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<記者の目>鹿児島 強姦事件無罪確定=志村一也(西部報道部)

「現場」の硬い地面を触る岩元さん。1審判決は、ここで「暴行」された女性にけががなくても「不自然ではない」と認定した=鹿児島市で1月8日、志村一也撮影

第三者が捜査検証を

 2012年に当時17歳の女性を暴行したとして、「強姦(ごうかん)」罪で起訴された元飲食店従業員、岩元健悟さん(23)の無罪が1月27日、確定した。逆転無罪を言い渡した福岡高裁宮崎支部の判決(1月12日)は捜査側のDNA型鑑定に数々の疑問を投げかけた。警察庁は改善を図るための通達を出したが、判決は鹿児島県警による「証拠隠し」の可能性にまで言及しており不十分だ。なぜ岩元さんは2年以上身柄を拘束されたのか。第三者による検証が必要だ。

     控訴審判決を4日後に控えた1月8日夜、私は岩元さんと一緒に「現場」とされた鹿児島市の路地を訪れた。すると、捜査や懲役4年の実刑とした14年2月の鹿児島地裁判決(安永武央裁判長)への疑問が次々とわいてきた。

     県警の描いた「事件」の筋書きは、12年10月7日午前2時過ぎ、鹿児島市の繁華街で女性に声を掛けた後、無理やり近くの路地に連れ込み暴行した−−というもの。岩元さんは「酔っていて覚えていない」と否認してきた。

    犯行時間「45秒」、女性にけがなく

     疑問点の一つ目は、自転車にまたがった岩元さんが、片手で女性の手をつかみ、100メートル以上引っ張った、というストーリーだ。乗っていた自転車はロードバイク型。前傾姿勢で乗りながら、いやがる女性を引っ張って移動できるか。女性は体重約50キロ。岩元さんは45キロほどだ。しかも泥酔状態で、事件前には近くを自転車で蛇行運転し、タクシーに衝突しそうになっている。

     「夜も人通りが多いし、女性の方が体格は上。逃げようと思えば逃げられたはず」。岩元さんがつぶやく。周辺は「事件」のあった時間帯でも酔客が多く、代行運転の車が客待ちをしている。

     疑問点はまだある。「強姦」に要した時間が最大でも45秒しかない点だ。女性は「バイクが通過した後に暴行された」と証言した。約14メートル離れた防犯カメラに、バイクとみられる光が映り、消えてから「事件」後に女性が1人で歩く姿が映っており、その間の時間は約45秒しかない。

     さらに大きな疑問がある。「暴行現場」の地面はアスファルトで舗装されている。多くの小石が転がり、手を当てるだけで、小石が食い込み痛みが走る。しかし、女性にけがはなく、衣服にも損傷がない。

     岩元さんは地面に手を当て、「ここで暴行して無傷はありえない」。私も同感だ。「不自然ではない」と判断した1審の裁判官は、現場を見たことがあるのだろうか。

     4日後の2審判決。私が感じた数々の疑問点を踏まえ、無罪を言い渡した。法廷で「当然」と感じながら、涙を流して嗚咽(おえつ)する岩元さんの姿を見て、捜査機関や1審判決に改めて怒りを覚えた。

    証拠隠蔽の疑惑、晴れてはいない

     2審判決が指摘した県警のDNA型鑑定の問題点を整理すると、(1)鑑定経過を記したメモを廃棄したため鑑定手順を再現できない(2)女性の体液から精液を抽出できたのに微量で鑑定できなかった−−だ。警察庁は無罪が確定した1月27日、メモの保存や、試料が微量でも鑑定を実施することを全国の警察に指示した。

     一歩前進だが不十分だ。2審判決は(2)について「型が検出されたのに、岩元さんの型と整合しなかったことから、『鑑定不能』とした可能性すら否定できない」とまで述べている。不都合な鑑定結果を握りつぶす「証拠隠し」。本当なら大スキャンダルだ。

     鹿児島県警を巡っては、同様に冤罪(えんざい)を招いた03年の鹿児島県議選を巡る公職選挙法違反事件(志布志(しぶし)事件)の後、警察庁が捜査の問題点を検証したが、再発を防げなかった。もはや、第三者による検証しか道はないはずだ。にもかかわらず、県警の仙名節男(せんみょうせつお)刑事部長は1月28日の記者会見で「改めて検証する余地はない」と言い切った。

     私は入社から約4年間、主に事件取材を担当し、警察官が日夜努力している姿を知っており尊敬もしている。だからこそ今回の捜査は許せない。九州のある県警幹部が「精液が検出できたのに鑑定できないなんておかしい。不都合だから隠蔽(いんぺい)したのではないか」と疑問視するほど異常な事態なのだ。

     岩元さんは15年3月までの約2年4カ月、身柄を拘束された。暖房器具のない拘置所は、南国・鹿児島とはいえ冬はすきま風で冷え込み、寒さをしのぐために服や靴下を何枚も重ね着しても、足は霜焼けになったという。無罪を信じる父母とはアクリル板越しに会話するだけ。県警幹部は今「捜査は適正だった」と繰り返すが、開き直りは許されない。問題と真摯(しんし)に向き合い、改善を図ることが、不当に自由を奪った県警の責任だ。

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