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Listening

<そこが聞きたい>ジカ熱の流行 忽那賢志氏

忽那賢志氏

防蚊対策の徹底を 感染症専門医・忽那賢志氏

 蚊が媒介する感染症・ジカ熱=1=が中南米を中心に猛威をふるっている。感染した妊婦が産んだ子どもの異常に関する報告も相次ぐ。何に注意し、どう対策をとれば良いのか。3年前、日本で初めて海外での感染者を診断した国立国際医療研究センターの忽那賢志医師(37)に最新の知見を聞いた。【聞き手・千葉紀和】

    −−昨年5月にブラジルで始まった今回の流行は、中南米を中心に30以上の国・地域に広がっています。世界保健機関(WHO)は感染者が南米と北米で最大400万人に増えると警告しました。過去の流行より大規模になっているのはなぜですか。

     ジカ熱は約10年前まで、一部の地域でしか見られない珍しい感染症でした。2007年にミクロネシア連邦のヤップ島で小さな流行があり、その後、13年にフランス領ポリネシアからの流行で約3万人の感染が報告されましたが、ともに人口の多い地域ではありませんでした。しかし、ブラジルなど中南米諸国は人口が密集し、原因のジカウイルスを媒介する蚊も多いという条件が重なっています。流行が広がりやすい土壌があったと言えます。日本も人ごとではありません。人に感染しやすくなるようなウイルスの遺伝子変異は、現在のところ確認されていません。

    −−WHOは今月1日、生まれつき頭が小さい小頭症=2=や他の神経障害の集団発生に関して、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言しました。妊婦の感染との関連が懸念されています。

     ジカ熱が流行してから、ブラジルでは小頭症の子どもが急増しています。昨年3月〜今年1月に例年の20倍以上となる4000人を超す小頭症の新生児が報告されています。小頭症の胎児がいた妊婦の羊水や、亡くなった小頭症の子どもの組織から、ウイルスも検出されています。ジカ熱と小頭症との因果関係は科学的には証明されていませんが、非常に疑わしいと言えます。妊婦の感染で胎児が小頭症になるリスクが最も高いのは妊娠初期です。ただし、中期以降なら安全というわけではありません。流行地域では妊娠を控える女性が増えるため、今後は出生率が低下するでしょう。経済面も含む大きな社会問題になると考えられます。

    −−他にもさまざまな異常との関連性が指摘されていますね。

     新生児に見られる症状は小頭症が最も多いですが、生まれつき足が変形していたり、関節が動きにくかったりする事例も確認されています。視覚障害のある子どもも多く生まれてきています。一方、感染した本人には、手足に力が入らなくなる難病の「ギラン・バレー症候群」を発症するケースが報告されています。重症になると、呼吸も難しく人工呼吸器が必要になる場合もあり、注意が必要です。過去にジカ熱が流行した地域でもギラン・バレー症候群の人が増えているので、ウイルスとの関連性は非常に強いと考えられます。−−蚊の媒介だけでなく輸血や性交渉でも2次感染するのですか。

     性交渉による感染が疑われる最初の事例は、11年に米国で報告されています。しかし、非常に珍しいケースのため、私はさほど脅威にはならないと考えています。今回の流行では、輸血による感染もブラジルで確認されていますが、決して多くはありません。米食品医薬品局(FDA)は今月、感染の可能性のある人に対し、最低4週間の献血自粛を要請しました。発症してウイルスが消えるまで約2週間かかるので、余裕をみて安全なラインを示しています。実際は蚊による感染がほとんどです。蚊の対策を取ることが最優先でしょう。

    −−日本での流行を防ぐために重要な備えは。

     大事な点が三つあります。まず蚊を減らすこと。日本も春先になると、ウイルスを運ぶヒトスジシマカが活動を始めます。成虫の駆除だけでなく、同じく蚊が媒介する一昨年に流行した「デング熱」の対策と同様に、蚊が卵を産む水たまりをなくしたり薬をまいたりして、成虫にしない対策が求められます。次に、流行地域に渡航する一人一人が蚊に刺されない対策を徹底する必要があります。長袖の服を着用し、肌が露出した部分には虫よけ剤を塗りましょう。ディートという有効成分が20%以上入った虫よけ剤が望ましいですが、日本では最大12%の製品しか販売されていないため、2時間ごとに塗り直さないと効果が続きません。帰国して発疹などがあれば、すぐ医療機関を受診してください。最後に、医療従事者が早期診断することが重要です。ジカ熱はデング熱と症状が似ていますが、違う点もあります。「ジカ熱」と言っても必ず発熱があるとは限らず、目の充血はよく見られます。こうした病態や特徴をしっかりと把握し、患者を見逃さないことが流行防止の鍵になるでしょう。

    聞いて一言

     「正しく恐れよう」。目新しい感染症が流行すると、こんな言葉をよく耳にする。でも「正しくって?」と戸惑う人も多いのではないか。報道する側も時に悩む。恐怖をあおっていないか。逆に過小評価ではないか。事実と推測をしっかり分け、専門用語はかみ砕けているかと。「インフルエンザなど感染症の流行はメディアの報道で拡大ペースが鈍化する」。今年1月、理論生物学の学術誌に中国でのこんな論文が出ていた。日本もそうあることを願いつつ、人々の冷静な判断材料を伝えたい。


     ■ことば

    1 ジカ熱

     正式にはジカウイルス感染症。1947年にアフリカ・ウガンダのジカ森で見つかったことに由来する「ジカウイルス」を持つ蚊に刺されると感染する。12日以内の潜伏期間後に発症し、発疹や発熱、関節痛などが1週間程度続く。大半は重症化せず数日で回復する。ワクチンや特効薬はない。日本では過去、海外での感染者が3例確認された。

    2 小頭症

     同じ世代や性別の子と比べ頭部が小さい症状。胎児の時点で異常がある先天性と、出生後に頭蓋骨(ずがいこつ)が成長しない後天性があり、先天性の場合は脳の発達の遅れを伴う。原因として感染症のほか遺伝子異常やアルコールの影響が考えられる。


     ■人物略歴

    くつな・さとし

     1978年生まれ。2012年から国立国際医療研究センター国際感染症センター医師。日本感染症学会感染症専門医としてエボラ出血熱の疑似症例など診断。東京都蚊媒介感染症対策会議委員。

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