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京都・ものがたりの道

錦市場で年迎え=彬子女王

多くの人でにぎわう師走の錦市場=京都市中京区で、小松雄介撮影

 今年はいまひとつ秋を感じられないまま、いつの間にか冬がすぐそこにやってきていたような気がする。気付いたときには、お山の木々は赤や黄色の葉を落とし、街には冷たい北風が吹いていた。

     凍(い)てつく寒さの京の冬。でも、そのつらく厳しい響きとは裏腹に、冬を迎える師走の京都は、生き生きと輝きを増すような気がするのである。

     京都の街が輝く理由。それはやはり、お正月の準備が始まるからではないだろうか。

     12月13日の事始めを境に、煌(きら)めくクリスマスのイルミネーションを片眼(かため)で眺めつつ、京の人々は新しい年へ気持ちを向ける。

     事始めは、年神さまをお迎えする棚を設け、神棚の清掃、すす払い、門松やお雑煮を炊くための薪(まき)などを山に取りに行くなど、年迎えの支度を始める日。舞妓(まいこ)さんや芸妓さんたちにとっては、普段お世話になっているお茶屋さんやお師匠さんのところをまわり、1年の感謝と翌年の挨拶(あいさつ)をする日でもある。この華やかな映像がテレビのニュースで流れると、ああ、もう年の瀬だな……と思い、気持ちがきゅっと引き締まるのである。

     なかでも、師走の京の街で一番のにぎわいを見せるのは、やはり錦小路通ではないだろうか。そのわけは、言わずと知れた錦市場。今年で創設400周年の歴史を誇る、「京の台所」があるからである。

     錦市場は、寺町通から高倉通の間にある、120以上の店が軒を連ねる一大商店街。色鮮やかなアーケードに覆われ、雨の日も風の日も、地元の人たちはもちろん、毎日多くの観光客や修学旅行生が訪れる場所となっている。

     市場の始まりは、なんと平安時代にさかのぼる。新鮮な魚を御所に納めるにあたり、魚を冷やすための冷たい井戸水が豊富に出る錦のあたりに、魚問屋が集まってきたことによるのだそうだ。江戸時代に入り、幕府から魚問屋の称号を許され、今年でちょうど400年。今も昔も、錦は「京の台所」なのである。

     普段から活気のある錦市場だけれど、年の瀬の雰囲気は特別である。「歳(とし)の市」の幕がかかった商店街は、とにかく人、人、人。「ええもん置いてあるけど、ちょっと高いし、錦で買い物なんて普段はしいひんわ」というお母さまたちも、お正月の食材だけは錦市場で買うという方たちが多い。これが「京の台所」の力量なのだろう。

     伝統的な京料理のひとつ、「芋棒(いもぼう)」に欠かせない棒鱈(だら)や海老(えび)芋が店先に並ぶ。おせち料理に使われる黒豆やくわいに金時にんじん、数の子、かまぼこに祝い鯛(だい)、お雑煮用の白味噌(みそ)やお餅、お鏡さんの上に乗せる葉つきの橙(だいだい)などが、所狭しとひしめき合っており、歩いているだけですっかり気分はお正月である。

     威勢の良い声をかけてくれるお店の人たちの表情も、心なしかいつもより晴れやかで、誇らしげに見える。買いにきたお客さんには、おいしい食べ方や保存方法、ひとつひとつのおせち料理に込められた意味などを、丁寧に説明してくれる。テレビや本の情報ではなく、こうしてお店の人に直接教えてもらったことは、きっと心に残るはずだ。お店の人も、お客さんも、一人一人が対話の中からお正月を感じる。スーパーや百貨店でただ食材を買うだけでは感じられない、ぬくもりのあるお正月を錦市場で知る。だからこそ、お正月は京の人々の生活の中にあり、毎年暮れになると、みな錦市場に足を運ぶのだろう。京の年迎えは、寒さの中にほんのりとしたあたたかさを感じるものなのだ。

     今年もまた、歳の市の喧騒(けんそう)が、錦市場の外まで聞こえてくる時期がやってくる。=次回は来年1月23日


     ■人物略歴

    あきこじょおう

     1981年、寛仁(ともひと)親王殿下の長女として生まれる。学習院大を卒業後、オックスフォード大で在外の日本美術コレクションの調査・研究にあたった。京都産業大学日本文化研究所研究員。2012年、子どもたちに日本文化を伝える団体「心游舎(しんゆうしゃ)」を創設した。雑誌『和樂』に連載した随筆をまとめた『日本美のこころ』(小学館・4320円)が今週刊行された。

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