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余録

水を入れた金の鉢と梅花の枝を用意させた秀吉が…

 水を入れた金の鉢と梅花の枝を用意させた秀吉(ひでよし)が、千(せんの)利(り)休(きゅう)に「生けてみろ」と命じた。鉢は大きく枝は立たない。利休はすぐに枝を逆さに持ち、さらりとしごいた。落ちた花やつぼみが水面に浮いたさまがたいそう風流だったとか▲「困らせようと思っても、困らぬやつじゃ」と秀吉は上機嫌だったという。だが手持ちの材料を予想外のかたちで用いて目的を達成する機転は、何も利休だけのものではない。エンジニアリング(工学)の初心も同じだろう▲月に向かうアポロ13号の爆発事故を描いた映画「アポロ13」で印象深かったのは、船内の二酸化炭素を減らすため手持ちの備品からフィルターを手作りする場面だった。廃棄物バッグ、宇宙服のホース、ビニールテープ、飛行計画書の紙などが乗組員の生命を救った▲宇宙空間での創意工夫といえば、日本ではそれによって数々の試練を乗り越えて使命を達成した初代「はやぶさ」が思い出される。そして今度は2010年に主エンジンの故障で金星の周回軌道投入に失敗した探査機「あかつき」のちょうど5年ぶりの再挑戦である▲手中にあるのは5年の時を隔ててやってきた軌道投入のチャンスと本来は姿勢制御に使う四つの小型エンジンだった。これらすべてを減速のために連続噴射して楕円(だえん)形の周回軌道に乗せる計画である。噴射は予定通り完了し、軌道投入の成否はきょう正式発表される▲挫折(ざせつ)による失意、次の好機を待つ忍耐、そして時を得ての再起−−この物語にわが身を重ね合わせる方もおられよう。最初は意地悪をした金星の女神ビーナスにも何とか言わせたい。「困らぬやつじゃ」と。

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