メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

Listening

<戦後70年これまで・これから>憲法はどう作られ 変えられようとしているか(その1)

「押し付け」薄い論拠

 安倍晋三首相は憲法改正に長年、強い意欲を示してきた。3月6日の衆院予算委員会では「占領下において短い期間で連合国軍総司令部(GHQ)において25人の方々によって作られたのは間違いのない事実」と述べ、憲法の制定過程に改憲の理由を求めた。一方で、首相は9条の解釈を変更し集団的自衛権の行使容認に踏みきった。戦後70年の節目に、憲法の制定過程をたどり、これからを展望、政府の解釈変更に揺れる自衛隊の現場を歩いた。

    「国民主権」GHQ評価

     「憲法を改正して、自由主義的な要素を取り入れる必要がある」

     現行憲法制定に向けた政府の動きは1945年10月4日、マッカーサー連合国軍最高司令官の近衛文麿国務相への指示で始まった。

     近衛は東久邇(ひがしくに)内閣が5日に総辞職した後も「内大臣府御用掛」の立場でGHQと接触し、「国民主権の確立が必要」「天皇制は日本国民の意思により決めるべきことで外部から強要すべきものではない」との米側の意向をつかむ。

     一方、同9日に発足した幣原(しではら)内閣は同25日、法学者の松本烝治(じょうじ)国務相を委員長とする憲法問題調査委員会(松本委)の設置を発表。内大臣府側から憲法調査の主導権を奪う目的があったとされ、日本側には一時期、二つの憲法「窓口」が存在した。

     GHQは11月1日、「近衛は憲法改正のために選任されたのではない」との声明を発表し、近衛を「解任」した。近衛から松本に米側の意向は引き継がれなかったとする説が有力で、松本委では最後まで天皇主権を国民主権に変えようとする動きは起こらなかった。

     ▼憲法研究会

     政府内で主導権争いが繰り広げられていたころ、在野でも新憲法制定へ向けた動きが始まる。異彩を放っていたのが在野の憲法学者、鈴木安蔵らによる「憲法研究会」だ。同会は、元東京帝大教授で後にNHK会長も務める高野岩三郎の呼びかけで、鈴木のほか評論家の室伏高信、後に社会党衆院議員として第90帝国議会(46年)の憲法改正審議でも活躍する森戸辰男らが参加した。

     12月26日に発表した「憲法草案要綱」は、「日本国ノ統治権ハ日本国民ヨリ発ス」と国民主権を明記し、天皇制について「天皇ハ国民ノ委任ニヨリ専ラ国家的儀礼ヲ司(つかさど)ル」と象徴天皇制に近い定義づけをした。当時は、明治憲法が定めた天皇大権の維持の考え方が主流で、「国民主権」の発想は憲法研究会案の最大の特色だ。ドイツのワイマール憲法を参考に社会権や生存権にも言及。複数年度にまたがる戦費調達で苦しんだ経験から、財政の単年度予算方式や会計検査院の設置も明記するなど、「革新的」な記述が目立った。

     ▼GHQ

     憲法研究会は発表と同時に日本政府とGHQに草案要綱を届けた。松本委員会で取り上げられることはなかったが、GHQは要綱発表前から研究会案に注目していたことが、複数の研究で明らかになっている。

     GHQ民政局法規課長で弁護士のラウエル陸軍中佐は46年1月11日、米本国に同案を評価する意見書を提出。ラウエルは、意見書の最終節で「提案された憲法に含まれている規定は、民主的で受け入れられる」と評価する一方、「いくつかの本質的規定が入っていない」として、憲法が国家の最高法規であることを明示▽憲法改正には国民投票で過半数の承認を得る−−などを列記した。

     日本国憲法の制定に一貫して携わり、後に内閣法制局長官を務めた佐藤達夫は著書で「(GHQが憲法研究会の案に)もっとも大きな親近感をいだき、かつ、これを重視したと見てよい」と記している。

     ▼憲法論議

     45〜46年に見られた顕著な動きは、政党の復活と言論の活発化だ。45年10月4日にGHQが発したいわゆる「自由の指令」で政治犯の釈放と、思想や言論の制限の撤廃を求めると、それまで非合法だった共産党が公然と活動を始め、社会党、自由党、日本進歩党などが次々に結成された。

     憲法改正を巡る政府の動きが新聞で日々伝えられていたこともあり、政党、言論人の関心は自然と新憲法のありように向かい、46年にかけては雨後の竹の子のように「憲法改正案」が発表された。政党から個人の案に至るまで、約15の「私案」が確認されている。

     GHQが当時まとめた「日本の政治的再編成」と題した報告書は、「諸提案は日本人の思想傾向および政府そのものに与えた諸影響の性質を指示するものとして重要な価値がある」と指摘。GHQ案に与えた影響は限定的というのが通説だが、国内で活発化する憲法論議を注視していたことはうかがえる。

     ▼根付いた新憲法

     一方、政府の公式の検討機関である松本委は46年2月まで議論を重ね、天皇大権を維持する方向で憲法改正要綱をまとめつつあった。毎日新聞が2月1日の1面でこれをスクープ。マッカーサーは失望し、同3日に部下に憲法草案の作成を指示した。民政局は極秘裏に起案を進め、10日までに原案をマッカーサーに提出。さらに修正を続けて12日に完成させ、マッカーサーの承認を受けた。安倍首相の言う「たった8日間」=図左上=とは、この3〜10日を指すとみられる。

     日本政府は13日、GHQ案をもとに改正案を作成し直すよう言い渡された。この経過が「押しつけ憲法論」との関係で注視されてきたが、後に憲法制定過程を検証した内閣の憲法調査会小委員会は報告書(61年)で、「憲法研究会案は、GHQ案の作成に当たって相当の程度において参照されたことは明らか。日本国民の側における憲法改正問題の動向に注意を払いつつ起草に当たったことの一つの現れ」との分析を載せている。

     GHQ案を下地に日本政府は憲法改正案の起案を進め、46年6月に帝国議会に提出。多くの修正を経て成立し、47年5月3日に施行された。以来68年、憲法は不変のまま現在に至る。

     憲法制定過程に詳しい五百旗頭(いおきべ)真・前防衛大学校長は「半世紀以上も歩んできた中で制定の経緯を最重視するのは滑稽(こっけい)だ」と指摘。「内容が不都合ならば変えるし、時代が変わっても、いいものであれば大事にする。過去の経緯と改憲の必要性の有無を直結させるのは適切ではない」と語った。

    首相、参院選後にらむ

     戦後70年、一度も改正されなかった現行憲法だが、改憲を悲願とする安倍晋三首相の長期政権が視野に入る中、改正が現実味を帯び始めている。当面の焦点は来年夏の参院選における改憲勢力の消長だ。自民党内では2017年の通常国会で改憲発議を目指す考えも出ているが、参院では現在、改憲勢力は発議に必要な「3分の2以上」に達していない。どの分野から改憲に着手するかも今後の課題で、改憲の具体化には曲折が見込まれる。

     「今こそ最後の詰めに入って行く入り口までやっと来た。(発議の)時期等も含めてよく(国会の)憲法審査会で議論を進めていただきたい」。首相は2月20日の衆院予算委で、改憲論議の進展に強い期待を示した。

     改憲を巡っては昨年6月、国民投票の投票年齢を「20歳以上」から施行4年後に「18歳以上」に引き下げる改正国民投票法が施行され、手続き上はいつでも改憲が可能となった。首相は2月に自民党憲法改正推進本部の船田元・本部長と会談した際、改憲発議は来年の参院選以降になるとの認識で一致。17年の通常国会での発議を射程に入れる。

     昨年末の衆院選で自公両党は、改憲発議に必要な3分の2(317議席)を上回る計326議席を獲得したが、参院は両党で計134議席で3分の2(162議席)に及ばない。維新の党も改憲には積極的で、首相は秋波を送り続けているが、改憲発議の成否は来年夏の参院選を経なければ見えてこないのが現状だ。

     一方、改憲のテーマも焦点だ。衆院憲法審査会(保岡興治会長)は5月7日から実質審議入りする。自民党は9条改正を最終目標と位置付けるが、船田氏は同審査会の幹事懇談会で「自然災害時の国会議員の任期延長などを含めた緊急事態の議論は先を急ぐべきだ」と表明。国民の理解を得やすい項目から改憲を進める「現実路線」を取っている。

     昨年11月の審査会では自民、民主、公明など7党が緊急事態条項新設に前向きな見解を示しており、同条項を中心に議論が進む可能性がある。

    改憲、維新に秋波 首相「大阪都」評価

     地方自治を定める憲法第8章は全体で4条しかなく、地方自治の基本原則を述べた憲法92条にも「地方自治の本旨」とあるだけで、「定義が漠然としている」との批判がある。憲法を改正し、「本旨」について、国と地方の役割分担や道州制などを具体的に明記すべきだとの意見がある。

     第8章の改正に最も熱心なのは維新の党だ。同党の下部組織「大阪維新の会」が進める「大阪都構想」は2012年8月に成立した大都市地域特別区設置法で制度上は実現可能となったが、同党は昨年の衆院選公約で92条を改正し道州制導入を明記すると主張した。

     自民党の改憲草案は、92条の「地方自治の本旨」に「地方自治体は基礎地方自治体と広域地方自治体からなる」との文言を加えた。道州制の表現はないものの、「道州は広域地方自治体であり、法律整備で対応可能だ」とする。

     自民党は12年の衆院選公約で、「道州制基本法」の早期制定と制定後5年以内の道州制導入を目指すと掲げたが、14年衆院選では「道州制は国民的合意を得ながら進める」とトーンダウン。国から地方への税源移譲方法が明確でないなど拙速な議論に懸念を示す党地方組織への配慮があるとみられる。だが、安倍晋三首相は現在も維新の大阪都構想を評価する。憲法改正を見据え、改憲勢力としての維新に期待をかけているからだ。


     「これまで・これから」は月1回のペースで掲載します。今回は、福岡静哉、横田愛、高橋克哉(政治部)、鈴木泰広、石川淳一(社会部)が担当しました。グラフィック・日比野英志

    コメント

    投稿について

    読者の皆さんと議論を深める記事です。たくさんの自由で率直なご意見をお待ちしています。

    ※ 本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対して毎日新聞社は一切の責任を負いません。また、投稿は利用規約に同意したものとみなします。

    利用規約

    おすすめ記事

    毎日新聞のアカウント

    話題の記事

    アクセスランキング

    毎時01分更新

    1. 池袋暴走 ハンドルほぼ操作せず 87歳男性パニックか
    2. 池袋暴走、ドラレコに音声 87歳男性「あー、どうしたんだろう」同乗の妻の問いに
    3. 校長のセクハラ告発女子生徒、焼き殺される 「自殺に見せかけるよう」校長自身が指示 バングラデシュ
    4. 池袋暴走事故 亡くなった松永さん親族ぼうぜん「だまされているような」
    5. AAAリーダーを暴行容疑で逮捕 「飲みに行こう」と誘うも断られ平手打ち

    編集部のオススメ記事

    のマークについて

    毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです