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宇宙ストレス

密室実験、過酷さも 13泊38万円だが…

JAXAの閉鎖環境施設。カプセルホテルのようだがテレビなどの娯楽設備はなく、息が詰まりそうだ=茨城県つくば市で2016年1月13日、望月亮一撮影
JAXAの閉鎖環境施設の見取り図

JAXA実施 「とにかくツラい」や「太陽を見たかった」

 密室の空間に人間を長期間、閉じ込めたら体や心はどうなるのか。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が往復に3年以上かかる火星探査を視野に、そんな実験を進めている。外部との接触を完全に遮断し、単純作業などの負荷をかけてストレスの影響を調べる。疑似「宇宙生活」をのぞいてみた。【斎藤広子】

 実験の舞台は、JAXA筑波宇宙センター(茨城県つくば市)にある閉鎖環境施設。横並びの円筒形の建物(長さ11メートル、幅3.8メートル、高さ2メートル)2棟が短い廊下で結ばれている。国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」を模した造りだ。

 内部の広さは大型バス2台分ほど。カプセルホテルに似た8人分のベッドや作業エリアがあるが、窓やテレビはなく、携帯電話やパソコンも持ち込めない。トイレやシャワー以外は常にビデオカメラで監視され、会話も傍受される。早朝から深夜まで、外にいる「管制官」に指示された作業をこなし、表情や声色、唾液や血液に含まれる成分の変化などを分析。どの指標がストレス状態を把握するのに最適なのかを調べる。

 JAXAによると、現状のストレスチェックは、地上にいる心理カウンセラーが2週間に1回程度、テレビ電話でISSに滞在する宇宙飛行士と面談して行っている。より科学的な検査方法を確立し、宇宙飛行士のメンタルケアや将来の火星探査に役立てる狙いがある。2003〜05年にも同様の研究を手がけたが、予算の関係で中断していたのを11年ぶりに再開した。

 実験は16年度にかけ数回行う予定。初回に参加する男性8人を一般公募したところ、約4400人から応募があり倍率550倍と、本物の宇宙飛行士並みになった。初回の実験は13泊で謝礼は38万円。今年2月に実施し、グループ討論やロボット製作を課したが、JAXAは「次回に影響が出かねない」と詳細を明らかにしておらず、参加者にも「口止め」している。

 「毎日2時間行われる『精神的負荷作業』はとにかくツラい」。04年の実験に参加した岡山大医学部助教の高橋賢さん(43)は振り返る。他の男性2人とのトラブルはなかったが、1桁の足し算や引き算など、単調な作業を延々と繰り返させられた。いつ眠り、行動したかを把握する腕時計型の機器を身につけ、空き時間に横になって休んでいると「あと何分で作業を開始します」などとアナウンスにせき立てられた。

 実験が終わると、真っ先に施設の外へ。「太陽を見たかった。夕日の美しさに心が洗われた」。唯一の楽しみは温かい定食だった。2月の実験ではストレスを増やすため、全てレトルトなどの保存食に切り替えられ「過酷さ」が増した。

 長期の宇宙滞在では、人間同士の小さなボタンの掛け違いがトラブルに発展しやすい。ロシアの宇宙ステーション「ミール」の船内では1997年、過労でノイローゼ状態になった米露両国の宇宙飛行士が「船内の掃除方法」を巡って口論となり、業務に支障が出るトラブルがあった。うつ病になるケースもある。

 閉鎖環境の研究に詳しい帝京科学大の篠原正典准教授(動物行動学)は「食事の際の会話など仕事以外の生活感が満たされると、円滑な人間関係を取り戻せ、プロジェクトの成功に結びつきやすい」と話す。一方、イルカやシャチなどは水族館で暮らすと寿命が3分の1程度に縮むとされ、狭い環境でのストレスが寿命の長短に影響している可能性もあると指摘する。

 JAXAの研究に参加する筑波大の松崎一葉教授(産業精神医学)は「災害時の避難所や仮設住宅でも、ストレスの問題が起きている。今回の実験を、被災者の精神状態をきめ細かく把握し支援する手法の開発にもつなげたい」と語る。

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