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余録

「百鬼園先生思へらく、恒債無ければ…

 「百(ひゃっ)鬼園(きえん)先生思へらく、恒債(こうさい)無ければ、恒心(こうしん)なからん」。「阿房列車(あほうれっしゃ)」などの作家、内田(うちだ)百(ひゃっ)ケン(けん)の別名「百鬼園」は「借金」の語呂合わせといわれる。恒債は常態化した借金、恒心は道義心のこと、むろん孟子(もうし)の「恒産(こうさん)無ければ……」のもじりだ▲何しろ勤め先の給料日には掛け取りが詰めかけ、原稿を書けば原稿料の出るのが債鬼(さいき)に知れるからいやだと記す百ケンである。恒債も電車賃がないから自動車を雇って金策に走るという金銭感覚の結果だから減りようがない▲戦後、その百ケンと一万田尚登(いちまだひさと)日銀総裁が並んだ写真がある。本の話WEBの「文春写真館」にある一枚で、「内田先生は借金の名人と伺(うかが)っております」「総裁は貸さない名人と伺っております」。かしこまったような一万田と、堂々たる百ケンの対比が何ともいえない▲時は移り、日銀が国の借金である国債を市場からどんどん買い上げる今日である。歳入の35・6%を借金でまかなうという来年度予算案の一般会計総額は96兆7218億円で過去最高を更新した。これで来年度末の国の恒債、つまり国債発行残高は838兆円になる▲それでもこの予算案の借金への依存度は8年ぶりの低水準という。所得増や消費税率引き上げ前の駆け込み消費などで、税収がバブル期以来の高水準になると見積もっているからである。「来年必ず金の入るあてがある」。この手の話、どこかで聞いたことはないか▲道楽はいいが、暮らしに必要な金の借金はいけないと独自の借金哲学も披露していた百ケンだった。膨らむ借金に悪びれない平成の日本政府の堂々たる「恒心」をどう評するか、聞いてみたかった。

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