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記者が開示請求を体験 自分の個人情報、使われ方は?

 自分の情報は誰にどう使われるのか−−。個人情報の扱いには、そういう「気持ち悪さ」が付きまとう。マイナンバー制度に対する不安の大きな部分も、突き詰めればそこに行き着く。あまり知られていないが、行政や企業は保有している個人情報を本人に開示する義務がある。自分の情報の使われ方をどこまで知ることができるか、一市民として試してみた。【日下部聡】

    手続き経て返答

     「自己情報開示」と呼ばれる制度があり、民間対象の「個人情報保護法」と、政府や自治体を対象にした「行政機関個人情報保護法」の双方に手続きが定められている。請求があれば企業や官庁は、請求した人に関して保有している個人情報を開示しなければならない。

     まずは「Tポイントカード」の情報を請求してみた。さまざまな店でポイントがたまる。「Tカードはよろしいですか」とレジの店員に言われると、つい出してしまう。

     Tポイントカードを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)のサイトから用紙を印刷し希望の項目にチェックを入れる。インターネット上でも請求できるが、「Yahoo!JAPAN」のIDが必要。「ポイントプログラム等の提供先における利用の履歴」など3項目を選ぶ。開示されるのは請求時点で保有する情報という。手数料と送料計4400円を定額小為替で同封し、昨年末に用紙を郵送した。

     正月休み明けに封書が届き、2014年11月からほぼ1年分の利用175件を記した紙が入っていた。ブレンドコーヒー、炭酸水、おにぎり、ヨーグルト−−商品と値段、使った店名と利用日がびっしり並んでいる。大半が弊社のビル内にあるコンビニ「ファミリーマート」だ。「会社でこんなにコーヒーや炭酸水を飲んでいたのか」と我ながら驚く。

     取材先で入った「ドトールコーヒー」の記録、自宅近くの「マルエツ」でミョウガやネギを買った記録などが交じる。第三者がこのリストを見れば、私の行動パターンは大体分かってしまうだろう。

     これらの情報のうち、住所・氏名などを取り除いたものはCCCグループ企業や「提携先企業」に提供、マーケティングに利用される。ただし、自分の情報がどの企業に提供されたかまでは開示されなかった。情報が提供される可能性のある企業は1月12日現在、毎日新聞社を含め93社で、そのリストは公表され、カード利用者が提供を拒否できる手続きはある。

     ポイントサービスは、自分の行動記録を企業に売っているという側面もある。把握されたくない時はカードを使わなければいい。しかし、公的機関の場合はそうはいかない。

    運転免許は回答拒否

     「自分の住民票に誰がアクセスしたか知りたい」と、住んでいる東京都内の区役所窓口で頼むと、中年の男性職員が手際よく対応してくれた。時々、同様の請求があるという。指示に従い、自己情報開示請求書に次のように記入した。「自己に係る住民票等交付申請書の写し」。前年度まで保存しているというので、期間は14年4月以降とした。

     コンピューターに残るアクセス記録(ログ)のようなものを想定したが、職員いわく「ログだけ見ても分からない。ログを手がかりに誰がアクセスしたかさらに調べることになる」。10日ほどして開示され、拍子抜けした。窓口で渡されたのは、14年に自分で取った住民票の交付申請書のコピー1枚。何のために取ったか忘れてしまったが、自分のアクセスだけが確認できたわけだ。

     後味が悪かったのは運転免許証。昨年末、東京・霞が関の警視庁を1人訪ねると、情報公開センターに案内された。男性2、女性1の若い係官3人がカウンターの向かいに座る。距離は数十センチ。圧迫感がある。趣旨を説明すると、女性係官が「少々お待ちください」と奥の部屋に消え、5分ほどしてメモを手に戻ってきた。「では、このように(開示請求内容を)書いていただけますか」

     「私の運転免許証に関して他の行政機関からの照会に対する運転免許本部長からの回答書」。「行政機関」の部分を、行政に限らぬよう「他の機関」として請求書を提出した。

     1カ月ほどして郵便で届いた通知書には意外なことが書かれていた。「存否を明らかにしないで、開示請求を拒否します」

     回答書があるのかないのか自体を教えないということだ。記されていた理由を要約すると、次のようになる。「取り締まりや徴税などに関しての照会がある。その存否を答えるだけで、請求者本人が調査対象とされているという事実や状況が推認され、関係機関の調査目的を達成することが困難になる」

     簡単に言えば「犯罪者が司直の手が迫っていることに気づいてしまう」ということだろう。情報公開や個人情報保護の法制にはこの「存否応答拒否」の規定があり、都条例も例外ではない。しかし、私には「何か調べられているかもしれない……」という気持ち悪さだけが残った。

    例外規定乱用に懸念

     近年は自分に関する情報の扱い方を自分で決める「自己情報コントロール権」が日本でも認められつつあり、マイナンバーでは、これに近い制度が予定される。政府は、来年設置する個人用ホームページ「マイナポータル」に、自分のマイナンバー情報に対する第三者のアクセス記録を確認できる機能も持たせる方針。

     しかし「公益上の必要がある時」は、マイナポータルと無関係に情報を第三者に提供できる。提供先は主に捜査機関が想定され、制度運用を監視する第三者機関「個人情報保護委員会」の権限も及ばない。

     本人の同意なく第三者提供を認める例外規定は官民問わず、全ての個人情報にある。「監視」や「のぞき見」などの乱用にどう歯止めをかけるか、議論は今後も不可欠だ。


    開示徹底で信頼性確保 先行するエストニア

     個人情報の扱いを考える上でヒントになるのが、自己情報開示を徹底することによって信頼性を確保している欧州のエストニアだ。

     電子政府で知られるエストニアでは、15歳以上の国民にIDカードの所持が義務づけられている。顔写真や氏名、生年月日、11桁の番号が記載され、ICチップには電子署名などが収められている。

     この番号とPINコード(暗証番号)を使ってポータルサイトにアクセスすれば住民登録、年金や納税の記録、不動産登記から診療記録、銀行口座まで、官民を問わず、さまざまな自分の個人情報を閲覧できる。そして、それを誰が見に来たかの「足跡」を確認できる。捜査機関も例外ではない。犯罪誘発や証拠隠滅の恐れがある場合は、こうした閲覧記録を伏せることも可能だが、それも裁判が始まるまでだという。

     不審なアクセスがあれば、データ保護調査庁が調べた上で、勧告や制裁などの措置を取る。

     元エストニア経済通信省幹部で、日本を拠点に活動する経営コンサルタント、ラウル・アリキビ氏(36)は「エストニアでは紙のデータの方が危ないと考えられている」と話す。盗み見されたり捨てられたりしても証拠が残らないからだ。「政治家はあまり信頼されていないけれど、電子技術は信頼されています」

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