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消費増税の判断 政治の打算を離れよう

 2016年度予算と税制改正関連法がきのう成立した。税制改正関連法には、消費増税と同時に導入される軽減税率が盛り込まれ、低所得者対策が法的に整備された。

     だが、政府・自民党内では、夏の参院選をにらんで、増税の再延期論が公然と語られ始めている。

     消費増税の原点は、社会保障制度の充実に向けた財源を確保しつつ、先進国で最悪の財政を再建することだ。超党派で取り組む国家的課題として、12年に自民、公明、民主3党が合意したものだ。

    少子化対策に不可欠

     3党合意に基づく消費増税法は、税収増すべてを社会保障財源に充てると定めている。17年4月に予定される税率10%への引き上げは、もともと15年10月に実施するはずだった。だが、安倍晋三首相が14年秋に延期を決め、衆院を解散した。

     延期によって、社会保障充実の財源が確保できず、しわ寄せは特に子育て支援に及んでいる。「保育園落ちた」のブログを機に噴出した親たちの怒りに向き合うためにも、財源の早急な手当てが必要だ。

     首相はアベノミクス新三本の矢として子育て支援を掲げている。人口減少を食い止めるには少子化対策が急務だ。増税を再延期すると矛盾するのではないか。

     さらに、1000兆円を超す借金を抱える財政の立て直しがますます難しくなる。政府は「基礎的財政収支の20年度黒字化」を目標にしているが、消費税率10%が前提だ。再延期すれば、達成は絶望的になる。

     首相は「税率を上げて税収が上がらなくなるのでは元も子もない」と主張する。再延期の条件に「リーマン・ショックや大震災級の事態」を挙げている。リーマン級の危機なら再延期もやむを得ないだろう。

     だが、今の景気は再延期しなければならないほど深刻なのか。

     首相が判断材料の一つとするのは1〜3月期の国内総生産(GDP)だ。リーマン直後の成長率はマイナス幅が2四半期連続で年率10%を超えた。1〜3月期は「マイナス成長になっても小幅」との予測が多く、リーマン級とは言えないだろう。

     年明けから金融市場の混乱が続き、首相は再延期の条件に「世界経済の大幅な収縮」も加えた。

     政府は5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に向け、世界経済を分析する有識者会合を開いている。ノーベル経済学賞を受賞した米大学教授2人が「世界経済は低迷している」と増税再延期を唱えた。

     政府は、世界的な経済学者から再延期のお墨付きを得たと解釈するのかもしれない。しかし、米教授2人はもともと増税に慎重だ。政権に都合の良い主張だけをつまみ食いするなら公平性を欠くのではないか。

     再延期するなら、きちんとした理由が必要だ。しかし、今のところ説得力ある根拠は見当たらない。

     それ以上に問題なのは、経済情勢の客観的な分析よりも、衆参同日選や憲法改正の環境整備をにらんだ政治的思惑が絡んで、再延期論が浮上してきている点である。

     首相は在任中の憲法改正実現に意欲を示している。このため、参院選では、改憲賛成派が憲法改正の発議に必要な3分の2以上を占めるかが焦点となる。

    同日選の大義にするな

     この参院選に衆院選を重ねて、票の掘り起こしを進め、参院で自民党が獲得する議席の上積みを図ろうというのが衆参同日選論だ。その際、増税の再延期は首相が民意を問う大義名分になるという理屈である。

     だが、そんな発想は、増税を政争から切り離そうとしてきたこれまでの取り組みを台無しにしかねない。

     国民に新たな負担を求める増税は、選挙での逆風を恐れて、政党が取り上げにくいテーマだ。しかし、巨額の借金を抱える中、少子高齢化で膨らみ続ける社会保障費をまかなうため、安定財源を確保していくことは与野党共通の課題である。

     3党合意は、税制改革を政争から切り離すという意義があった。時の政権の思惑や党派的対立に左右されず、幅広い合意に立脚し、改革を着実に進めていく狙いがあった。

     世論も増税を理解する意見が多かった。合意を評価したためだろう。

     ところが首相は14年に延期を決め、衆院解散で民意を問うテーマにしてしまった。あしき前例である。

     首相が今回、参院選を前に再延期を決めれば争点外しと取られても仕方あるまい。まして衆院解散に踏み切るようなら、政治的打算から改憲のために増税問題を利用した、との見方が出てくるのではないか。

     軽減税率が整備されたのも家計への影響を和らげ、国民が増税を受け入れやすい制度とするためだ。だが、再延期論を受けて各種世論調査では延期を求める声が強まりつつある。これまで積み上げてきた増税への国民的理解を崩しかねない。3党合意の原点に立ち返るべきだ。

     首相は14年に延期を決めた際、「再延期はない。(旧)三本の矢を前に進め、(増税できる)経済状況を作り出せる」と明言していた。

     仮にどうしても増税できない状況だというのなら、アベノミクスの失敗を認めるのが先だ。

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