夜が明け始めた冬の海で紺野幸一さん(59)と長男の岬くん(15)は網を引き上げる。「厳しいなんつうもんでねえよ。生きてくのでやっとだ」。宮城県気仙沼市本吉町で自宅と5隻の漁船を津波に流された。震災直後、避難先で仲間と網を使った「漁師のハンモック」を作り、生活の糧にした。
震災から2年4カ月たち、やっと漁船が手に入ったが、首を痛めて手術。仕事が滞り、漁具の支払いのために漁に出る日々。先月、本格化したホヤの養殖が悪天候で流され、苦境が続く。自宅の再建には程遠い。
ただ、一筋の光がある。岬くんが今春、中学を卒業し、一緒に漁をすると決めた。「まだ危なっかしいんだ」。紺野さんの目がほんの少しだけ緩んだ。【梅村直承】