メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

号外下村脩さん死去 「緑色蛍光たんぱく質」でノーベル化学賞
受験と私

HRW日本代表の土井香苗さん 「根性身についた」

土井香苗さん

 世界最大級の国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」日本代表を2009年の開設時から務める弁護士の土井香苗さん。東京大3年時に司法試験に合格し、4年時にアフリカ・エリトリアで司法ボランティアを経験。弁護士登録後は、アフガニスタン難民弁護団などで活躍し、人権問題一筋に道を切り開いてきました。受験時代を「抑圧された家庭環境で勉強するしかなかった」と語りつつ、「仕事で時に必要となる根性が身についたのはあのころ」と振り返ります。

     ◇

 桜蔭中学、高校に進学し、高校1年生ぐらいから受験勉強を始めていました。当時、ボランティアをしたいとか、ハードなダンス部に入りたいという思いはありましたが、親が全部反対したために、受験勉強くらいしかやることがありませんでした。昼間は学校、夜は塾や予備校に通い、家に帰ってただ寝る生活です。とはいえ、そんな環境に全く納得はしていなかったので、大学生になってから妹と一緒に家出することになります。高校の時は家出をしたら生きていけないだろうと思っていたので、勉強するしかなかったのです。

 正直、元々法学にも興味があったわけではありませんでした。「受かるんだから、文1にしたら」という感じで。自分自身は、中学時代に読んだ犬養道子さんのルポ「人間の大地」でアフリカやアジアの難民キャンプの実情とその背景を知り、衝撃と感銘を受け、将来は人権問題にかかわる国際的な仕事をしたいと思っていました。それで国際関係などが学べる文3の方に興味があったのですが、またしても親に猛反対されました。「国際関係を勉強しても仕事に結びつくか分からない。法学の方が将来のつぶしがきくだろう」と。反発しましたが、選択の余地はありませんでした。

 高校1年ごろまでずっと英語が一番苦手でした。暗記が苦手なので、英単語をひたすら覚えるのが苦痛で。けれども中学3年と高校1年時に英国・エディンバラにホームステイに行ったおかげで、初めて「これは単なる科目ではなく、実生活に役立つもの、なくてはならないもの」だと気付きました。それからはちゃんと人としゃべれるようになりたいという目標ができて、自ら勉強するようになり、1年間から2年間であっという間に一番の得意科目になりました。人間、モチベーションがあるかないかで全然違いますね。

土井香苗さんに受験当時のことを聞きました

 ホームステイはそれぞれ3週間ほどで、昼間は語学学校に通いました。生徒の多くがヨーロッパから学びに来ている子たち。英語を実際に使うのは初めてだったので通じるのか不安でしたが、「英語というのはしゃべると本当に通じるんだな」という喜びを感じました。一方でヨーロッパの子たちは英語がうまい。彼らがすらすらと英語で日常会話をしているのにもかかわらず、私はしどろもどろ。ヨーロッパでは、日常会話を英語でできるのは当たり前だということに驚きました。

 帰国後、いつも英語で独り言を言うという勉強法を始めました。イギリスでのいろんな場面をひたすら思い出して、「あのときこう言いたかった」「このように言いたかった」とぶつぶつつぶやきます。子どもなりの執念でした。今でも癖で、歩きながら英語で独り言を言ってしまいます。おかげで英語の能力の「話す・聞く・読む・書く」の中で、話すことが一番得意になりました。

 東京大受験当日は、数学で大失敗しました。終了時刻を20分くらい早く勘違いしてしまった。4問あったけれどさっぱり分からず、「もう駄目だ、もう駄目だ」と焦っていたら、20分間、時間が余ることになってしまった。けれども、ほとんど何もできなかった。受験会場から泣いて帰り、家に帰っても一人でずっと泣いていました。落ちたと思いましたが、合格できたのは、逆に英語や地理が完璧に近いほどできていたからではと思います。不動の安定科目があったので、何とかなりました。

 大学に入学すると体育会の馬術部に入り、ひたすら馬に乗っていました。1年もすると親の堪忍袋の緒が切れたようで、馬術部はやめさせられ、司法試験の勉強をさせられました。司法試験を受ける直前にとうとう限界がきて、妹と家出しました。それから家には戻っていません。バイトで食いつなぐ貧乏生活になりましたが、その後、世界を回る「ピースボート」に乗ったり、エリトリアに行ったり、自分の意志で自由に生きられるようになりました。

 法律家になろうと心を決めたのは、エリトリアでの経験が大きかったです。独立したばかりの国の法務省調査員になり、法律整備のボランティアをしました。あこがれの国際協力の現場を見てみようと思って行ったけれども、実際には、国際機関の「貧しい人にものをあげる」という上から目線に幻滅しました。一方、ボランティアの過程で、人権保護活動をしている法律家の人たちと知り合いました。困った人たちに寄り添い、その権利を獲得する活動を知って、初めておもしろい仕事だと思いました。帰国後に弁護士登録し、米ニューヨーク(NY)大法科大学院留学や、NYのHRW本部でのフェローとしての活動を経て、アジア初となるHRW東京事務所を開設しました。

 受験で合格し、司法試験に合格したことは、今振り返ると自分の基盤となったり、ネットワークとなったりしています。あとは嫌なことでも、歯を食いしばってやるという経験ができて、仕事でも時々試される、根性力みたいなものがつきました。もちろん詰め込み型の勉強より、能動的に勉強する方がよかったとは思いますが。英語の勉強に関してはあらゆる人に共通して有用だと思います。できることなら若いときに、私のように3週間でもいいから海外に出ると、必要性を肌で感じられると思います。受験中はいろいろつらいこともあるかと思いますが、乗り越えた時にはきっとよりよい未来が開けます。ぜひ頑張ってください。【聞き手・中村好見】

◇どい・かなえ 1975年、神奈川県生まれ。東京大法学部卒。ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)日本代表。弁護士。アフガニスタン難民弁護団などで活躍後、05〜06年に米ニューヨーク(NY)大法科大学院に留学し国際法修士課程修了、NY州の弁護士資格を取得。06〜07年にHRW本部(NY)のフェローとして活動。09年にアジア初となるHRW東京事務所を開設した。アジア地域の人権侵害の調査、政策提言などを中心に、世界の人権保護活動に取り組んでいる。

 4月24日、中央アフリカ共和国の人権活動家を招きチャリティーディナーをホテルオークラ東京で開催予定。詳細、申込みはウェブサイト(https://www.hrwj.org/cd/)から。

毎日新聞のアカウント

話題の記事

アクセスランキング

毎時01分更新

  1. ひき逃げ 容疑で26歳男を逮捕 男性重体 沼田 /群馬
  2. ハロウィーン 飼育員食べられた?ピラニアの水槽に骸骨
  3. プリンセス駅伝 ワコールが1位 三井住友海上は途中棄権
  4. 訃報 ノーベル化学賞受賞、下村脩さん90歳 長崎市内で
  5. プロ野球CS ソフトバンクが日本シリーズ進出 18回目

編集部のオススメ記事

のマークについて

毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです