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社会人野球

ナックルで大リーグ挑戦 慶大生の佐野川投手

ナックルボールを投げ込む佐野川怜投手=東京都町田市の都立町田工高で2016年1月24日、大村健一撮影

 打者の手前で不規則に変化して「魔球」とも呼ばれるナックルボール。習得が難しく、日本球界では使いこなす投手は少ないが、社会人野球のクラブチーム、ウィーンベースボールクラブ(神奈川県鎌倉市)の投手で慶応大4年、佐野川リョウ(本名・怜)さん(22)は、約10年間磨き上げたこの変化球を武器に将来はプロ野球選手を目指す。米国でプレーするチャンスを求め、現在はアリゾナ州で開かれている合同トライアウトに参加している。【大村健一/デジタル報道センター】

 佐野川さんが試合で投げる球はほぼすべて、山なりのナックルボールだ。「どんな相手にも、ど真ん中に向かって無回転で投げることだけを考えている。球速105キロの球で打者を打ち取った瞬間は本当に楽しい」

 人さし指と中指を曲げて指先で押し出すように投げる。ほぼ無回転のボールは空気抵抗で縫い目の位置が微妙に変わることにより、不規則に変化する。直球を含めた他の球種はスピンを掛けることが重視されることが多く、正反対の球といえる。ただし、少しでも回転すれば打ちごろのスローボールとなる上、制球も難しい。

ナックルボールを投げ込む佐野川怜投手。限りなく無回転に近く、球の縫い目がはっきりと見える=東京都町田市の都立町田工高で2016年1月24日、大村健一撮影

 ウィーンベースボールクラブの練習で、佐野川さんの投げた球の軌跡を捕手の後ろから見ると、「左右にぶれるように揺れながら落ちてくる」というこれまでのナックルボールのイメージが覆った。大きく曲がることもあれば、浮き上がるように伸びてくることもある。変幻自在の球だ。「どんなにすごい打者に対しても自分にできることはいいナックルボールを投げることだけ。自分は科学が好きなので、流体力学の観点から見た面白さを感じながら投げられる点も魅力」という。

 佐野川さんは神奈川県藤沢市出身。小学1年で野球を始めた。中学では投手希望だったが、体が小さかったこともあり内野手だった。中学1年の時、米大リーグで200勝を挙げたナックルボーラーのティム・ウェークフィールド(元レッドソックス)の投球映像を見て「覚えれば、他にない投手になれる」と習得を決意した。

 ナックルボールを教えてくれる人はおらず独学だった。入門書には人さし指、中指、薬指の3本を折り曲げて握り、爪ではじくように投げることが勧められていたが、佐野川さんは「自分には人さし指と中指と2本だけを曲げた方が向いている」と気づいた。フォームもオーバースローよりもやや横手の方が投げやすかった。古武術の道場にも通い、「同じく無回転で投げる棒手裏剣は参考になった」。実戦で投げられるレベルになるまで約3年かかった。

 高校時代、登板機会を求めて野球部を辞めてウィーンベースボールクラブへ。社会人の打者を相手に腕を磨いた。

 大学の卒業論文のテーマもナックルボールを選んだ。慶応大環境情報学部の仰木裕嗣准教授(スポーツ工学)のもと、腕を中心にセンサーを付け、特殊なカメラで撮影し、投球時の指先や腕の動きを科学的に研究した。論文は大学内のコンテストで表彰された。

 昨年の都市対抗野球西関東大会予選でJX−ENEOS(横浜市)を苦しめるなど、社会人との対戦で徐々に通用するようになり、佐野川さんは「米国で自分の力を試したい」という思いが強くなっていく。米国には「あこがれの投手」で、1960〜80年代にかけて通算318勝を挙げたフィル・ニークロなど各年代に大活躍したナックルボーラーが、数は少ないものの存在する。「しっかりと無回転で変化する球を投げ続ける精度をさらに上げ、上のレベルで通用する球にしたい。ナックルボーラーが広く認知されている米国で自分の力を試したい」

 仰木准教授を通じて知り合った元米マリナーズ投手の長谷川滋利さんから「メジャーのナックルボーラーと比べても遜色ない球だ」と太鼓判を押されたことも、米国行きの背中を押した。

 佐野川さんはアルバイトでためた資金で1月末に渡米した。約1カ月半の間、米国やカナダ、メキシコなどの球団スカウトが集まるアリゾナ州でのトライアウトに参加。自分のナックルボールをアピールし、海外でプレーする道を探っている。

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