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安保法施行 思考停止せずに議論を

 集団的自衛権の行使や地球規模での他国軍支援を可能にする安全保障関連法が29日、施行された。戦後日本の安全保障政策の大転換となる法律は、運用の段階に入る。

     自衛隊の運用という国の基本にかかわる問題では、国民の幅広い支持と主要野党の賛同が不可欠だ。だが、この法律は、憲法9条の恣意(しい)的な解釈変更や、集団的自衛権を行使する要件のあいまいさから、専門家からも憲法違反と指摘されている。

    国論割れたまま運用へ

     昨年9月19日、多くの反対を押し切って、強行採決により法律が成立してから半年余り。安倍政権は、国民の理解を深めようという努力をほとんどしてこなかった。逆に、反対世論の沈静化を図るかのように、昨秋の臨時国会の召集を見送った。国論は今も割れたままだ。

     安保関連法で可能になる新たな任務が自衛隊に付与されるのも、今秋以降になる。

     いずれも、夏の参院選への影響を考えて、安保法制の問題が蒸し返されるのを避けたいというのが、大きな理由と見られている。

     安倍政権は安保法制の整備を喫緊の課題だと強調していたのではなかったか。選挙のために先送りできるぐらいなら、安保関連法を拙速に成立させる必要はなかったはずだ。

     安倍政権は、安保法制の宣伝には極めて熱心だ。

     安倍晋三首相は、今月18日の参院予算委員会で、北朝鮮への対応で安保関連法や日米防衛協力の指針(ガイドライン)改定が果たした役割を問われて、「日米の信頼関係は大きく向上し、同盟関係はいっそう強固になった。北朝鮮の核実験、弾道ミサイル発射への対処では、日米の連携は従来よりもいっそう緊密かつ円滑に行われた」と語った。

     新たなガイドラインで、日米が平時から連絡や政策調整をする仕組みとして同盟調整メカニズム(ACM)が設置されたことが円滑な対応に役立った面はある。

     だが、この時点では安保関連法は施行前でもあり、北朝鮮対応に直接の関係があったわけではない。米軍のモチベーション(やる気)を高める程度の効果はあっただろうと言われている。

     政府・与党が、安全保障環境が厳しいから安保法制が必要だというなら、最近の情勢を踏まえて、野党が国会に提出した廃止法案と対案の審議に応じ、堂々と議論すればいい。

     昨年の国会審議は、集団的自衛権をめぐる憲法の解釈変更に焦点があたり、その他の多くの論点は未消化に終わった。国連平和維持活動(PKO)協力法の改正などは、ほとんど議論されていない。その状態のまま今秋以降、日本のPKOの性格はがらりと変わる。異常なことだ。

     だが政府・与党には、野党の対案を審議することで、安保法制の議論をさらに深めようという気はなさそうだ。議論はもう終わったとでもいうかのようだ。

     いま政府が、日米同盟との関係で神経をとがらせているのが、米大統領選の共和党候補者指名争いで首位を走る、実業家ドナルド・トランプ氏の言動だ。

     トランプ氏は米紙ニューヨーク・タイムズのインタビューで、日米安全保障条約について「米国が攻撃されても日本は何もしなくていいが、日本が攻撃されれば米国は全力で防衛しなければならない。極めて一方的な合意だ」と不満を示した。

    同盟強化一辺倒を懸念

     日本が在日米軍の駐留経費負担を増額しなければ在日米軍を撤退させる考えや、日本の核兵器保有を容認する姿勢も示した。

     日米安保条約は、米国が日本防衛の義務を負う代わりに、日本は米軍基地を提供し、米国は基地を極東の軍事拠点として使える枠組みだ。

     トランプ氏が言う「日本は何もしなくていい」というのは誤解であり、それどころか日本は広大な米軍基地を提供し、多額の在日米軍駐留経費を日米地位協定の枠を超えてまで負担している。

     トランプ氏の発言は、米国の国力の低下による内向き志向を反映している。過剰反応すべきではないが、「日米安保ただ乗り論」を公然と語る人物が、大統領指名候補をうかがう時代になったことには注意を払う必要があるだろう。

     安保法制は、集団的自衛権の行使や地球規模での後方支援によって日米同盟を強化し、内向きになりつつある米国にアジア太平洋への関与を続けさせ、中国や北朝鮮の情勢に対応するのが目的とされる。

     だからといって米国の要求にあわせて、日本がどこまでも米軍への軍事貢献を拡大するのは、およそ現実的ではない。

     安倍政権が安保法制の推進にあたり強調してきたような、日本の軍事的貢献を強めれば、日米同盟による抑止力が自動的に高まるという考え方も安易に過ぎる。

     日米同盟は重要だ。だが、同盟強化一辺倒では、国際秩序の大きな構造変化に対応できないだろう。日本は思考停止に陥ってはならない。外交と防衛のバランスをとりながら安全保障政策のあり方を点検していく必要がある。

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