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<ニュース解説>対応急務の難民問題=吉富裕倫

世界的な紛争の増大が日本にも影響 G7で極端に低い認定率

 難民認定制度の改正へ向けた準備が進んでいる。法務省は近く新制度の方向性を盛り込んだ第5次出入国管理基本計画案を発表してパブリックコメント(意見聴取)を実施し、入管難民法の改正につなげていく方針だ。イタリア南方の地中海で18日、リビアからの密航船が転覆し800人以上が犠牲となったように、難民・移民問題の解決は急務となっている。難民条約に加盟している日本も、無関係ではいられない。

    申請5000人、認定11人

     日本の難民認定行政を巡る環境は近年、激変しつつある。国外に目を向けると、紛争などにより故郷を逃れた難民・国内避難民の合計数は世界的に増大し第二次世界大戦以降で過去最高となっている。国内でも申請数は右肩上がりに増え続け、昨年の難民認定申請数は5000人に達した。一方で日本の認定数は11人で、難民条約に加盟する先進国の間では低い水準にとどまっている。

     日本の申請数の増加を巡っては二つの異なる見方がある。従来、難民認定に慎重な法務省は、イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)などによる内戦で大量の難民が発生しているシリアなどの中東、アフリカの事例と申請増とは関連が薄いとみて、「偽装申請」など制度の乱用対策が急務だと強調している。

     というのも法務省は2010年、正規の在留許可のある外国人が難民認定申請し6カ月を過ぎた場合、また再申請を行った場合にも一律に就労許可を与えるよう入国管理局長通達を出した。個別に判断していた当局と申請者双方の負担軽減のためだったという。その後申請数は大幅に増えた。内訳をみるとアジア地域の申請者が多い。就労目的でうその難民申請を指導したとして昨年、ネパール人ブローカーの摘発も行った。

     他方で国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日事務所は、世界的な紛争の増大が日本にも影響しているとみている。中東・アフリカからの難民が欧州に押し寄せる現状を見れば、日本を目的地とする人たちが増えても不思議ではないという分析だ。欧州への人の流入増大には、経済的な理由による移民も含まれるが、難民申請は近年大きく伸びている。同じ東アジアでは、日本だけでなく韓国での申請数も急増している。

    乱用対策より制度改善

     難民を支援する弁護士グループや非政府組織(NGO)の間では、制度乱用は審理の長期化に原因があり、制度の乱用対策よりも認定制度の改善を優先させるべきだとする声が多い。難民問題を研究し難民審査参与員も務める山本哲史(さとし)・神奈川大客員研究員は「申請の乱用はあるし増えてきたと思う。申請を繰り返せば就労できる制度に問題がある」としつつ、「難民審査の現状は万全とはいえない。申請を先に抑制してしまうと、保護すべき本当の難民が救済されないおそれが出てくる」と話す。

     こうした議論が起きる背景の一つに、紛争地から逃れた難民の急増にどう対応すべきか、という問題が未解決になっている事情がある。難民条約は1951年に採択された。難民とは「人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがある」などと定義されている。中山裕美・東京都市大客員研究員は「条約が成立した当時は、冷戦初期の東西対立を反映し政治的迫害のおそれがある人たちをどう保護するかが主な課題で、新たな紛争が起きて国外脱出する難民たちのことを想定していなかった」と指摘する。今日では約400万人が難民となったシリアのように、激化する紛争から脱出する難民たちが増え、条約をどう解釈するかで判断が異なってくる。

     UNHCRはシリア人申請者について、政治、宗派、部族対立などによる内戦が深刻な人権侵害を引き起こしている実情を踏まえ、「多くが条約上の難民にあたる」と各国に受け入れを求めている。法務省はシリア国籍の申請数を公表していないが、少なくとも60人以上の申請者のうち3人しか認定せず、難民条約を厳格に解釈する立場を変えていない。

    EUや韓国に変化

     参考になるのが、条約難民とは別に「補完的保護」枠を新たに設けた欧州連合(EU)だ。EUは11年に指令を出し「武力紛争の状況における無差別暴力による文民の生命または身体に対する重大かつ個別の脅威」などを条件に、条約の定義に一致しなくても、条約難民と同等の権利を与え保護するよう加盟国に求めた。

     韓国も大きく変わった。かつては日本の入管難民法と同様、難民認定と出入国管理を一つの法律で扱い、90年代には一人も難民認定していなかった。ところが「人権国家としての地位を高める」などの議論を経て11年に難民法が国会で可決され、独立した法律で難民問題を扱うことになった。13年に施行された同法では、「拷問等の非人道的処遇、処罰その他の状況により生命または身体の自由等を著しく侵害されるおそれ」のある外国人への人道配慮に基づく在留許可を明記した。韓国の難民支援団体によると、昨年、人道配慮で受け入れたシリア人は500人を超えたという。日本でもほとんどのシリア人申請者の在留許可を人道配慮で認めているが、法令には規定がなく待遇も条約難民より劣る。

     法相の私的懇談会「出入国管理政策懇談会」は13年から昨年末まで、専門部会を中心にこれらの課題を議論した。日本の難民認定率は日米英仏独伊加の主要7カ国(G7)で極端に低い。国際水準に高めるため、「疑わしきは申請者の利益に」などの原則を含むUNHCRの基準を採用すべきだとする意見が出たが、「基準というには抽象的」などの反論も出され、「参照」にとどまった。

     紛争地からの難民については、「待避機会」として在留を一時的に許可する新たな枠組みを設けるよう提言された。ただ法務省は「法令に明記すれば、韓国のように申請者が急増し国民の負担が増すおそれがある」と話し、慎重な検討が必要だという立場だ。

     難民の定住支援などに関する権限や予算は法務省ではなく他官庁にあり、法相の諮問を受けた専門部会では難民の処遇や、避難先から難民を受け入れる「第三国定住」などのテーマについてはほとんど議論されなかった。包括的な難民対策として見てみると、提言はEUの指令や韓国の難民法に比べ中途半端な印象をぬぐえない。

     中東などでの難民問題は「今のところ国民にとっては対岸の火事」(法務省幹部)だという。日本はUNHCRに多額の資金援助をしてきたが、地域紛争が世界で多発する時代に合わせ、日本の難民認定制度も対応させていくべきだろう。提言の範囲にとどまらず、国民の理解を深め政府全体で包括的な制度改革に取り組んでいく必要がある。


    出入国管理政策懇談会の提言(骨子)

     <提言1 的確な保護>

    ・ジェンダーに起因するなどの新しい形態の迫害について保護を検討

    ・武力紛争などから逃れてきた人に待避機会として在留を許可する新たな枠組みを設ける

    ・その際の要件はEUの「補完的保護」が一つの参考になる

     <提言2 適正・迅速な認定>

    ・当初から難民該当性がない事案を審査の前に振り分ける仕組みの導入を検討

    ・再度の申請は新たな事情が生じた場合などに限り認められることを明確にする

     <提言3 透明性の向上>

    ・UNHCRの諸文書などを参照し認定判断の規範的要素の一般化・明確化を追求

    ・不認定理由の内容を一層充実させ、認定された場合の理由も付記するよう検討

    ・情報収集と分析はUNHCRなどの国際機関と連携を強化

     <提言4 専門性の向上>

    ・難民調査官及び難民審査参与員の増員を図る

    ・専門的な人材育成プログラムの充実・強化に取り組む

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