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<記者の目>乳幼児マッサージ死亡事件=坂根真理(東京地方部)

「母の責任」では防げぬ

 「免疫力を上げる」などをうたい文句に、生後4カ月の乳児を、うつぶせにして首筋をマッサージする施術により死亡させたとされる元NPO法人理事長の姫川尚美被告(57)=業務上過失致死罪で大阪地裁で公判中=の裁判を傍聴した。私自身、娘の発達に悩み、姫川被告の育児サロンに足を運んだこともあり、人ごととは思えなかったからだ。医師らの忠告を無視し、2人の乳幼児の命を失わせた姫川被告の責任は重いが、ネット上ではむしろ施術を受けさせた親へのバッシングが強いように思う。だが事故の再発を防ぐには、自己責任論で終わらせてはいけない。実効性のある対策が求められている。

     私の娘は首の据わりやハイハイを始めるのが遅く、知り合いに教えられ、2013年9月、姫川被告の大阪市にある育児サロンを訪ねた。1990年代に新潟県上越市で幼児教室を始めた姫川被告のサロンは評判を呼び、東京や大阪にも教室ができていた。

     サロンでは乳児の背筋をまっすぐ伸ばした状態で抱く「対面(ついめん)抱っこ」や「身体機能回復指導」を行っていた。特に機能回復指導では乳幼児をうつぶせにして首の周りをもむことが多かった。姫川被告は「姿勢がゆがむと発達が遅れるなど問題が起きる」と話したが、私は納得がいかず、当時3歳の娘に受けさせる気にはならなかった。姫川被告は「(医師から)対面抱っこをすると脳の酸素飽和度が下がるから危険だ」と指摘されたこともあえて話し、医学的根拠を尋ねると「独学と経験。続けるかどうかは自由」と自信たっぷりだった。

    「最善のケアを」 悲痛な願い暗転

     そして起きた痛ましい事故。窒息事故が3回起き、うち新潟と兵庫の乳幼児2人が亡くなった。13年2月の新潟の事故=不起訴、新潟検察審査会が先月、起訴相当と議決=で取り調べを受けた際、検察からも「施術の安全性について医師に相談するように」と指摘されたが対応はとらず、次の事故が起きた。姫川被告は罪を認め、法廷で「専門的知識がないまま成功体験を頼りにしてしまった」と反省を口にしたが、検察は「幼い子の命を預かっているという自覚に欠けていた」とし禁錮1年を求刑した。

     サロンにはダウン症や発達障害の子を持つ親も少なくなかった。通常の理学療法や作業療法では満足できず、「できる限りのことをしてあげたい」と「医学的根拠」がありそうなものにすがる母親の切なる気持ちは私にもよくわかる。姫川被告に子供を託した母親の悲痛な思いがあることも知ってほしい。大阪市在住の母親は、ネットでサロンの存在を知り、ダウン症の娘に、生後2カ月ごろから毎月1度、約2年半にわたって施術を受けさせたという。「ハンディをもつ子供を産んだ母親は、何かにすがりたくなるんです」。結局、姫川被告の施術に不信感を覚えてやめたが「施術を続けるかどうか、母親の自己責任となることが恐ろしい」と話した。

     兵庫の被害者の母親は、育児中の親同士のつながりを求めてサロンに参加し、子供を亡くした。被害者参加制度を利用して裁判に参加した父親は「妻は自責の念で苦しみにさいなまれ、つらい日々を過ごしている。ネットではなぜあのような危険な施術に連れて行ったのだという多くの批判にさらされ、妻は傷つき、外に出ることもできず、日常生活を送れなくなった。被告は息子だけでなくその母親の生きる希望も奪った」と涙ながらに語った。母親の書面も代弁され、「ネットを開けば『母親同罪』という書き込みが見つかる。孤立し追い込まれ、早く死ねと言われているようだ」と苦しみを訴えた。責めを負うべきは被告であって、両親ではないはずだ。

    届け出義務など再発防止策必要

     厚生労働省によると、あん摩マッサージ指圧師、柔道整復師などは国家資格が必要だが、マッサージは無資格でも行える。同省は91年、多様なマッサージが普及したことを受け、「医業類似行為に対する取扱いについて」という通知を自治体に出した。頸椎(けいつい)(首)への危険な手技については「身体に損傷を加える危険が大きい」と禁じているが、危険な行為をしても具体的な処罰はない。遺族側の弁護士も「危険かどうかを立証するのは困難で、法律で規制するのは難しいのではないか」と率直に話す。

     私は乳幼児の施術に限っては、自治体への届け出を義務づけるような行政などの目が届きやすい仕組み作りが再発防止に有効だと考える。いくら育児を巡る相談体制が整っていても、より効果がありそうなものに飛びつくのが親の心情だからだ。2人の子供の命を失った事故を、どう教訓として生かすか。間もなく出る判決を機に、議論が高まることを願う。

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