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<記者の目>相模原殺傷事件=須藤孝(政治部)

事件のあった相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」=7月26日、本社ヘリから

憎悪犯罪、全力で闘おう

 19人が殺害された相模原市の事件は障害者を狙った典型的な「憎悪犯罪」(ヘイトクライム)だ。特異な人間が起こした突発的な事件ととらえるべきではない。憎悪犯罪には必ずそれを容認する社会の闇が背景にある。「障害者は生きていても意味がない」という主張と闘う姿勢を明確に示さなければならない。

     一般的に「憎悪犯罪かどうか」については慎重な判断が必要だ。動機はさまざまであり、複雑に絡み合っていることも多い。しかし、今回の事件について言えば、実行を予告した手紙の内容など事前の主張、実行方法、実行後の供述などが障害者を標的にする点で一貫しており、憎悪犯罪と言わざるを得ない。

    社会の病巣映す 価値観への挑戦

     憎悪犯罪は欧米では量刑が加重される場合も多い。それは、憎悪犯罪が殺人や放火などの犯罪行為であることに加え、社会全体の価値観に挑戦する側面を持っているためだ。民主主義社会とは基本的人権を根幹におく社会であり、そのことに対する攻撃は許されないと考えられているからだ。ナチズムが否定されるべきなのは、ユダヤ人や障害者を組織的に殺害した例をあげるまでもなく、特定の社会集団を攻撃すること自体を目的としていたためだ。

     今回の事件の容疑者が、特定の主張に影響されて今回のような考えを抱くようになったかはまだわからず、今後の調べを待つ必要がある。しかし、「障害者は生きていても意味がない」という考えは、「火星人が攻めてきた」というような妄想とは異なる。現在の社会のあり方のなかに、そうした考えを容認するものが水面下で拡大していないか、省みて自らの社会を厳しく点検する必要がある。

     「そんなことを考える人などいるはずがない。やったのは『異常者』だ」という言い方は危ういと思う。自らと無縁と思うほど、危険への備えを怠る結果になる。憎悪犯罪にどう対応するかという社会の経験の積み重ねがある欧米と異なり、日本社会ではまだ十分に、こうした時どう闘うべきかという対応が固まっているとはいえない。

     6月に米国のフロリダであった同性愛者の集まるナイトクラブでの銃乱射事件ではオバマ大統領が憎悪犯罪と非難したうえで、「米国民への攻撃はその対象が誰であれ、われわれ全員への攻撃だ」と述べて性的少数者への連帯を表明した。

     これは何もオバマ大統領個人の特定の価値観に基づく判断ではなく、誰が大統領であってもこうした事件には厳しく対応しなければ民主主義社会が成り立たなくなるという危機感からの発言だ。

     オバマ大統領の言葉を踏まえるならば、「障害者は生きていても意味がない」と主張して障害者を狙って刺殺した今回の事件は、日本社会全体への攻撃だととらえるべきだ。「よくわからない」と沈黙していてはならないと思う。憎悪犯罪に対しては可能な限り敏感になり、全力で対抗しなければならない。

    誤った主張に対抗する力磨け

     たしかに、「障害者は生きていても意味がない」と公の場で口にする人はいない。匿名のネットであったとしても、ごく少数の主張だろう。しかし、広島、長崎の被爆2世に対する結婚差別や、東京電力福島第1原発事故の被害をめぐる言説のなかに、そうした意識が深くよどんだ形で隠されている場合はないと本当に言えるだろうか。昨年11月には、茨城県の教育委員が「(障害児の出産を)減らしていける方向になったらいい」と発言し、批判を受けて撤回した。

     自分は「障害者差別などしない」あるいは「障害者差別に反対する」と言うことはたやすい。しかし、自らが生きる日本社会のなかにそうした闇が潜んでいないと言い切れるか。今回の事件で被害者となった障害者はなぜ地域社会のなかではなく、施設に集まって住んでいたのか。そこで働いていた容疑者が「障害者は生きていても意味がない」と考えたとすれば、我々の社会は障害者を本当に受け入れているといえるのか。

     必要なのは今回の事件の容疑者を「異常者」ととらえ、社会から排除して忘れ去ることではない。容疑者の主張をしっかり否定する強さと敏感さを身につけなければならない。それは日々、意識的に考え、発言し、表明していかなければ鈍麻していくものだ。

     日本には1996年まで優生保護法という、優生思想に基づいた名前の法律があったことを忘れてはならない。「障害者は生きていても意味がない」という主張が、そうした闇に忍び込んでこないとは断言できないはずだ。

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