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社説

参院選へ 安全保障の国民合意 急ぎ過ぎた法制を問う

 参院選は、昨年9月に安全保障関連法が成立してから初めて全国民の審判を受ける機会となる。安倍晋三首相は経済が争点と言うが、安保政策を外すわけにはいかない。

     安保関連法は、憲法解釈の変更によって集団的自衛権の行使を認め、他国軍支援を地球規模で可能にした。これにより、平和主義の核心である憲法9条の制約は緩められ、法律は違憲の疑いが指摘されている。

     論点が多岐にわたる法律を、わずか一会期の国会で急いで成立させた安倍政権の強引な政治手法は、民主主義の行方にも不安を抱かせた。多くの疑問が積み残されたまま、法律は3月に施行された。

    丁寧な説明がまだない

     首相は法律が成立したとき「これから粘り強く丁寧に説明を行っていきたい」と語ったが、必ずしも実行されていない。それでいて参院選が近づくと、にわかに安保関連法に絡めて民進、共産両党などの野党連携を攻撃し始めた。

     首相は、参院選に向けた演説で、たいてい次のように語る。「平和安全法制によって、日本と米国は助け合えるようになった。この前、北朝鮮が弾道ミサイルを発射したが、今まで以上にしっかり連携できた。共産党と民進党はこの法制を廃止すると言っている。廃止すれば日米同盟は根底から覆される」

     同盟が覆されるという過剰な表現で国民の不安をあおっている。「気をつけよう、甘い言葉と民進党」と揶揄(やゆ)したこともあった。

     国論を二分するテーマで、丁寧なプロセスを踏んで合意形成を図るのではなく、逆に対立を際立たせ、相手を攻撃し、力で押し切ろうとする。安保関連法を審議した昨年の通常国会から、最近の演説まで、首相の姿勢は残念ながら変わっていない。

     野党にも責任はある。政府の説明のゆがみを批判したのはいいが、議論の材料を十分に示せたかは疑問が残る。当時の民主党の対案提出が遅れたのも痛かった。

     だが、何よりも首相の強引な政治手法が、議論や理解を深める障害となってきたことは否定できない。

     幅広い与野党の合意や国民の理解がなければ安全保障政策は機能しない。首相は参院選で、安保関連法がはらむリスクを含めて国民に丁寧に語りかけるべきだ。それが政権を担当する与党の責任ではないか。

     首相が、日米同盟の強化一辺倒という安全保障政策をとる中で、肝心の米国の行方は不透明だ。米大統領選の共和党指名候補に確定した実業家のトランプ氏は米国民の内向き志向を背景に、日本をはじめとする同盟諸国への不満を露骨に語る。

     米国だけが対日防衛義務を負う日米安全保障条約は不公平と語り、在日米軍の駐留経費負担を日本が増額しなければ撤退する可能性があるとの考えを示している。いわゆる日本の「安保ただ乗り論」だ。北朝鮮の脅威に対応するため日本の核兵器保有を容認する姿勢まで示した。

     日本の保守層の一部からは、これに呼応して自主防衛や憲法改正、核保有の可能性をめぐる議論も出ている。リベラル派の間でも在日米軍の撤退や有事駐留の議論がある。

    あるべき同盟の姿とは

     トランプ氏が外交や安全保障に精通しているわけではなく、日米安保条約をどこまで理解しているかも疑わしい。トランプ氏の発言に過剰反応して極論に走るべきではない。

     日本としては、トランプ氏や米国民向けに、日米安保体制を正確に理解してもらう必要がある。

     日米安保条約が定める両国の役割は非対称的だが双務的であり、在日米軍基地はアジア太平洋地域での米軍の前方展開拠点として米国の世界戦略を支えている。そのうえ、日本は在日米軍のために毎年約1900億円に上る「思いやり予算」を含め、総額7000億円を超える巨額の経費負担をしている。

     ただ、誰が大統領になろうとも、米国が同盟諸国に「応分の負担」を求める圧力が強まる可能性はある。

     中東情勢は混迷し、北朝鮮は核実験と弾道ミサイル発射を強行し、中国は海洋進出を加速化させている。南シナ海では中国が人工島の軍事拠点化を進め、日本周辺では中国軍艦が沖縄県の尖閣諸島や北大東島の接続水域、鹿児島県沖の領海に入るケースが相次いでいる。

     アジア太平洋地域の平和と秩序の維持のため、日本としてどこまで負担すべきか、日本の国力と法秩序に見合った守備範囲を真剣に考える時だ。トランプ氏の発言は、むしろその機会ととらえたほうがいい。

     本来なら、自衛隊と米軍の役割を定めた日米防衛協力の指針(ガイドライン)の昨春の改定と安保法制の整備にあたって、まず国民レベルで日米同盟のあり方を徹底して議論すべきだった。けれども、安倍政権はそうしなかった。

     首相がもし、時間につれて安保関連法の強行成立時の記憶は薄れ、北朝鮮や中国の脅威が高まれば国民も納得すると考えているのなら、それは間違いだ。国民の合意を形成する努力を惜しんではならない。

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