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余録

「土手の花見」という話がある…

 「土手の花見」という話がある。川の土手はよく桜の名所になっているが、あれは冬に土中の氷結で緩んだ堤防を踏み固め、梅雨の増水に備える防災上の工夫といわれる。古くから災害と共に生きる知恵を蓄積してきた列島の住民である▲防災心理学の矢守克也(やもりかつや)京大教授はこの土手の花見をハード、ソフト両面の絶妙な組み合わせから成る「災害文化」の好例という。災害文化とは度重なる災害の経験から生まれた知恵やルールが息づく人々の生活文化のことで、地域の防災や減災に大きな役割を果たす▲逆に先の熊本地震では住民の間に地震が少ない土地という思い込みがあって、被害を大きくしたといわれる。そして観測史上では台風が上陸したことのなかった岩手県の高齢者施設などでの台風10号による惨害である。避難の遅れをもたらしたのは何だったのだろう▲近くを流れる小本川(おもとがわ)の氾濫(はんらん)により認知症の入所者とみられる9人が亡くなった岩泉町のグループホーム「楽(ら)ん楽(ら)ん」だった。空撮映像で驚くのは、入所者全員が無事だった3階建て介護施設がすぐ隣接していることだ。わずかな距離の避難を阻んだ濁流がうらめしい▲聞けば当時、小本川の水位は近くの観測点で川岸の高さを越えたが、その流域での自治体の避難勧告はなかったという。もしやそこに台風の直撃に対する災害文化の空白が影響してはいなかったか。またも災害弱者を守り切れなかった防災のネットのほころびである▲地震はもちろん、台風や集中豪雨もいつどこを襲おうとおかしくない現代だ。各地の経験や知恵を列島全域が共有する災害文化を育てたい防災の日である。

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