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SUNDAY LIBRARY

著者インタビュー ながさわたかひろ 『に・褒められたくて』

好きだから会いに行き 好きだからとことん描く

◆『に・褒められたくて』ながさわ・たかひろ・著(編集室屋上/税抜き1800円)

 敬愛する人物に、入り待ち・出待ちといった素人的手段でコンタクトし、「ファンです、好きです! 描かせてください!!」と申し込む“押し掛け肖像版画”の連作。その制作過程を綴(つづ)った画文集『に・褒められたくて』の著者は、直撃的接近法にもかかわらず、コミュニケーションが苦手だという。

「そういう自分がイヤで、無理やり性格を変えていく手段でもありましたね。始めたのは、自分がどんだけ思いを込めて描いてるかが、見る人に全然伝わらない状況が続いてた頃で、その反動もあったと思います」

 突然の申し出に、当然相手は驚く。断られたことも少なからずあったという。

「相手があることなので公表はしてませんけど。でも、いつもうまくいってると思われちゃうのも……(笑)。雑誌連載時には、すべて編集部がお膳立て済みだと思ってる人が多かったようですが、それも違う。描きたいという思いを伝えるのも、作品の一部なんですから」

 本書には、こうして制作した版画が30点収録されている。巻末には未収録作品も含めたリストがあるが、その中で女性は映画監督・大林宣彦氏とともに描かれた恭子夫人だけである。

「いや、描きたいと思う女性はいるんですよ。この連作以外では描いたこともあります。でも僕の場合、その人に対する、自分の気持ちの表現として描いてるから、あんまり“良く描きたい”っていうのがないんです(笑)。ところが女性の場合、『ここは描いてほしくない』みたいなところがあるんですよね。で、『直してほしい』と言われることが多かった。そうなると、本来描きたいものとは、ちょっと違うものになっちゃう」

 ただ今後は、年輪を重ねた大好きな女優などには、お願いしてみたいともいう。

 出来上がった版画は2部刷り、モデルに渡しに行く。1部は献呈し、もう1部にはサインとコメントを書いてもらう。これをもって“作品の完成”とする。

「作品を渡す時、『踏み込み不足だったなァ、もうちょっとやりようがあったんじゃないか?』という思いがあると、その後ろめたさからでしょうか、先方の表情やコメントから『(作品が)響いてないな』と感じてしまうことがある。そんな時はツライですねぇ」

 本書制作の過程では、そんな苦い思いを追体験することにもなった。苦行とさえ感じることもあったが、1冊にまとまったことが、新たな展開へのモチベーションを生んだ。

「都築響一さん、麿赤兒(まろあかじ)さんは撮影済です。近いうちに、ジュリー(沢田研二)はぜひ描きたいですね。太ったとかいろいろ言われてるけど、僕の中ではずっと輝き続けてます。オッサンとしてのたたずまいを、ちゃんと作ってる。どんどんチャレンジしていかないと」

 そこには映画監督・森田芳光への思いがある。

「この本のタイトルは監督の映画『の・ようなもの』から思いついたんです。大好きな映画で、本当に会って描きたかった。でも間に合わなかった。だから会いたい人に会うなら急がないとって思うんです」

(構成・小出和明)

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ながさわ・たかひろ

 1972年、山形県生まれ。版画家・画家。2010年、第13回岡本太郎現代芸術賞展にて特別賞受賞。「ヤクルトスワローズの全試合を描く絵描き」としても知られ、著書に『プロ野球画報』など

<サンデー毎日 2016年7月3日号より>

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