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新憲法の対立深く 7日に国民投票

 2014年5月のクーデター以降、軍事政権が続くタイで7日、新憲法案の賛否を問う国民投票が投開票される。だが、新憲法案には上院議員全員の指名権を軍に与えるなど「真の民政復帰」とはほど遠い内容だ。軍政は批判を封殺し可決を狙うが、クーデターで政権の座をおわれたタクシン元首相派などが「非民主的」だと強く反発する。国民投票がスムーズに終わっても対立は深まりそうだ。【バンコク岩佐淳士】

    タクシン派「非民主的」

     「軍の監視はとても厳しい。集会は開けず、少人数でひそかに集まるしかない」。タイ北部チェンライでタクシン派地方幹部の男性(49)が明かす。タクシン派は軍の権力を温存する新憲法案に追い詰められている。だが、新憲法案の反対運動はできない。国民投票法で「事実をねじ曲げるなどして投票行動に影響を与えること」を禁じられているからだ。違反には最長で禁錮10年の重罰もある。軍政は新憲法案を批判するパンフレットを配るなどした学生やタクシン派幹部らを多数拘束している。

     一方、軍政側は全国各地に広報スタッフを配置し、国民投票のPR活動を活発化させる。公式パンフレットには新憲法案の利点だけが記され、可決を促そうとする意図があからさまだ。地方幹部の男性は先月末、仲間数人と軍高官に呼び出され、「国を前進させるために新憲法が必要だ」とくぎをさされた。この男性が活動するチェンライはタクシン派が東北、北部に築く強固な地盤の一つ。それでも「ネットのメッセージなどで住民に反対を呼びかけているが、賛否は五分五分といった感触だ」。

     こうしたタイの現状には国際社会から批判が出ている。国連人権高等弁務官事務所は先月下旬、国民投票を巡るタイの言論統制に「深刻な懸念」を表明した。また、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは「国民投票を前に恐怖を作り出している」と軍政を批判している。だが、軍政が反対派への締め付けを緩める気配はない。軍政幹部は取材に「軍はクーデター後に(タクシン派支持者の多い)農村地域で支援活動を行い信頼を築いている。多くが新憲法案を支持してくれるはずだ」と可決に自信を示した。

     ただ、新憲法案についての「民意」は読みづらい。先週公表された世論調査によると、賛成が約33%で反対の約6%を上回るものの、残りの約6割は態度を決めていない。新憲法案はタクシン派のタイ貢献党だけでなく、政党政治そのものの影響力を弱める。このため反タクシン派の民主党のアピシット元首相も先月27日に反対を表明した。投票を前に反対派が巻き返しているとの見方もある。

     軍政は国民投票で新憲法案が否決されたとしても「来年中に選挙を行う」と説明するが、具体的な手続きは示していない。結局は軍が自らの意向に沿った新憲法を制定したり、総選挙を先延ばしにしたりして権限の温存を図る可能性が高い。このため、タクシン派など「民主化」を求める勢力を軍が強権で抑え込む構図は変わらず、対立の根本は解決されそうにない。否決をきっかけにタクシン派が軍政に退陣を要求して緊張が高まる恐れもある。

    「軍支配」維持狙う

     軍政側が提案した新憲法案には、選挙に強いタクシン派を封じ込め、国王を頂点とする軍、官僚らの伝統的統治体制を復権させる狙いがある。タイでは「タイ式民主主義」と呼ばれる国王の権威と民主主義を併存させた独特の体制が続いてきた。しかし、01年に首相に就任したタクシン氏は「ばらまき」ともいわれた政策で農村部に大票田を築き上げた。

     既得権益を脅かされた軍はタクシン氏を「反王制」と断じ、06年にクーデターで政権から追放。だが、その後の選挙ではタクシン派が連勝し、再び政権を奪還した。軍部には「06年のクーデターは早期に権力を手放したため失敗に終わった」との見方が根強い。14年のクーデターで長期独裁体制を築いた軍政は、新憲法案に「民政復帰」後も軍支配を続ける仕掛けを盛ったとみられている。

     新憲法案は選挙後5年間を「移行期間」とし、上院(定数250)の6議席を軍や警察トップに割り当て、残りも全て軍政が指名する。上院は政権を監視する憲法裁判所の判事指名権など重要な権限を持つ。軍が上院を通じ国政を支配する仕組みになっている。

     また、民選の下院(定数500)は比例代表で中小政党に議席が配分され、大政党が単独過半数を取りにくい選挙制度になる。軍が中小政党を抱き込み、自らの意向に従う連立政権を樹立しやすくする狙いがあるとみられている。

     さらに議員以外からの首相就任も可能とした。国民投票では新憲法案の賛否に加え、首相選出への上院の関与を認めるかどうかも問われる。プラユット暫定首相の続投を含む「軍人首相」に道を開く内容だ。

     国民の崇敬を集め、伝統的統治体制の支柱となってきたプミポン国王は88歳となり、健康不安が伝えられる。チュラロンコン大学のティティナン・ポンスティラク准教授(政治学)は「予期される将来に向けて軍は権力維持を試みているのではないか」と語る。

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