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国債入札の優遇資格を返上する三菱東京UFJの狙い

 三菱東京UFJ銀行が、国債の入札で優遇措置を受けられる「国債市場特別参加者」(プライマリー・ディーラー)の資格を国に返上する−−。日経新聞1面の報道を受け、6月8日、国債マーケットをこの情報が駆け巡った。プライマリー・ディーラーは国債の安定消化のための制度だ。「国債の安定消化」という国策に、一見、反旗を翻すような方針を三菱東京UFJ銀行が固めた狙いは何か。

    三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行社長=2016年5月16日、中島和哉撮影

     プライマリー・ディーラーについて説明しておこう。この資格は現在、財務省がメガバンク3行と証券会社19社に与えている。この資格があると、国債の入札について財務省に意見を言ったり、臨時の入札に参加できたりする。一方、入札ごとに発行予定額の4%以上を応札することが義務づけられる。資格の返上はその義務からの解放を意味している。

     三菱東京UFJ銀行を傘下に持つ三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の平野信行社長は4月、都内で行った講演で日銀のマイナス金利政策を批判していた。それだけに、このタイミングでプライマリー・ディーラー資格を返上するというのは、「日銀批判の一環ではないか」という臆測を呼んでいる。その影響で国債市場が混乱しかねないと、三菱東京UFJ銀行に対して批判的な論調も飛び交っている。

    三菱東京UFJは合理的な選択をした

     まず指摘しておきたいのは、三菱東京UFJ銀行は、突如としてその決断を下したわけではないということだ。グループ内の事業再配置の一環として、数年来検討してきた経緯がある。

     プライマリー・ディーラーは、国債を顧客に転売することを前提とした資格だ。その役割はすでにこの資格を持っているグループ内の三菱UFJモルガン・スタンレー証券、モルガン・スタンレーMUFG証券に任せ、三菱東京UFJ銀行は、市場から国債を購入する本来の投資家の姿に戻るという構想である。その最終判断が今になったのが今回の出来事だ。

     プライマリー・ディーラーは、市場で国債の価格が下落(金利は上昇)しているようなときは、落札した新発国債を転売し切れず、在庫を抱えるリスクを負う。在庫はそのまま損失につながりかねない。

     マイナス金利で国債の価格が高騰しているいま、逆に価格が下落する潜在的な可能性が高まっていると言える。国債価格が下落(金利は上昇)したタイミングで市場から購入したほうが、投資家の運用としては妥当ということになるだろう。三菱東京UFJ銀行の判断は、「投資家」としてみれば合理的である。

     国債問題は現在、国や日銀の金融政策との関連で論議を呼びがちだ。だが、上場企業という側面、株主の信任を得られるかという側面でみると、損失発生リスクに対して合理的に対応しているかどうか、という問題になる。その面でも、今回の判断は正しいと考えたい。

    むしろ注目は、財務省と日銀の反応

     今回の出来事で注目したいのは、三菱東京UFJ銀行の判断よりも、資格返上を受け入れる方向にある財務省のスタンスである。マイナス金利が導入されて以後、「国債を発行すると、国は逆にもうかる」という論法で、財務省はマイナス金利を歓迎しているとみられがちだ。果たして、それはどうか。むしろ、懸念を深めているようにみえる。

     財政規律が失われるし、次第に国債市場の売買が細っているからだ。将来的に国債の安定的発行を脅かしかねない。しかも、安倍晋三政権は消費増税の2年半先送りを決定した。下手をすると、今後、増税延期の穴埋めで国債発行が増えかねない情勢になった。

    日銀の黒田東彦総裁(左)と麻生太郎財務相=2016年5月20日撮影

     そうした懸念が増すなかで、財務省は国債管理政策の重要性を喚起したかったにちがいない。そのための格好の手段が三菱東京UFJ銀行によるプライマリー・ディーラー資格の返上だった。

     一方、異次元緩和が国債購入である限り、その「出口」の条件に財政再建があることはまちがいない。日銀も、量的緩和やマイナス金利からどう抜け出すか真剣に展望しているのであれば、今回のプライマリー・ディーラー資格返上を本音では歓迎しているのではないか。16日に行われる黒田東彦日銀総裁の定例記者会見は見ものである。

        ◇    ◇

     金融業界を30年余にわたり取材してきた金融ジャーナリスト、浪川攻さんが「ここだけの話」をつづります。「ニッポン金融ウラの裏」は、毎週月曜日の掲載です。

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    浪川攻

    1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカーを経て、金融専門誌、証券業界紙、月刊誌で記者として活躍。東洋経済新報社の契約記者を経て、2016年4月、フリーに。「金融自壊」(東洋経済新報社)など著書多数。

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