【ニューヨーク田中義郎】プロボクシングの元世界ヘビー級王者で、ベトナム戦争の徴兵拒否や黒人差別撤廃運動などで米社会に大きな影響を与えた、ムハマド・アリさんが3日(日本時間4日)、死去した。74歳だった。長年、パーキンソン病を患っており、最近は呼吸器系の病気で米アリゾナ州フェニックスの病院に入院していた。葬儀は8日に出身地の米ケンタッキー州ルイビルで営まれる。
アリさんは1960年ローマ五輪のボクシング・ライトヘビー級で金メダルを獲得したが、自叙伝によると、帰国後、黒人であることを理由にレストランで食事の提供を拒まれ、川に投げ捨てたという。その後、プロに転向し、64年にヘビー級の世界王者となり、9回防衛に成功した。その一方でイスラム教に改宗し、名前をカシアス・クレイから改名。67年にはベトナム戦争への徴兵を拒否し、タイトルを剥奪された。
3年半余りのブランクを経て復帰し、74年にジョージ・フォアマンを破り、王座を奪還する「キンシャサの奇跡」を起こした。10回防衛の後、78年にレオン・スピンクスに敗れたが、同年に雪辱して王座に返り咲き、81年に引退した。プロ通算成績は61戦56勝(37KO)5敗。
日本では、76年に日本武道館で行われた「格闘技世界一決定戦」で、プロレスラーのアントニオ猪木(本名・猪木寛至さん、現参院議員)と対戦した。特別ルールでの試合は引き分けだったが、格闘技ファンのみならず、多くの注目を集めた。
引退後はパーキンソン病で闘病生活が続いたが、96年アトランタ五輪では震える手で聖火を点灯した。同五輪では、国際オリンピック委員会(IOC)から、投げ捨てたという金メダルのレプリカも贈られた。2005年、米国で文民に贈られる最高位の「大統領自由勲章」を受章した。