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震災から5年 希望の灯はともせたか

 例えば、「雄牛」を表す言葉は全国各地で異なる。「オトコウシ」や「コッタイ」などがあるが、宮城県石巻市では方言で「ド」と呼ぶ。

     東北大の小林隆教授らの調査によると、被災地から消えていく危機にある方言は多い。「ド」もその一つだ。代々住み慣れた土地からの人口流出が大きく影響している。

     「森」は福島県東部にある南相馬市や浪江町、双葉町で「エグネ」や「カコイ」と言う。これもまた消えるおそれがある。使われてきた地域から、原発事故で住民が離れていったためだ。

    共同体こそ復興の力

     地方の貴重な文化が失われるばかりではない。小林教授らは著書「方言を救う、方言で救う」で「地域の復興は文化の復興と一体にならなければ成し得ない」と指摘する。

     その理由を「人々の暮らしは、地域の文化の中で営まれてきたものだからである」と述べている。

     東日本大震災から3月で5年になる。しかし、復興は遅れている。方言に象徴される地域の共同体が崩れ、心の支えを失い、いまなお18万人以上が避難生活を余儀なくされている。中でも福島県の避難者は約10万人で、帰還のめどさえ立たない人が多い。

     安倍晋三首相は昨年10月、政府の復興推進会議で、住宅再建を急ぐとともに「コミュニティーの形成支援など心の復興を成し遂げていく」と述べた。心の復興とは何か。

     振り返れば2011年6月、政府の東日本大震災復興構想会議は「復興への提言〜悲惨のなかの希望〜」をまとめ、当時の菅直人首相に答申した。単なる復旧ではなく、創造的な復興を目指す内容だった。

     どんなに今の生活がつらく厳しくても、将来に希望があれば人は耐えることができる。そんな発想が原点にあった。

     復興構想会議の提言には「地域・コミュニティー主体の復興を基本とする。国は復興の全体方針と制度設計によってそれを支える」と記された。被災地に「希望」の灯をともせるかどうかは政治に託された。

     しかし現実を見れば、政治がそれを実現できたとは言い難い。

     被災地の復興は、安倍政権が掲げる「地方創生」と重なり合う。高齢化、過疎化は震災によって被災地で一気に加速したからだ。

     政府は今年春からの5年を「復興・創生期間」と位置づけた。被災地を地方創生のモデルとする思いを込めている。だが国の「地方創生」には人口減少に歯止めをかけるための施策は並ぶものの、住民の暮らしの将来像をどう描こうとしているのかは、なかなか見えてこない。

     疲弊する地方の将来をどう考えればいいのか。04年に起きた新潟県中越地震の被災地に一つのヒントがあるだろう。

     被災地の大半は高齢化、過疎化が進む中山間地域である。その中で、集落や共同体の共助を基本にすえて「持続可能な山の暮らしの再生」「地域の資源や特性に応じた未来像の実現」という目標を共有した。地域外からの多くの支援者と交流を続け、復興の取り組みに生かした。

    今一度連帯の意識を

     震災で過疎化が進んだのも事実だが、そればかりではない。復興の過程を専門家らが検証する新潟県の「中越大震災復興検証調査会」は昨年3月の報告書で指摘している。

     「震災10周年を一つの契機としてあらためて被災地を訪れた人の印象は、おそらく人口減少による衰退を実感するのではなく、人々が一人一人生き生きとその地で活動し、交流し、山の暮らしの豊かさを享受しているというものではないだろうか」

     災害の規模も環境も東日本大震災とは異なる。だが人口減少の中で、いかに中山間地の豊かさや個性を維持し、生かしていくかは全国共通の課題である。東日本大震災の被災地でも地域の特色を生かし、着実に復興を進めているところもある。

     震災の「復興・創生期間」が最終盤となる20年には東京五輪・パラリンピックが開かれる。東京に人も資本もさらに集中するだろう。盛り上がる首都と、それどころではない地方。両者の間で国民の意識のずれが広がりかねない。

     意識の分断が進めば国民の一体感は失われる。復興構想会議の提言を今一度、思い出してほしい。

     「今を生きる私たち全てがこの大災害を自らのことと受け止め、国民全体の連帯と分かち合いによって復興を推進するものとする」

     3・11には、これまでの5年の取り組みをしっかり検証する必要がある。そのうえで、この先の5年、被災地を含めて日本の将来をどうデザインし、それぞれの地域で「希望」の灯をともしていくのか。政治の仕事であると同時に、地域に暮らす私たち一人一人に問われている。

     その土地を支えてきた「がんばっぺし」や「けっぱれ」を守ることから、次の時代を考えたい。

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