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Listening

<論点>加速する原発回帰

 世界最悪となった東京電力福島第1原発事故から4年半。再稼働した九州電力川内(せんだい)原発(鹿児島県)に続き、今月26日には愛媛県の中村時広知事が四国電力伊方原発3号機の再稼働に同意するなど、「原発回帰」が加速している。電力の安定的な供給を求める経済界は再稼働を歓迎する一方、福島事故の関係者には戸惑いも広がる。今後、原子力とどう向き合っていくべきなのか。

    脱原発の覚悟はあるのか 寺島実郎・日本総合研究所理事長

     福島事故で「反原発」の世論は根強いが、脱原発の道を進むには、大きな「覚悟」がいることを理解しなければならない。原子力から手を引くことは、日本が積み重ねてきた原子力分野での国際的な立場や発言力も同時に失うからだ。唯一の被爆国である日本は、原子力の平和利用を先導するためにも専門性の高い原子力の技術基盤を維持することが重要だ。

     覚悟の一つは「日米原子力共同体の見直し」だ。原子炉メーカーの東芝は2006年、米ウェスチングハウス社を買収した。07年には日立と米ゼネラル・エレクトリック(GE)が合弁会社を設立し、日本企業が世界の原子力産業の中核になった。一方、日米原子力協定で、日本は軍事としての核を保有しない国として世界で唯一、使用済み核燃料の再処理が認められており、日米関係は「原子力共同体」と言っても過言ではない。

     この共同体を解消して日米安保を見直す中で、米国の「核の傘」から離脱する覚悟があるなら「脱原発」の主張の筋は一貫している。しかし、脱原発を目指す一方で「中国も北朝鮮も脅威だから『核の傘』で守ってほしい」という言い分は国際的には通用しない。

     国際社会で原子力発電という平和利用と、核兵器という軍事利用の二つの側面は断ち切れないコインの裏表の関係で、一体と考えられている。平和利用に徹する日本という国は、世界中では特殊な国であることを踏まえれば、先に述べた「覚悟」の意味が理解できるのではないだろうか。

     東アジアを見渡す必要もある。中国は今後原発の建設を加速させ、台湾や韓国も推進へかじを切った。ロシアも極東に原発を造る可能性がある。30年には、少なくとも100基以上が日本を取り巻く状況が予想される。

     これらが万一事故を起こせば、影響が日本に及ぶのは確実だ。日本の原子力の技術基盤は、世界の原発の安全性を高める役割を担いうる。世界中の廃炉や、福島の汚染水処理や廃炉、除染などを進める際も技術基盤は不可欠だ。

     そして、こうした技術基盤は、原子力政策の国際的発言力を高め、非核政策を主導する原動力になる。専門性も技術力も人材もない国が、国際社会でいくらこうした政策を訴えても「蟷螂(とうろう)の斧(おの)(はかない抵抗)」に過ぎない。

     もちろん、今の「国策民営」の仕組みも変えなければならない。まず原子力事業部門を民間の電力会社から切り離し、国による統合会社で運営すべきだ。原発を統合管理できれば、各社の経営事情にかかわらず廃炉の優先順位をつけることが可能になり、各社に分散している原子力技術者も、事故などの際に集中投入できる。

     「原発の制御は不能だ」との意見が出るのは当然だが、困難を乗り越えようと努力し、研さんを重ねてきたからこそ今の科学技術はある。一方、これまで築いてきたエネルギー政策を放棄し、更地に新しい家を建てることもできない。エネルギー政策の積み重ねを踏まえると同時に世界情勢を地政学的に見渡し、日本として明確で、体系的な原子力戦略を示す局面に来ている。【聞き手・中西拓司】

    電気代高く 中小企業限界 伊藤麻美・日本電鍍(でんと)工業社長

     今の経済状況を現実的に考えれば、原発を再稼働せざるを得ない。あまりにも電気代が上がりすぎ、中小企業の努力で改善できる範囲を超えている。円安などで大企業が海外で収益を上げ、景気は一見よくなっているが、国内の中小企業までは効果が及んでいない。それでも人材確保のために賃金を上げなければならない。これ以上、どこをカットすればグローバルな競争に勝てるのか。電気料金の値下げや安定的な電力供給のためにも当面の再稼働は必要だ。

     父を病気で亡くした9年後の2000年。32歳だった私は突然、父が創業しためっき加工会社の社長に就任した。当時は10億円以上の負債を抱え、最大で約200人いた社員は48人に減り、まさに倒産寸前だった。若い女性経営者なので金融機関からの信用もなかった。だが社員の技術力を信じて運転資金の確保に走り、得意分野への選択と集中を進めて3年で黒字化、6年で正常化を達成した。

     めっきなどの製造業は大量に電気を使う。急に電気が止まると製品自体がだめになる。東日本大震災以降、太陽光発電で売電したり、国の補助金を活用して空調の交換をしたりするなどの省エネ対策をしているが、限界がある。中小企業の多くの経営者は、会社を大きくすることやもうけることよりも、存続のために命をかけていると言ってもいい。日本のものづくりや、人材を守るというミッションがあるからだ。社員やその家族の生活のためでもある。雇用がなくなれば、日本そのものがなくなってしまうという危機感もある。

     福島原発事故後、原発への不信感が強くなったのは、政府の情報の出し方がまずかった面が大きい。政府が原発の炉心溶融(メルトダウン)を認めたのは、事故発生からずっと後だった。そうした政府の判断の遅さが信用を失わせ、偏った情報が錯綜(さくそう)して間違ったとらえ方をされることになった。政府や電力会社は分かりやすく疑われない情報発信に努めるべきだ。

     一方で、この事故を機に私たちが気付いたこともある。原発など便利なものには必ずリスクがあり、今まで電気をいかに使いすぎていたか、ということだ。

     私が委員を務める経済産業省の有識者会議は今年1月から、30年度の総発電量に占める電源ごとの割合について議論を始め、6月に原発の割合を20〜22%にすることを決めた。原発依存度の低減や地球温暖化対策、電気料金の引き下げなどといったさまざまな論点がある中、よりよい結論を出すためのスタートラインとして選んだ数字だ。

     「原発ゼロ」を実現するのは相当難しいが、技術革新が進めば再生可能エネルギーが原発の代わりになるかもしれない。状況によっては「20〜22%」という数字にこだわることなく、原発をさらに減らしたり増やしたり、あるいは建て替えたりすればいい。将来の電源構成をどうするかについて100%ベストの回答はない。「20〜22%」はあくまで一つのプランであり、状況に応じてフレキシブルに対応する体制づくりが大切だ。【聞き手・酒造唯】

    福島から何を学んだのか 玄侑宗久・作家

     九州電力川内原発1、2号機が再稼働した。東京電力福島第1原発事故を経験しても、原発事故のやっかいさが周知されていないのではないだろうか。万が一、再び事故が起きた時のことを考えると、原発の再稼働はチャレンジではなく蛮勇だ。

     事故を経験した福島県では、土地が放射性物質で汚染され、県外に避難した住民には4年半以上経過した現在も戻らない人が多い。避難先で新しい暮らしを始める人もいて、なし崩し的にそれぞれの土地で根を生やし始めている。帰還が段階的に進む福島第1原発周辺の双葉郡(8町村)に戻る住民はお年寄りが多い。このままでは町や村は自然消滅してしまう。果たして双葉郡はいつまで行政の体を保てるのかと危惧している。

     福島県では、自殺が減らないという独特の問題も出てきている。原発事故の影響は数十年に及び、「天災」と割り切れる可能性のある地震や津波の被害に比べて根が深い。この場所で死ねるという場所を得ることは人生に大きな落ち着きを与えるが、その場所を失ったお年寄りには「人生をやり直せない」と絶望してしまった人が多い。私の寺では、檀家(だんか)が震災直後の3カ月間で6人も自殺した。このようなことは普通ではあり得ないことだ。

     福島第1原発では現在も汚染水は増え続け、行き場をどうするかの展望もはっきりしていない。また、国は除染で出た汚染土壌などを30年間保管するため、双葉、大熊両町に中間貯蔵施設の建設を予定しているが、用地の地権者交渉が難航している。「30年」がいつから30年なのかもはっきりせず、あやふやな状況で福島県民の不安は消え去っていない。

     こうした福島の現状から考えると、万が一にも大勢が被害を受ける可能性があるなら、再稼働はすべきではない。川内原発の再稼働では避難計画のあり方が問題になったが、そもそもどうして避難する事態が起こる可能性を持つ原発を再稼働させるのか。避難がうまくいっても、事故が起これば影響は数十年間続く。恐怖の対象をわざわざ造ることが問題だ。

     原発が再稼働すれば、使用済み核燃料が生じる。しかも、放射性廃棄物の処分場も決まっていない「トイレなきマンション」状態のままだ。自分の世代で核廃棄物は問題にならないということで捨て置かれてしまっている。未解決の問題が将来の世代に残ることが予想されるのに、なぜ原発回帰の道を突き進むのか。再稼働の責任の所在もよく分からないままだ。国民の命を守るという観点に立てば、臆病すぎるくらいに石橋をたたいて渡ることが求められる。

     土地が汚染された福島の現状を見れば、再稼働は国土を使い捨てるという発想で、この考えを転換しないといけない時期が来ている。東日本大震災と原発事故後、復興相や環境相は何人も交代していて、復興に対する考え方も透けて見える。国は事故から何を学んだのかと言いたい。国はいわば経済第一と妄信する「経済病」ともいえ、真剣に命と向き合うならば早急に方向転換すべきだ。【聞き手・鳥井真平】


    将来30基超が稼働?

     政府は、2030年度時点の電源構成について、原発比率を20〜22%にする方針をまとめた。これに基づき、新規制基準に適合した原発を順次再稼働させる計画だ。今年8月、10月に再稼働した川内原発の2基に続き、四国電力伊方3号機も年明け以降、稼働する見込み。ただし「20〜22%」の達成には、30基台半ばの稼働が必要で、老朽原発の運転延長が必要になる。原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の処分地も決まっていない。


     「論点」は金曜日掲載です。opinion@mainichi.co.jp


     ■人物略歴

    てらしま・じつろう

     1947年北海道生まれ。早稲田大大学院修士課程修了。米国三井物産ワシントン事務所長などを経て現職。多摩大学長も兼任。著書に「二十世紀と格闘した先人たち」など。


     ■人物略歴

    いとう・まみ

     1967年東京都生まれ。上智大卒。ラジオDJなどを経て、日本電鍍工業(さいたま市)の社長に就任。電源構成を決めた経済産業省の有識者会議委員を務める。1児の母。


     ■人物略歴

    げんゆう・そうきゅう

     1956年福島県生まれ。慶応大卒。東日本大震災復興構想会議委員。2001年「中陰の花」で芥川賞受賞。08年から同県三春町の臨済宗福聚(ふくじゅう)寺住職。

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