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雇用 水産加工、外国人頼み 人手不足の中、各社工夫も

 求人と求職のニーズが一致しない「雇用のミスマッチ」が、東日本大震災の被災3県(岩手、宮城、福島)で深刻化している。沿岸部の基幹産業である水産加工業は外国人技能実習生の受け入れ増加に期待しているが、この制度には「途上国支援に名を借りた労働力確保」との批判も出ている。「外国人頼み」が進む被災地の課題は多い。

     旬のイサダ(オキアミの一種)が入った箱がガラガラと音を立ててベルトコンべヤーの上を流れる。脇に立つ作業員は冷凍用ケースに移し替えたりする作業に忙しい。岩手県大船渡市末崎(まっさき)町の水産加工・冷蔵業「山岸冷蔵」。従業員18人のうち外国人技能実習生は2人。いずれも中国人で、黙々と作業をこなす。同社の菅原昌弘会長(74)は「貴重な戦力」と強調する。

     同社は震災の津波で大船渡湾に面した工場が全壊し、2012年9月に再建を果たした。大船渡港で水揚げされた魚介類を全国に出荷している。特に秋は、本州一の水揚げ量を誇る大船渡港のサンマの内臓を取り除いてパック詰めする作業で多忙を極める。しかし、被災地の基幹産業にもかかわらず人手不足が深刻で、売り上げは震災前の7割にとどまる。「もっと人を雇えれば、業績を伸ばすことができるのだが」。菅原会長は表情を曇らせる。

     沿岸各地では復興工事が進み、大船渡職業安定所管内では求職者1人当たりの働き口を示す有効求人倍率(原数値)が1月は1・82倍と高水準。しかし、水産加工業は敬遠されがちで、震災前から中国人を中心にした外国人技能実習生に頼ってきた。

     震災後に被災3県で激減した実習生は震災前を上回る人数になったものの、以前のように頼れるわけではない。この間、実習生を多数送り出してきた中国は、日本を抜いて世界第2位の経済大国に成長。菅原会長も「中国の生活水準が高くなり、何が何でも日本で稼ぐ気にならないのでは」と気をもむ。実際、同社は13年から2年間で6人を採用したが、うち4人は「実習生同士のそりが合わない」などの理由で、いずれも1カ月余りで帰国してしまった。

     外国人技能実習制度には「労働力として使い捨てている」との批判もあり、実習生向けに良好な住環境を確保するなどの課題もある。同社の場合、宿舎が津波で全壊し、現在は事務所を改造して実習生に住んでもらっている。業界内には「仮設住宅の空き部屋を使わせてもらえれば助かる」との声も出ている。

     一方、人手不足を解消するために、作業効率を改善させる取り組みも進む。大船渡市盛(さかり)町の水産加工業「森下水産」の従業員は120人。このうち外国人実習生は18人で全員中国人だ。森下幸祐専務(57)は「売り上げは震災前の8割に回復し、今年は完全回復の正念場。働き手はあと30人ほしい」と話す。

     同社は11年7月に一部業務を再開。12年6月には完全復旧し、今年1月に新工場を増設した。同社が取り組んできたのは、トヨタ自動車の生産方式「カイゼン」。社団法人「中部産業連盟」(名古屋市)の指導を受けて徹底して作業効率を上げ、人手不足をカバーしている。

     12年にはトレー置き場を変えただけで、サンマ加工ラインの1時間の生産量が250キロから300キロに向上した。空揚げ粉の付けすぎ防止のため、毎日の使用量を従業員が見える場所に掲示すると、使用量が5%減るなどコストダウンもできた。別の作業に従事させる余裕が出るなど好循環が生まれている。森下専務は「人手不足を嘆くばかりでなく、工夫できることはしなくては」と話した。【浅野孝仁】

    業種で求人数に差

     岩手、宮城、福島3県の今年1月の有効求人倍率は1・1〜1・5倍で、0・5倍程度だった震災直前の2011年2月と比べると、高水準が続いている。だが、業種別に見ると、人手不足と求人不足の業種がそれぞれ固定化しているのが実情で、求人と求職のミスマッチ解消のため、各業種での労働環境整備が急務となっている。

     厚生労働省のまとめでは、被災地の主要5職業安定所では、求人数と求職者数の比較が可能な13年2月以降、復興工事などで人手が必要な建設・採掘業、基幹産業の水産加工など食品製造業を中心に、求人数が求職者数を1・5〜3倍程度上回る状況が続いている。逆に、事務職や清掃・運搬業では求人数が少なく、求職者数の3分の1〜3分の2程度にとどまる。

     民間信用調査会社の東京商工リサーチ東北支社(仙台市)の担当者によると、宮城県内のある食品系企業は、震災前には求人をすると応募や問い合わせが数十件あったが、今は「売り上げアップを図って営業職や運転手を増やす募集をしたら、問い合わせが1件もなかった」と嘆いているという。仙台市内の別のサービス系企業は、時給を最低賃金の2倍近い1400円にしてみたが、それでも人が来なかった。同支社の担当者は「この状況はしばらく続くだろう」と予想する。

     一方、厚労省は自治体の委託事業で被災者を雇用した企業が助成を受けられる「震災等緊急雇用対応事業」で、11〜14年度に3県で延べ10万6000人分(計画人数を含む)の雇用を生み出したと実績を強調する。雇用創出の中核となることが見込まれる事業に3年間助成する「事業復興型雇用創出事業」でも、これまでに3県で延べ13万6000人分(同)を確保した。

     ただ、同省雇用政策課の担当者は「雇用者数は震災前の水準まで回復しているが、求人と求職のミスマッチが起きている」と認め、「有効求人倍率が高いからといって、被災者が簡単に就職できるとは思っていない。ハローワークや職業訓練を通じマッチングを進めるなど、きめ細かく対応していく」と言う。

     被災者の就労支援を続けるNPO法人「POSSE(ポッセ)」仙台支部の川久保尭弘(たかひろ)さんは「震災後、長時間労働や賃金低下など労働環境が悪化した面もある。労働の強度が増し、仕事を続けられなくなる人も出ている」と指摘。今後は「求人数を増やすだけでなく、賃金アップや待遇改善など求人の質を向上させる対策が急務だ」と話す。【狩野智彦】

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