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10人の被爆者健康手帳交付命じる

 長崎の爆心地から12キロ以内で原爆に遭いながら、国が指定した被爆地域の外にいたため被爆者健康手帳が取得できない「被爆体験者」161人(うち9人死亡)が、長崎県と長崎市に被爆者健康手帳の交付申請却下処分取り消しなどを求めた訴訟で、長崎地裁の松葉佐(まつばさ)隆之裁判長は22日、原告のうち爆心地の東約7〜11キロで原爆に遭った10人の請求を認め、県、市に手帳交付を命じる判決を言い渡した。

     松葉佐裁判長は「原爆による年間積算線量が、自然放射線の世界平均(2.4ミリシーベルト)の10倍を超える25ミリシーベルト以上である場合には、健康被害を生じる可能性がある」と指摘し、10人についてはこの基準に該当すると判断した。

     被爆者を救護したケースなどを除き、国が指定した地域の外で原爆に遭った住民への手帳交付を命じた判決は初めて。国に対し、長崎の手帳交付地域の拡大を迫る声が高まるのは必至で、広島原爆投下後に降った「黒い雨」の被害者が同じように手帳交付地域の拡大を求めて広島地裁に起こした訴訟にも影響を与えそうだ。敗訴した原告151人は控訴する方針。

     原告は、爆心地から東西各約7〜12キロで原爆に遭った人たち。2007、08年に395人が提訴した第1陣に続き、11年6月から順次提訴。12年6月に全面敗訴した第1陣と同様、第2陣訴訟でも、被爆者援護法が「被爆者」と定義する「原爆放射線の影響を受けるような事情の下にあった者」に原告が該当するかが争点だった。原告側は第1陣敗訴後、米軍マンハッタン管区原爆調査団が原爆投下の43日後から残留放射線を測定したデータを基に原告全員の被ばく線量を推定した長崎県保険医協会長の本田孝也医師の意見書などを提出していた。

     判決は東京電力福島第1原発事故後に年20ミリシーベルトを超える恐れがある地域を計画的避難区域に指定したことや、同事故について世界保健機関(WHO)が作成した健康リスク評価に関する報告書などを基に「25ミリシーベルト以上」の基準を示した。その上で、本田医師の意見書などから、原告のうち旧戸石村(現長崎市)と旧矢上村(同)の一部で原爆に遭った10人については、この基準を超えると判断した。一方、他地域の原告は、原爆による年間積算線量が25ミリシーベルトを下回るとして請求を退けた。【樋口岳大】

              ◇

     長崎地裁判決は、これまで国が「原爆放射線の影響がない」と切り捨ててきた人を一部とはいえ、「被爆者」と認めた意味では画期的と言える。国はこれまでの「線引き」が司法に否定された事実を重く受け止め、爆心地から12キロ圏内で原爆に遭った原告たち全員を被爆者と認めるべきだ。

     国は1957年、長崎で被爆者健康手帳を交付する地域を被爆当時の行政区域などを基に指定したが、区域外の住民からも健康被害の訴えが相次ぎ、74、76年に事実上拡大され、現在の形になった。

     「被爆体験者」はさらに外側にいた人たちで「灰や黒い雨を浴び、汚染された野菜や水を摂取した」との証言があり、脱毛や下痢などの症状を訴えた人も多い。そうした人たちを国が「科学的根拠がない」と切り捨ててきた構図は、広島原爆投下直後に降った「黒い雨」を手帳交付地域外で浴び、健康被害を訴えている被害者たちが、未救済のまま放置されている問題と共通する。

     判決は、被爆者と認める基準を原爆による年間積算線量が「25ミリシーベルト以上」と結論付けたが、そもそも被爆者援護法の手帳交付要件に線量の基準は存在せず、新たな線引きは被害者を分断し、問題解決をさらに難しくする。原爆の放射性降下物による被害の広がりは、東京電力福島第1原発事故で問題になっている内部被ばくの影響も含め、未解明だ。国は原爆による影響の「科学的根拠」を被害者側に立証するよう求める姿勢を直ちに改めるべきだ。

     3月に控訴審判決がある第1陣訴訟を含めると、提訴時の原告計556人のうち62人が既にこの世を去った。被爆から70年が経ち、高齢化した原告たちに残された時間は少ない。

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