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キーパーソンインタビュー

災害時デマのパターンを知ろう 関谷直也氏・東大特任准教授

せきや・なおや 1975年新潟県生まれ。慶応大総合政策学部卒。東京大大学院博士課程満期退学。福島大客員准教授兼務。東洋大社会学部准教授などを経て現職。専門は災害社会学や災害情報論、安全社会論。東日本大震災後の福島にたびたび足を運び、風評被害や原子力事故を社会心理学のアプローチから研究している。著書に「風評被害 そのメカニズムを考える」(光文社新書)、「『災害』の社会心理」(ワニ文庫)など=東京都文京区の東京大で2016年5月2日、大村健一撮影

 先月14日に発生した熊本地震は、発生直後から、ツイッターやフェイスブックなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)上で「ライオンが逃げ出した」「井戸に毒がまかれた」など数多くのデマが広まった。災害時に「おきまり」のように繰り返される「うそ」の情報の広がりに、対策はあるのか。災害時の社会心理を研究している東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センターの関谷直也・特任准教授(40)に聞いた。【大村健一/デジタル報道センター】

    繰り返されたパターン、振り回された人々

     −−熊本地震でも、多くのデマや流言が広がった。主なものを教えてほしい。

     関谷さん たとえば14日の地震発生直後は、「動物園からライオンが逃げ出した」「大型スーパーが火災」などの情報がSNSで広がった。これは悪意を持って現地を混乱させるデマや、現地で自然発生した流言というよりも、自作自演の「ネタ」として、インターネット上での「炎上」で注目を集めることを目的とした投稿という側面が強かったと思う。

     もう一つは、被災地で窃盗や性犯罪などの犯罪が横行しているといううわさだ。これは現地でも広がり、警察も対応に追われた。災害後に決まって広がるうわさのパターンの一つで「災害神話」の中の一つの「犯罪神話」を原因とするものだ。災害時、犯罪はゼロにならないものの減るのが普通だが、多くの人々が犯罪が増えると信じている。「現実には存在しない」という意味で「神話」と呼ぶ。東日本大震災のときも、福島第1原発事故の警戒区域は長期の避難生活が続いたこともあって侵入盗が増えたが、全体的に刑法犯の認知件数は減っており(警察庁の資料によると、2011年3〜12月は前年同期比で、岩手で15.4%減、宮城で17.7%減、福島で20%減。窃盗犯も全体では減少)、阪神大震災でも犯罪被害は減っている。しかし災害時は「犯罪が多発する」「パニックが起こる」というイメージがあるので、昔から決まって広がり、被災地でもなかなか消えない傾向にある。

     −−1923年の関東大震災のときのように、人種差別、ヘイトスピーチに誘導するようなデマもSNS上で多く見られた。

     関谷さん 今回は、現地でうわさが自然発生したのではなく、地震発生からまもなくSNSで「在日朝鮮人によって井戸に毒が投げ込まれた」というような書き込みがあった。地震直後の書き込みだったので、見聞きした側もすぐに「うその情報」と判断できた。許されるものではないが、これも一種の「ネタ」として投稿されたのだろう。

     人種差別的なうわさというのは、災害時でなくても広まる。たとえば1990年に「中東からの外国人労働者が集団で主婦を暴行している」という根も葉もないうわさが口コミで関東を中心とする各地で広まった。海外から来た人などに対して反感を持っていない人であっても、真偽を確認できない段階では「デマだ」とはっきり否定しづらい。外国人への反感を持つ人々がある程度、存在する状況では特に、その時々のヘイトスピーチ的なものとうわさが結びつく傾向がある。

     人種差別的なうわさに限らず、「明確に否定できない」という点と、「感情を共有している人の数」というのは、うわさが広がる際のポイントだ。

     −−地震後、さらなる地震を予言する根拠に乏しい情報も多く見た。

     関谷さん これは「災害再来流言」と言われる。今回も地震の数日後から「次は北九州市で大きな地震が来る」といううわさが発生した。実際に国内で短期予知(直前に予知できること)の可能性があるとされているのは東海地震だけなので、こうしたメッセージはほぼうわさに過ぎない。しかし地震の後は、余震が起こる確率が高まっており、多くの人が不安になる。余震への注意を喚起しようという意識も多くの人々に共有されているので、広がるのだ。

     これは水害や土砂災害でも同様だ。ある場所で豪雨災害が発生したら、近くの地域でもリスクが高まっており、かつ不安もあるので、被災地の周辺部を含めてうわさが発生しやすい。

     あとは「後予知流言」。「今回の地震があらかじめ分かっていた」というようなもので、クジラやネズミなどの動物の異常行動「宏観(こうかん)異常現象」と結びつくことが多い。しかし宏観異常現象が実際にあったとしても、地震との因果関係が立証できない以上、うわさに過ぎない。

     「ライオンが逃げた」のようなSNSならではの写真付きのネタとしての「愉快犯」に近いうわさ以外は、熊本地震でも古典的なパターンが繰り返された感じがする。

    地震とデマの「親和性」 善意もうわさを広げる

     −−なぜ災害時にうわさが頻発するのか。

     関谷さん うわさの発生原因は、多くの人が「不安」になることが最大の理由だ。さらに情報の需要に対し、供給が不足するから発生しやすくなる。日系米国人の社会心理学者のタモツ・シブタニ(1920〜2004年)は「流言とは、あいまいな状況にともに巻き込まれた人々が、自分たちの知識を寄せ集めることによって、その状況について有意的な解釈を行おうとするコミュニケーションである」と説明している。

     災害直後は被害情報、家族や知人の安否などの情報のニーズが一気に高まり、多くのメディアも報じるが、自分が知りたい情報を収集するのは難しい。また、地震は事前に予期できる可能性がほぼない上、通信障害が発生するケースも多い。そうしたときに、情報へのニーズを満たし、不安な感情を緩和したり、正当化したり、状況をうまく説明してくれるものとして流言が発生する。

     −−社会心理学の本にはR〜=i×aという公式がよく書かれている。Rumor(うわさ)の広まり方はimportance(重要性)とambiguity(曖昧さ)のかけ算に比例するというものだが、これは現在でも通用するのか。

     関谷さん 多くの文献に引用される式だが、その後の数多くの研究で、うわさの広がりについては「不安」が最も重要であることが確認されている。(その式は)うわさというより、あらゆるコミュニケーションの前提だと考えている。たとえば(机の上のパソコンを指して)「これはパソコンだ」というのは、重要性も曖昧性もないので、うわさが広がらない。というよりも、そもそもこの話題で他者とコミュニケーションしないということにすぎない。

     先ほど災害直後は不安が大きな要素と話したが、善意や怒りもうわさを広げる要因になる。たとえば「Rhマイナスの血液が足りない。幼い子の命が懸かっているので、該当者はこの電話番号に連絡してほしい」というような偽りの情報が書かれたチェーンメール(連鎖的に他者に拡散することを要求する手紙やメール)はよくあるが、これは人々の善意を利用して拡散される。災害時の救助や物資に関する真偽の分からない情報も、これと似たようなものだ。

     また、東日本大震災のときも「福島から来た人が差別された」という(直後に関しては)真偽が分からないエピソードが「そんなことあってはならない」という怒りから広まっていった。不安に限らず、コミュニケーションをする人同士が、ある感情を共有していればいるほど、情報は広まる。

     −−そもそも「うわさ」「流言」「デマ」「ゴシップ」などさまざまな言葉があるが、違いはあるのか。

     関谷さん 英語の「Rumor」にうわさ、流言という意味がある。流言は自然発生的なものとして捉えられ、「デマ」は元々「デマゴギー」の略で、意図的に相手をおとしめる情報を流すことを意味する。流言とデマは日本では東日本大震災以降、混同して使われており、さほど区別されていない。ゴシップは身近な人や有名人に関するおしゃべりのようなうわさ話。ほかに(1970年代末〜80年代にかけて全国各地の)子供たちに口コミで広まった「口裂け女」などに代表される「都市伝説」もある。

    熊本地震でのデマについて語る東京大総合防災情報研究センターの関谷直也特任准教授=東京都文京区の東京大で2016年5月2日、大村健一撮影

    SNSは災害時に役に立たない? 

     −−SNSの普及に伴って、うわさの広がり方も速くなった。

     関谷さん SNSの普及によって広がったというよりも、昔なら記録されなかったので、検証も不可能だったが、現在はインターネット上に記録として残るので、容易に確認できるようになったということだろう。口コミで広がったかつてのうわさと違い、多くの人の目に触れるという点が意味を持っていると思う。

     ただ、かつては鉄道の路線沿いに広まっていくなど広まる範囲の地理的な限界はあったが、SNSはそれもない。SNS上の書き込みをうわさと捉えるなら、広がりが速くなったというのは事実だ。

     −−うわさとは違うが、地震発生直後からSNS上で「拡散希望」と文頭につけ、救助や安否確認の依頼が数多く投稿された。多くの人々の善意で拡散されたとはいえ、真偽を見極められない情報の拡散に賛否はある。

     関谷さん 東日本大震災を受け、大規模災害発生時に通信障害が発生することも多い電話を補完するため、SNS上の情報を119番などの緊急通報や救助情報につながるように活用することも検討された。しかし、実際に運用するのは難しい。現状は無理と言ってもいい。緊急通報は、どこで誰が救助を求めているかを明らかにする必要があるが、現在のSNSでは、それらの真偽を確かめられない。

     東日本大震災でも、沿岸部で通信が比較的利用できた宮城県気仙沼市で(ツイッターでの通報のうち)7件中5件が誤報だった。現状で、そうした情報を拡散することに意味はほとんどない。拡散するぐらいなら消防署や警察署に通報した方がいいが、情報の真偽が不明だからそれもできない。

     物資に関しても、「こういうものが足りない」という情報は、さまざまな依頼がSNS上に寄せられた。ただ、これは時間も、場所も、物量も、正確に伝えることはできない。東日本大震災のときは、ガソリンや物流手段がなかったことが問題だったが、今回の災害では、そのような問題はほとんど見られなかった。

     しかし直後、避難所などで物資が足りなかったのは、政府から(自治体の要請の前に必要不可欠な物資を送る)プッシュ型で送られた大量の支援物資をなかなか仕分けできなかったことの方が課題だった。平時の物流システムは多くの民間事業者が分担し、成り立っている。それを震災時、数日間とはいえ、数十万人分の物資の供給を行政が担うという点に無理があった。今回も東日本大震災のときと同様に、民間の物流業者が配送に関わることで状況は改善した。

     また、現地の実際の状況とネット上の情報は時間差がある。東日本大震災で特に有効だったのは、国土交通省が、被災地の市町村長が必要な物資を書いて送ったファクスをホームページに載せたという「1次情報」だった。SNSが物資の不足解消や救助に役立った例はもちろんあると思うが、かなり限定的な例だと思う。

     −−災害時にSNSを有効に使うのは難しいのか。

     関谷さん フェイスブックやツイッターを使って、状況確認や正しい情報を把握しようというのは難しい。SNSは「楽しい」「おいしい」などの経験や意見についてコミュニケーションし、感情を共有する目的で使われることがほとんどだ。正確な情報をやりとりする目的で使われているわけではない。災害の時だけ、普段と違った使い方をしようとするから無理があるのだと思う。

     LINEは別。行政の職員が情報共有のために使っていた例も多いし、メールや電話の延長として連絡や安否確認のために使われる場合は当然、有効だったと言える。

     誤解してほしくないのは、インターネットを使った情報の伝達手段すべてが災害時に役に立たないと言っているわけではない。たとえばカーナビのデータを使い、実際にその道を通った車の情報を基に、通れる道を紹介する地図を作るシステムなど、生のデータの積み重ねは役立っている。

     −−今後、どのようになればSNSを災害時に生かせるようになると考えるか。

     関谷さん たとえば写真に、時間や位置情報を確実に刻印できれば、被災地の現状を伝える役目は担えると思う。しかし現状は、救助や物資の情報を拡散することにほとんど意味はなく、善意の表し方の一つという意味合いが強い。拡散した人が自分を納得させるためのものだと思う。

    流言は智者に止まる

     −−災害時の流言・デマの発生に対策はあるか。

     関谷さん 一つは災害時の流言は前述の通り、ある程度、パターン化しているので、それを頭に入れておくことだ。そうすれば実際の真偽はともかく、「うわさの可能性が高い」とまず考えることができる。それは災害時にかぎらない。たとえば、車を衝突させて賠償金を取ろうという犯罪者の車のナンバーが出回る「当たり屋流言」という流言は、根強く消えない。しかし一度うそだと知れば、同様の情報を見ても経験的に流言の可能性が高いと判断できる。

     もう一つは、1次情報を探す習慣をつけて、正確さを確認できない情報を流さないということだ。中国の戦国時代の思想家・荀子(じゅんし)は「流言は智者に止まる」という言葉を残した。昔から、しっかりと判断できる人のところで流言は止まっていた。

     −−海外は災害時のうわさにどのように対処しているのか。

     関谷さん たとえば米国は災害後、うわさの真偽を確かめられる窓口が設置されることもある。いわば消費者相談室のようなもので、用意されたQ&Aに基づいて「それは確認できない情報です」「真偽は分かりませんが、警察の公式発表では見当たりません」というように一つ一つに対応している。

     −−根拠のない情報を広めている人に対しては、どのように注意すればいいか。

     関谷さん 徹底して1次情報を提示するしかないと思う。たとえば東日本大震災直後は「製油所が爆発したので、有害物質の雨が降る」といううわさが噴出した。しかし、すぐに企業がホームページで否定し、その1次情報もあって比較的、早く収まった。

     極端な言い方をすれば、さほど対策が必要ない流言はある。「ライオンが逃げた」というような書き込みは、実際に被災地を混乱させる可能性は少ない。むしろ被災地以外の人がツイッター上だけで「なんでこんな情報を流すんだ」という不謹慎な行為への怒りを共有するだけだった。あくまでツイッター上の話で、現地の災害対応とは関係がない。「また大地震が来る」というような根拠のない予測も、行きすぎない範囲で、注意喚起の一つとして受け止めればいい。

     しかし、「被災地で犯罪が横行している」というような流言は、恐怖を抱いた被災者が避難所に行かずに自宅近くに車中泊をして体調を崩したり、警察も対応に追われたり、自警団を組むなどの過剰な対策に結びつきやすく、必要以上にむだな労力が掛かる。現場での対策を混乱させ、本来なすべき救助、救援の力をそぐことにもなる。被災地に実害を及ぼすようなものには、早めの対策が必要だ。

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