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余録

最後の日本産トキだったキンが死んだのは…

 最後の日本産トキだったキンが死んだのは2003年だ。キンはその35年前に捕獲され、佐渡の保護センターで飼育されてきた。年齢は人間でいえば100歳前後とあって、死因は老衰とされた▲だがその後の調査の結果、頭部挫(ざ)傷(しょう)による死だったことが分かる。モニター映像によれば突然羽ばたいて飛び上がった拍子に、保温室の扉に頭をぶつけたのである。目もよく見えず、一日中じっとしていたキンのどこにそんな力が残っていたのかと関係者は仰(ぎょう)天(てん)した▲「若いころの夢でも見たのでしょうか」とは獣医の言葉だった。ニュースを聞いた人の多くが檻(おり)から飛び立ち、野の風にのって遠い空へと消えてゆく日本産トキの最後の夢を思い描いたろう。それから13年、「純野生」のトキが日本の空へ再び飛び立つ日が近づいた▲純野生とは聞きなれないが、野生下で生まれ育ったつがいから誕生したひなをこう言い表す。中国から譲り受けたトキを人工的に繁殖させ、放鳥を始めたのが8年前。それから野生下での繁殖が始まり、先日とうとう純野生のひな2羽の初めての巣立ちが確認された▲ちなみに巣立ちとは両足が巣から出ることで、飛び立つまでには1週間ほどかかる。地域ぐるみで取り組んだトキの野生復帰だが、大きな前進は小さなひなの一歩によってもたらされた。他に5羽の巣立ちも近いようで、ほどなく水田で餌をついばむ姿も見られよう▲キンが夢見た野生の羽ばたきは、今ひなたちによって佐渡の空によみがえろうとしている。人間はトキから奪った生息環境を回復できたのか。「純野生」のトキたちはそこでどんな夢を見るだろう。

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