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離別23年、集中治療室で父と再会

亡くなった中山貢治さんの自宅から見つかったアルバムを見つめる美奈さん(左)と将太さん=大阪市内で2015年12月16日、大西岳彦撮影

 「パパ、もっと話したかった」。今年10月、大阪市住之江区の車道に置かれたコンクリートブロックにバイクが衝突した事件で、犠牲になった無職の中山貢治さん(51)の子3人が初めて毎日新聞の取材に応じた。家庭の事情で23年間、離ればなれだった父と子。中山さんの身の回りからは家族への思いが詰まったたくさんの遺品が見つかり、子らは「父ともう一度向き合う機会を奪われた」と悔しさをにじませた。

     「パパが大変な事故に遭ったらしい」。10月23日夕、次女の美奈さん(28)は長女の美月さん(30)から電話で伝えられた。駆け付けた病院の集中治療室で目にしたのは、23年前の面影すら確認できない父の姿。頭には白いガーゼが巻かれ、体には輸血や投薬のチューブがつながれていた。

     「目覚ましてくれや」。長男の将太さん(32)は呼び掛けた。美月さんも手を握り、「娘が今年生まれたんやで。孫を抱っこしたって」と話し続けた。

     「私は高校卒業後に和菓子職人になった。甘い物が好きだったよね。いつか食べさせてあげるね」。美奈さんが耳元で語り掛けると、中山さんの目にうっすら涙が浮かんだ。しかし、3人の願いは届かず、約2週間後に息を引き取った。

     中山さんは元妻との間に、将太さん、美月さん、美奈さんを授かった。若い頃から大型バイク「ハーレーダビッドソン」とロック歌手「エルビス・プレスリー」が大好きだった。一家は住之江区のマンションで暮らしていたが、中山さんは1992年夏に離婚。幼い3人を家に残し、そのまま消息を絶った。「なぜ家族を置いて出て行ったのか。自分からは会いたくない」。美奈さんは、そう思い続けていた。

     しかし、今年6月、美奈さんの心境に変化が生まれた。年を重ねた父が夢枕に立ち、寂しそうに美奈さんを抱きしめた。もう一度会いたいとの気持ちが、日増しに込み上げていた直後の事件だった。

     中山さんは事件時、かつての自宅マンションからわずか数百メートル先の住宅で1人で暮らしていた。3人は遺品整理などの際、その事実に驚かされた。整頓された部屋の片隅には茶色く変色したアルバムなどが大切に保管され、家族写真も見つかった。

     残された銀行の通帳を調べると、4桁の暗証番号は将太さんの誕生日の日付だった。事件の時に持っていた携帯電話には、美月さんがフェイスブックに載せた最近の顔写真が保存されていた。

     将太さんは「23年間どんな気持ちで生きてきたのか。もう確かめることもできない」。美月さんも「パパはずっと家族のことを気にかけてくれていたのかな」と目を赤くした。

     今月17日、中学2年の男子生徒(13)が大阪府警に補導された。「13歳なら命の重さや痛みが分かるはずだ。家族の将来を奪ったという十字架を一生背負って生きてほしい」。美奈さんは怒りを押し殺して訴えた。【吉村周平】

     【ことば】大阪・住之江バイク転倒死事件

     10月23日午前0時ごろ、大阪市住之江区北島1の府道で、路面に置かれたコンクリートブロック(直径約30センチ、高さ約12センチ、重さ約16キロ)にバイクが衝突した。運転していた中山貢治さんは転倒して頭を骨折。11月7日夜に死亡した。大阪府警住之江署は12月17日、市内に住む中学2年の男子生徒を傷害致死の非行内容で補導し、児童相談所に送致。男子生徒は「大騒ぎになるのが見たかった」と話したという。

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