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がん社会はどこへ

第5部 自分らしく生きる/中 美しく装い、輝くきっかけに

乳がんサバイバーによるファッションショー。中央が聖路加国際病院の山内英子医師、左奥が企画した塩崎良子さん=東京都江東区で2015年7月、塩崎さん提供

 ●ドレスをまとい

     思い思いのドレスをまとった女性がさっそうと歩く。28人全員が乳がんサバイバーだ。昨年7月、東京都江東区で開かれたファッションショー。会場は大きな、そして温かい拍手に包まれた。

     ショーは「日本乳癌学会学術総会」の関連イベント。聖路加国際病院(東京都中央区)の山内英子ブレストセンター長が発案し、同じくサバイバーの塩崎良子さん(35)が企画した。モデルは全国から集まった。「ショーの前、試着会で初顔合わせの際は、元気のない人が多かった」と塩崎さん。しかし、試着が進むと自然に笑みがこぼれ出す。「その様子を見て私もハッピーになりました」

     塩崎さんは20代でアパレル会社を設立し、がんの診断当時はドレスのレンタルショップを営んでいた。告知は2014年1月。抗がん剤で術前治療をし、半年後に左胸を全摘出した。抗がん剤治療中も店に出たが、脱毛が始まった。顧客は女優やモデルが多い。華やかなドレスに囲まれ、心は沈むばかりだった。「楽しいことを提案する今の仕事はもうできない」。会社をたたんだ。

     仕事もやめ、「どうしたら自分らしく過ごせるか」と考える中、「せめて外見だけは」とさまざまなウイッグ(かつら)を買い集めた。しかしケア帽子や乳房摘出後の下着など、病院の売店やインターネットで買えるものはいかにも「病人用」だ。「もっと多様な商品があれば」。ファッションショーに携わり「私にもがん患者の支援ができる」と手応えを感じたことで心が決まった。

     離職後に通っていたビジネススクールで今年2月末、起業を提案するコンクールがあり、塩崎さんは「がん患者のケア用品を作る会社を」と提案、グランプリに輝いた。「以前から、外見の美しさだけにこだわることに疑問を持っていました。病を得て、自分の中で答えが明らかになった」。作りたいのは「患者が心の底から元気になり、治療後も使いたくなるファッション性の高い商品」。この春の起業に向け、準備も着々と進行中だ。「『がんになっても輝ける』のではなく『がんになったからこそ輝ける』。ケア用品を通してそんなメッセージを届けたい」

     ●外見変化、苦痛多く

     国立がん研究センター中央病院(中央区)アピアランス支援センター長で、臨床心理士の野沢桂子さんの調査によると、治療に伴う身体症状の苦痛の多くは外見(アピアランス)の変化によるものだ。脱毛や体のむくみ、皮膚障害、人工肛門(ストーマ)など。野沢さんは「これまでの医療では、吐き気やだるさなどにばかり目が向いていた」と解説する。

     同センターには、治療で外見の悩みを抱える患者が相談に来る。不安の本質は、外見の変化によって社会とつながれなくなることだという。

     「女優のようにきれいになったとしても、生き生きとできなければ意味がない。元々の人間関係の中で、その人らしくふるまえることがゴール」。外見の変化を隠すことだけに意識が向けば、不自然なふるまいになる。ウイッグ選びのポイントも「自分で似合うと思えること」だ。

     ある女性は「明日、仕事に復帰するけど、職場できっと泣いちゃうから、消えないまゆげとまつげが欲しい」と相談に訪れた。野沢さんが「あなたの目がパンダのようになって誰が笑うの? それより、泣けるような温かい環境に戻れること自体が幸せ」と伝えると、患者は一気に笑顔になった。「外見を気にするあまり大切なものを見失わないよう支援する。これも医療の仕事だと思っています」

     ●優先順位分からず

     「初めは大抵の患者が何を優先していいか分からず混乱している」。そう話す桜井なおみさん自身も乳がんサバイバーだ。07年にがんにまつわる問題解決をうたう会社「キャンサー・ソリューションズ」を設立し、無料で患者の電話相談にも応じる。

     がんになったことで社会での役割を自ら手放す患者は少なくない。「がんは生活習慣病」という捉え方があり、「今までの生き方が悪かったのでは」と、自分で自分の居場所をなくす人もいるという。どうすれば迷いが少なくなるのか。

     「輝いて生きているがん患者の先輩を見つけ、お手本にするのも手です」。患者会やサロンでは、多くの先輩患者に出会うことができる。桜井さん自身は治療を始めた際、乳がんで亡くなったジャーナリストの千葉敦子さんの著書で病気に支配されない生き方を学んだ。

     「でも無理に前向きにならなくてもいい。最後までその人らしく生きられることが大事です」【三輪晴美】


    がんサバイバー

     治療中や治療後にかかわらず、がんと診断された人のこと。米国で生まれた概念で、本人や家族、友人らも含めサバイバーと位置づけられる。がんと診断された後もその人らしく生きるためには、さまざまな支援や態勢作りが必要で、国立がん研究センターがん対策情報センターには「がんサバイバーシップ支援部」が置かれ、研究や社会に対する啓発活動を行っている。


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