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余録

山田銑太郎というのは…

 山田銑太郎(やまだせんたろう)というのは、作家の国木田独歩(くにきだどっぽ)がひょんなことから知り合った巡査だった。非番の日に独歩がその家を訪ね、杯を酌(く)み交わすうちに引き出しから書き物を出し「見てもらいたい」という。それは「題警察法」という漢文だった▲「夫(そ)れ警察の法たる事無きを以(もっ)て至れりと為(な)す。事を治むる之(これ)に次ぐ」。警察は功のないのが一番良く、功を立てるのは次善である。最上の法は治めるのでも功を立てるのでもなく、事件を未然に防ぐことにほかならない▲山田巡査は上機嫌でこれを読み上げ、独歩もあいづちを打ちつつ大いに盛り上がる。結果、警察の道を尽くす者は功(こう)名(みょう)も治績(ちせき)もなく、その神機(しんき)妙(みょう)道(どう)は愚者には理解できぬ−−ということで2人は意気投合(いきとうごう)した。この小説「巡査」は1902(明治35)年の作である▲「神機妙道」とは隠れた霊妙な機微(きび)をいうのだろうが、何とも情けない神機妙道もある。してもいない捜査の費用を請求して飲食費に流用し、警官自らが刑事事件の容疑者になってしまうというお粗末である。兵庫県警宝塚署の少年事件担当者らの集団不祥事だった▲非道な殺人の容疑者を捕らえれば警察官だった衝撃に心が凍った今年だった。こちらはいじましい公金流用だが、職務にかかわる日常的不正で、かかわった人数も多い。市民の信頼を損ね、職務に精勤する同僚を意気阻喪(いきそそう)させることはなはだしいといわねばならない▲功名も成績も求めず、ひたすら世の安寧(あんねい)のために力を尽くすという明治の巡査の心意気は作家が書きとどめた。誰にでも分かる平成の「神機妙道」を新聞が書きとどめる機会はこれきりにしてほしい。

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