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社説

英国会議員殺害 社会の分断を憂慮する

 英国で、41歳の女性下院議員が凶弾に倒れた。欧州連合(EU)に残留するか否かを問う国民投票を1週間後に控え、両陣営の運動が過熱する中で起きた惨劇に、悲しみと怒りが広がっている。

     事件の全容は明らかになっていないが、動機が何であれ、こうした蛮行を許すことはできない。特に国会議員としてのジョー・コックス氏を狙った犯行だとすれば、銃口は議会や民主主義に向けられたに等しい。相手を一方的に力でねじ伏せるやり方に憤りを禁じ得ない。

     同時に、この事件を機に英国内で対立が一段と先鋭化したり、欧州大陸で過激な思想を持った勢力が勢いづいたりしないかと懸念を覚える。

     最大野党、労働党から昨年の総選挙で初当選したコックス氏は、人道主義の活動家として知られ、シリア内戦で追われた難民の積極受け入れを訴えていた。地元選挙区にはインドやパキスタン出身者が多く、「移民たちが地域社会を強くした」と多様な人種の融合を評価していた。

     その地元で定期的に開いていた有権者との集いに向かった際、起こった事件である。容疑者とされる白人男性は移民排斥など極右の思想に傾倒していたとの英紙報道もある。皮肉にも、彼女が多様性を誇っていたその地元の住民だったようだ。

     コックス氏は英国のEU残留を強く訴えていた。そのことが今回の事件と関係していたとはまだ断言できない。ただ、惨事を国民投票前の論争に都合良く利用したり、感情的な対立に発展する要因としたりしてはなるまい。EU残留派、離脱派にかかわりなく、国民から選ばれた議員が暴力の標的となれば、連帯して非難の声を上げる必要がある。

     そのうえで、英国民に要望したい。

     英国のEU離脱が将来にわたり国内外に及ぼす影響を冷静に考えてほしいのだ。経済的な打撃は、このところの世界市場の動揺からある程度、予想することができよう。

     しかし、経済はその一部に過ぎない。戦後、欧州が幾度となく困難を克服し築いてきた「価値」が浸食される危険を十分考慮する必要がある。価値とは、自由なヒト、モノ、カネの移動による繁栄であり、多様な文化や歴史の尊重であり、民主的な問題解決であり、平和なのだ。

     最近の世論調査では、離脱支持派の優勢が伝えられるが、若年層の間では残留派が圧倒的に多い。欧州の繁栄と安定を彼らやその子孫へとつないでいくためにも、英国はEU内にとどまり、その発展に貢献していく必要がある。

     欧州が再び暴力と対立の時代に戻ることのないよう、残留派にはEUの意義を粘り強く説いてほしい。

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