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追い込まれる男たち 「仕事と同じ」過信し

妻の車いすを調整する鷲尾良孝さん=大阪府大東市で2016年2月3日、宮武祐希撮影

 介護殺人事件の約7割は男性が加害者だった。介護でつらい思いをするのは男女とも同じだが、介護現場では男性特有の悩みや苦労もあるとされる。認知症の妻に暴力をふるっていた兵庫県の80代男性が振り返る。「仕事と同じ感覚で、介護も完璧にこなせると勘違いしていた」【「介護家族」取材班】

 2007年にアルツハイマー型認知症と診断されてトイレにも行けなくなった妻を、男性は一人で介護していた。ある日、便で汚れた妻を入浴させようとしたが、暴れるように拒んだ。妻をひっぱたき、無理やりに浴室へ連れていった。他にも介護がうまくいかないと、妻に手をあげた。妻が認知症になるまでは暴力などふるったことはなかったという。

 男性は建設会社で定年まで約40年働き、現場監督として数十人の部下をまとめていた。欠陥のない仕事をし、従業員の安全も確保するため、決められた手順を厳守してきた。妻の介護でも1日の計画や手順を細かく決めた。しかし、介護は思い通りではなかった。

 朝起きると、妻がおむつから便を垂れ流し、部屋中の畳が汚れていた。深夜には突然起きて奇声を発した。降ってわいたような出来事に、男性は頭が真っ白になり、落ち込んだ。次第に妻にいらだつことが多くなり、いつの間にか手をあげた。

 男性は誰にも相談しなかったが、疲れ切った姿を見かねたケアマネジャーに強く勧められ、妻を施設に入れた。経済的に余裕があったこともあり、施設が見つかるのにそう時間はかからなかった。

 男性は悔やんでいる。「全てを一人で抱え、自分を追い込んでいた。妻に申し訳ない」

 約13年前に脳内出血で倒れた妻を自宅で介護している大阪府大東市の鷲尾良孝さん(68)も慣れない介護生活でストレスをため、追い詰められたという。

 約30年勤めた食器販売会社をやめ、スーパーの買い物かごを洗う会社でパートの仕事をしながら一人で妻を介護することにした。

 しかし、仕事を終えて帰宅してからの食事の準備、便で汚れた妻のシーツの洗濯などに追われた。夜中に何度もトイレ介助をして寝不足になり、職場で居眠りすることもあった。自分の時間がほとんどない暮らしに疲れ切り、次第に妻への口調はきつくなった。「死んでもいい」と考えることもあった。

 約6年前、ケアマネジャーの勧めで、男性介護者が集う民間の「陽だまりサロン」(大東市)に参加した。鷲尾さんは、他の男性も慣れない介護や家事に苦労していることを知る。つらさを他人に理解してもらい、気持ちがすっとしたという。今は旅行などで気分転換し、うまく妻と向き合えているという。

 陽だまりサロンの代表になった鷲尾さんは言う。「男性の多くは悩みを誰かに相談するのが苦手だ。一人で介護をする男性には日常を離れて仲間と愚痴を言い合う場が必要だ」

増える交流の場

 男性介護者が交流する場は少しずつだが、増えているとされる。

 先駆けとされるのが1994年に発足した東京都の「荒川区男性介護者の会」(通称・オヤジの会)だ。経験者を含めて在宅介護を担う男性が月1回、集い、悩みを相談し合っている。

 介護家族の支援団体や行政が男性介護者に限定した交流会を催す例もある。大阪市住吉区社会福祉協議会は2011年1月から、月1回の集いの場「ほっこりサロン」を開いており、毎回約15人が参加している。

 兵庫県三田市でも社会福祉協議会が11年に「男性介護者交流サロン」を主催し、料理教室などを開いた。参加者がこの活動を引き継いでおり、現在も男性介護者の会「ぼちぼち野郎」として月1回集まっている。

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