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岡崎 武志・評『心に太陽をくちびるに詩を』『泣くのはいやだ、笑っちゃおう』ほか

詩は人生のかたわらにある

◆『心に太陽をくちびるに詩を』Pippo・著(新日本出版社/税抜き1600円)

     かなりの読書人でも、詩は分からないと敬遠する向きがある。詩といえば恋愛や青春を謳(うた)い上げ、大人には気恥ずかしいと思われている。そうではないことは、Pippo(ぴつぽ)『心に太陽をくちびるに詩を』を読めば分かる。

     近現代詩人の詩を朗読紹介する会を、長年続けている著者が、語りかけるように詩の魅力を説く。たとえば串田孫一の「山頂」。「まあここへ腰を下ろしましょう/疲れましたか」で始まる詩を解説するのに、「あなたは、あなたの山の何合目に今、歩をすすめているでしょう」と書き始める。人生と詩は直結しているのだ。

     あるいは「おうい雲よ」と呼びかける詩で知られる山村暮鳥(ぼちよう)が、じつは「常に貧困と、病気との闘い」にあったと本書で知る。むしろ、人生と苦闘して渋くなった大人こそ、「くちびるに詩を」必要としている。この絶好の詩の入門書は静かにそのことを教える。

     「時をこえ、日々の暮らしや闘いをはげます言葉たち」(帯文)が、ここに詰まっているのだ。

    ◆『泣くのはいやだ、笑っちゃおう』武井博・著(アルテスパブリッシング/税抜き1800円)

     タイトル『泣くのはいやだ、笑っちゃおう』は、大人気の人形劇「ひょっこりひょうたん島」主題歌の一部。武井博は、その担当ディレクターだった。「子ども番組に笑いを」と生まれた伝説の放送の軌跡を回想する。まだ20代だった脚本の井上ひさしと山元護久。人形に命を吹き込んだ「ひとみ座」、そして個性的な声のキャスティングと、最高視聴率37.5%を生み出す苦しみと喜びが再現される。貴重な写真と放送台本を掲載し、頭に映像が甦(よみがえ)る。

    ◆『消滅世界』村田沙耶香・著(河出書房新社/税抜き1600円)

     三島賞受賞作家・村田沙耶香の新作長編『消滅世界』は、近未来の日本を予言する。大きな戦争の後、妊娠・出産は人工授精によるものとなり、セックスする者は減る。母と二人暮らしの雨音は、アニメのキャラクターに恋をし、無菌室で育てられる性欲。雨音は結婚するが、夫婦間の性交渉は近親相姦(そうかん)として忌避され、男性の妊娠が試みられる社会が目前に。セックスも家族も「消滅」した世界に、何が起こるのか。恐ろしくもリアルな問題提起。

    ◆『カラスの補習授業』松原始・著(雷鳥社/税抜き1600円)

     松原始『カラスの補習授業』は、前著『カラスの教科書』に続く「カラス」本。その生態、特色などを最新研究から解説する。カラスはどういう鳥かをおさらいしつつ、形態や運動、感覚、知能程度などをつぶさに検証する。雑食だが、アルコールには弱い。羽が黒い理由の推論、地上を歩く際の重心位置と足の関係など、知って得すると思えぬトリビアな知識が満載。だが、著者の軽妙な語り口に乗せられ、ついついカラスにくわしくなってしまう一冊。

    ◆『明治の建築家 伊東忠太 オスマン帝国をゆく』ジラルデッリ青木美由紀・著(ウェッジ/税抜き2700円)

     伊東忠太といえば、築地本願寺などの設計で知られる、日本建築界の第一人者。ジラルデッリ青木美由紀『明治の建築家 伊東忠太 オスマン帝国をゆく』は、日露戦争期、オスマン帝国(現・トルコ)を旅した伊東の8カ月半を追う労作だ。彼は旅の記録を「野帳」と呼ぶノートに絵入りでつづっていた。明治の日本人がかの地で何を見て、何を考えたか。足どりをたどるうちに、読者は100年前のオスマン帝国を一緒に旅した気分になるだろう。

    ◆『ART BOX フェルネーコ』シュー・ヤマモト/著(講談社/税抜き1980円)

    「あの名画だ」と思ったものの、よく見るとなんと猫。あまりに“それ”っぽくて思わず二度見してしまうのが『ART BOX フェルネーコ』だ。シュー・ヤマモトは古今東西の有名絵画の猫バージョンを描くイラストレーター。本書は「フェルネーコ画伯」の手によって描かれた作品集(だそう)。表紙の元の絵は、ご存じ「真珠の耳飾りの少女」。哀愁と憂いを帯びたまなざしが何かを語りかけてくるよう。ドキッとするのはそのためか。猫なのに。

    ◆『流れ星の冬』大沢在昌・著(双葉文庫/税抜き759円)

     大沢在昌『流れ星の冬』は、男の直球ハードボイルド長編。大学教授を務める葉山英介65歳は、妻を亡くし、愛人を持つ平穏な日々を送るダンディー。しかし「流星団」と名乗る、成金から物資を奪う強盗団の一員だった過去がある。40年前に起きた宝石強奪と、降り掛かった殺人の罠(わな)。秘(ひそ)かに寝かせているブツ。それらが封印を解いて、かつての仲間と葉山に忍び寄る。愛する者と男の誇りを守るため、男は再び銃を握り、敵手に立ち向かう。

    ◆『悦ちゃん』獅子文六・著(ちくま文庫/税抜き880円)

     獅子文六の作品中、とりわけ人気の高いのが昭和11年に新聞連載された『悦ちゃん』。妻に先立たれた売れない作詞家の「碌(ろく)さん」と、その娘「悦ちゃん」の、ちょっと変わった父子関係をほのぼのと描き、映画やドラマにもなった。「碌さん」に舞い込む再婚話と、さまざまな候補者。果たして悦子の母親の座には誰が座るのか。そんな興味で読者を釣りながら、著者は10歳のおませな少女の生態を生き生きと描き成功した。家族で回し読みしてください。

    ◆『白鯨との闘い』ナサニエル・フィルブリック/著(集英社文庫/税抜き780円)

     巨大なクジラが捕鯨船を大破させ、船員たちは太平洋をさまよう。1820年に実際に起きた海難事故を、詳細に調べノンフィクションに仕立てたのがナサニエル・フィルブリック(相原真理子訳)『白鯨(はくげい)との闘い』。この事故はメルヴィルの名作『白鯨』にインスピレーションを与えたが、じつは、小説が終わったところから悲劇が始まるのだ。極限の飢餓状態から起きたサバイバル、ついには人間同士の食いあいが……。映画化され今月中旬より全国公開。

    ◆『カレル・チャペック』飯島周・著(平凡社新書/税抜き820円)

     飯島周(いたる)『カレル・チャペック』の副題は「小さな国の大きな作家」。たしかに、約80年前に没したこの作家は、中欧の小国チェコに生まれながら、その活動は多岐にわたる。愛犬を写真・イラスト・文で描く『ダーシェンカ』、庭いじりの聖典『園芸家の一年』、SF『ロボット』と、執筆ジャンルは幅広く、また言論弾圧やファシズムに抵抗したジャーナリストの側面も見逃せない。本書ではその生涯をテーマ別に紹介し、興味深い人間像にも迫る。

    ◆『働く女子の運命』濱口桂一郎・著(文春新書/税抜き780円)

     ジェンダーギャップ指数2015では、日本が145カ国中の第101位。男女雇用機会均等法施行以後も、日本の企業は女性の活躍を阻む。労働問題が専門の濱口桂一郎は『働く女子の運命』で、具体例やデータを示し、「働きにくさ」の真相を解く。父親が家族を養い、女性が家事と育児を担う旧来のシステムが、崩れそうでいて現存する。欧米とは違う、日本型男女平等のねじれは深刻である。非正規雇用も突き詰めれば、女性労働問題に行き着く。

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    おかざき・たけし

     1957年生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。『上京する文學』をはじめ『読書の腕前』など著書多数

    <サンデー毎日 2016年1月24日号より>

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