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社説

自然との共生 里地里山が持つ多様性

 けなげにひなにえさを与える親鳥の姿が、なんともほほえましい。

     新潟県佐渡市で、いずれも野生下で生まれ育った国の特別天然記念物トキのつがいから、相次いでひながかえっている。両親とも野生の「純野生ひな」の誕生は、1976年以来40年ぶりだ。

     ひながその後、死んだケースもあるようだが、トキが人の手を借りることなく繁殖できたことで、野生復帰の試みは新たな段階に入った。官民挙げての取り組みが実りつつあることをまずは喜びたい。

    日本の原風景守りつつ

     繁殖期のトキは林の中の高木に巣をかける。えさは、ドジョウやカエル、昆虫などで、巣の周辺にえさ場となる水田や草地が広がっていれば好都合だ。日本の原風景にも重なるこうした里地里山(さとちさとやま)は、多様な生物の宝庫となっている。トキは、里地里山生態系に支えられて育つのだ。

     日本産トキは2003年に絶滅した。環境省は中国から借り受けたトキの人工繁殖に取り組み、08年から佐渡島で放鳥を始めた。地元の人々は冬場も水田に水をため、農薬や化学肥料を抑えた米作りに取り組み、トキのえさ場確保に協力した。生物をすみやすくした水田の米は「トキ米」として人気で、自然に親しむ観光への波及効果も期待されている。

     トキの野生復帰は人と自然が共生する試みであり、その鍵を握っているのが、里地里山の保全と持続可能な利用だといえるだろう。

     開発地と人の手の入っていない自然との中間域である里地里山は、国土面積の約4割を占める。手つかずの自然に比べて保護価値が低いと思われがちだが、環境省の調査では、動物でも植物でも、絶滅危惧種が5種類以上生息する地域の半分は里地里山の範囲にある。

     下刈りや枝打ちなどをしない林は木が茂って暗くなる。すると、生き物も減る。人手を加えることで、むしろ、多くの生き物が生息する環境が維持されてきたのだ。

     だが、里地里山の環境は悪化している。中山間地域の過疎化で、人の手が入りにくくなった。都市近郊では、開発圧力がまだまだある。

     政府は、10年に名古屋市で開かれた生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で、里地里山のような身近な自然の維持管理に各国が連携して取り組むことを呼びかけた。

     里地里山の手入れを企業や市民団体が手伝うボランティア活動は各地で広がっている。自治体には、そうした取り組みを積極的に後押ししてもらいたい。

     環境省は昨年、重要な里地里山を全国500カ所選んで公表した。ところが、500選を紹介するホームページには「土地の利活用等に新たな制約や規制等を生じさせるものではない」との注釈がつく。民有地も多く、法的な開発規制は難しいためだろう。500選決定後、環境省から里地里山の保全を主目的とした予算はなくなった。COP10での呼びかけはどこにいったのだろう。

     里地里山を保全していく上で、新たな懸念材料がある。

     環境省が猛きん類のオオタカについて、種の保存法に基づく「国内希少野生動植物種」(国内希少種)の指定解除を検討していることだ。

    子供たちの将来のため

     オオタカも里地里山を主な生息地とする。宅地造成などですみかを追われて全国的に数を減らし、93年に国内希少種に指定された。捕獲や譲渡、輸出入が禁止され、環境アセスメント(影響評価)では配慮が必要になる。05年の愛知万博では、会場候補地で営巣が確認されたため、会場が変更された。

     最近は都市部での目撃例も増え、直ちに絶滅の危機に陥る状況ではないという。希少種指定が解除されても捕獲は規制されるが、里地里山の開発がしやすくなると、自然保護団体は心配している。環境省には慎重な対応を求めたい。

     都心から30キロ圏にある千葉県野田市の江川地区には、水田や草地など約90ヘクタールの里地里山が広がる。4月下旬、田植えの準備中だった同地区の水田では、トウキョウダルマガエルが盛んに鳴いていた。周囲の樹林帯では、オオタカやサシバなど15種類の猛きん類が確認されている。

     同地区の水田では、つくばエクスプレスの整備に伴って宅地開発計画が持ち上がった。耕作放棄が進んでおり、住民も賛成したが、用地買収を進めていたゼネコンが経営破綻する。市は06年、自らが出資する農業生産法人を設立し、ゼネコン所有の土地約30ヘクタールを買い取らせた。

     法人が水田を再生し、一部は市民農園として無農薬化した。2年で夏場にヘイケボタルが飛び始めた。トンボやクモ類も豊富にいる。12年からは、トキやオオタカと同様に里地里山を代表する鳥で、国の特別天然記念物、コウノトリの繁殖と放鳥にも取り組んでいる。

     根本崇市長は「自然は一度なくなると戻ってこない。今ならまだ間に合う。子供たちの将来への投資だと考えた」という。

     身近な自然を大切にし、共生していく。それが生物の多様性をはぐくむ道にもなる。里地里山の価値を、再認識したい。

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