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ロシアのドーピング隠蔽の手口、もっと読みたかった

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 紙面審査委員会は、編集編成局から独立した組織で、ベテラン記者5人で構成しています。読者の視点に立ち、ニュースの価値判断の妥当性や記事の正確性、分かりやすさ、見出し、レイアウト、写真の適否、文章表現や用字用語の正確性などを審査します。審査対象は、基本的に東京で発行された最終版を基にしています。指摘する内容は毎週「紙面審査週報」にまとめて社員に公開し、毎週金曜日午後、紙面製作に関わる編集編成局の全部長が集まり約1時間、指摘の内容について議論します。ご紹介するのは、その議論の一部です。

 以下に出てくる「幹事」は、部長会でその週の指摘を担当する紙面審査委員会のメンバーです。「司会」は編集編成局次長です。

<7月22日>

■ロシアのドーピング隠蔽の手口、もっと読みたかった

 幹事 2014年ソチ冬季五輪におけるロシアのドーピング検査の不正で、世界反ドーピング機関(WADA)の調査チームは7月18日、ロシアが国主導で自国選手のドーピング違反が発覚しないよう隠蔽(いんぺい)行為をしていたとする報告書を公表した。本紙は、20日朝刊3面クローズアップ[CU]<反薬物 露裏切り/部屋の壁に穴 検体すり替え>で一部を紹介しているが、スパイ映画を思わせるような巧妙な手口をもう少し詳細に描いてほしかった。本紙は具体的な手口について、「ソチ五輪の期間中は、現地の検査機関には世界中のスタッフが集まるため、虚偽の報告はできない。そこで、他国のスタッフのいない夜間に検体をすり替えた。特定の選手を対象に大会前の禁止薬物を使用していない時期に尿を採取して、冷凍保存。検査機関の部屋の壁にネズミが通れる程度の穴を開けておき、隣の部屋から手を伸ばして、試合後に採取した陽性反応が出る可能性のある検体と保存していた“クリーン”な検体とすり替えたという」と書いている。最低限の情報は押さえていると思うが、他紙はさらに詳細だ。朝日によると、すり替えを行っていたのは「ロシア連邦保安庁(FSB)の人物」で、検査機関には「施設の水道管の作業員を装って出入り」していた。また、尿検体を入れるボトルのふたは開封できないとされていたが、「FSBはソチ五輪の1年も前に開封法を見つけ、関係者の間では『魔術師』とさえ呼ばれたとする。報告書も『どうやって開けたのかは分からなかった』と記している」。読売は「この手法によると、開封しても肉眼で異常を確認することはできないが、調査チームは顕微鏡による調査で、容器を開封した際に蓋の内側につく痕跡を発見し、隠蔽工作が行われていたことを認定した」と書いた。また、本紙が「ネズミが通れる程度の穴」と表現しているくだりは、報告書ではそのものずばり「マウスホール」となっているようだ。

 薬物の提供方法も、筋肉増強作用のある3種類のステロイド剤をウイスキーなどに溶かした「カクテル」と呼ばれるものを口に含ませ、後で吐き出させるのだという。この方法だと薬物が溶けやすく、吸収されやすく、陽性反応が出る期間が短くなるという利点があるという。「カクテル」や「魔術師」は読売、朝日がそれぞれ見出しにも採用していて興味をそそられた。本紙[CU]は、ドーピングが行われた背景などにも踏み込んだため、スペースの都合から十分には書ききれなかったのだと思うが、おもしろい素材なので、もったいないと思った。

 司会 運動部と外信部の共同作業だが、運動部。

 運動部長 原稿には「カクテル」の話だとか、詳しいすり替えの内容も入っていたが、行数の関係で削られた。なぜこういうドーピングが行われたのか、今後の展望あるいは課題など[CU]で全体像が分かるような紙面にするために泣く泣く落とした。社会面で展開する手もあったが、[CU]の最初の項目で手口を説明する際に、行数的には限界だった。おもしろいけれどももっと大事なところを残した。マウスホールについては、わかりやすく「ネズミが通れる程度の穴」と書いている。

 司会 外信部はどうか。

 外信部長 ロシアがなぜ国としてこういうことをやらざるを得なかったのかを中心に取材して厚く書いたので、細部まで気がいかなかった。

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