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SUNDAY LIBRARY

INTERVIEW 井上理津子

思い出のすべてが「ありがとう」と「ごめんなさい」

◆『親を送る』井上理津子・著(集英社インターナショナル/税抜き1500円)

     自分だったら、どうするだろう? 読みながら、何度もそう考えた。本書は、誰もが体験する「親の死」というテーマを、手練(てだれ)のライターが自らの体験として綴(つづ)ったノンフィクションだ。

    「2008年の5月に母が、9月に父が亡くなりました。母が倒れるまでの私は、親は『してくれる』のが当たり前で、平気でおごってもらっていました。親の前では子どものままだったんです。父は認知症を発症していましたが、母は元気だったので、なんの根拠もなく『うちは大丈夫だろう』と思っていました」

     著者は義姉とともに、母の入院から急変による死、葬儀まで、息もつけない日々を送る。延命をめぐっては、義姉と意見が対立した。

    「ああいうときって、あとで考えると説明がつかないことをやったり言ったりしてしまうんですね。みんながおかしくなっている。でも、その場その場で100パーセントを目指したつもりです」

     母の死因について納得できなかった著者と義姉は、3年後に病院に対して質問状を出している。

    「医師の説明はあまりにも通り一遍でした。母の命をないがしろにしたという怒りと、その病院が同じことを繰り返すのが許せなくて訴えようとしたのですが、結局断念しました」

     認知症の父には、母の状態を伝えず、亡くなってから告げた。

    「いまから考えると愚かですが、告げるのを先延ばしにすることによって、父の悲しみを和らげようとしていたんです。とりあえず、今夜は寝かせてあげよう、日常に近いところにいさせようと。もちろん、言わずにいることはしんどかったです」

     母が亡くなった後、父の認知症は進み、老人ホームに入居する。

    「以前取材した方が、認知症の奥様の妄想に付き合う様子を見ていました。父も家をホテルと勘違いして『チェックアウトしてくる』と言ったり、亡くなった友人に会いに行こうとしたりしました。そういう父と過ごした3週間は、私にとって蜜月でした。この本を書くのはつらかったですが、この部分は楽しく書けました」

     しかし、敏感と鈍感がないまぜになる父の状態に疲れ、「困る」と言ってしまい、後悔する。

    「父も母も、もう少し喜ばせてあげればよかったと思います。仕事柄、取材相手には根掘り葉掘り聞いてきたのに、親の話はあまり聞いていなかった。いまになってみると、すべての思い出が『ありがとう』と『ごめんなさい』につながるんです」

     葬儀や遺産整理など、普段は考えなかったことが一気にやってくるのも、「親を送る」大変さだ。この体験は、葬儀社や火葬場、エンバーマーなどに取材した著書『葬送の仕事師』につながっている。

    「当時つけていたmixiの日記とメモをもとに、今回の本を書きました。そのときの気持ちを文章で表現するのに苦労して、何度も書き直しています。本書は、親を送ることで大変な思いをした人に読んでほしい。失敗だらけでも精一杯やれば送ることができるのだと思ってもらえればうれしいです」

    (構成・河上進)

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    いのうえ・りつこ

     1955年、奈良県生まれ。タウン誌記者を経て、フリーライターに。大阪を拠点に活動していたが、2010年から東京在住。著書に『はじまりは大阪にあり』『旅情酒場をゆく』『さいごの色街 飛田』『遊廓の産院から』など

    <サンデー毎日 2015年12月6日号より>

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