くの「どぶ板通り」には酔った米兵があふれ、殺気立ち、退廃的な雰囲気が漂っていたと言われる。

     山口さんが「時代の映し鏡」のようなスターと言われたのは、戦後日本の光と影を併せ持つ横須賀で育ったことが大きかったのだろうか。あるいは、当時の国民の多くがそんなイメージを勝手に投影させていただけなのだろうか。 

     団地の周辺を歩いた。山口さんが母と買い物をした近くの商店街=(2)=はシャッター通りになっていた。通学に使った急坂の小道=写真(3)=を下りると、母校の市立不入斗中学=写真(4)。校門の前に、パン屋「アライベーカリー」=写真(5)=がある。山口さんが好物だった「揚げソーセージ」はもう、販売していなかった。店主の新井利昭さん(67)は「今は生徒さんも減ってね」とこぼした。不入斗中は50年代に生徒数3084人の日本一のマンモス校になった歴史を持つが、今は約480人という。新井さんは「パンが売れたのも時代の流れ。苦労人の百恵さんが売れたのも時代の流れだったのさ」と笑った。

     「蒼い時」はこんな書き出しで始まる。「横須賀−−誰かがこの名前をつぶやいただけで胸をしめつけられるような懐かしさを覚える」【大場弘行】 

    【写真2】山口百恵さんが母親と通った商店街
    【写真3】山口百恵さんが通学に使った急坂の小道
    【写真4】山口百恵さんの母校、横須賀市立不入斗中学
    【写真5】山口百恵さんが通ったアライベーカリー
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