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<記者の目>トランプ氏「米軍撤退」発言=宮城裕也(青森支局)

米海兵隊のオスプレイが展示された昨年の「三沢基地航空祭」。空自三沢基地が主催し、三沢市などが後援している=2015年9月13日、塚本弘毅撮影

「返還後」考える契機に

 米大統領選の共和党候補ドナルド・トランプ氏(70)が、在日米軍駐留経費の負担を日本が増額しないなら「米軍を撤退させる」と発言して物議を醸している。とはいえ、多くの日本国民はまだ現実味を感じていない。沖縄県に次いで在日米軍専用施設の割合が大きい青森県でも同じだ。だが、国際情勢や政治状況の変化によって基地の縮小・撤退はいつでも起きる。米大統領選の結果とは別に、国や地方自治体は「撤退後」を常に念頭に置くべきだ。

     青森県三沢市の米軍三沢基地。今はF16戦闘機約40機が常駐する東北最大の基地だが、1970年代初頭、実戦部隊が姿を消した。ベトナム戦争の泥沼化による米国の財政難で、世界の米軍の大幅な縮小が行われたのだ。71年に基地従業員の7割にあたる1320人が解雇された。

     「米軍も企業と一緒。都合が悪くなれば引き揚げる」。解雇の経験を持つ元従業員の市川栄さん(83)=三沢市=は話す。街に失業者があふれ、当時の新聞は「米軍向けに建設した住宅を業者がやむなく半額で売り出し、約30軒あった外国人専用バーは3分の1が閉店。米兵向け洋服店業界は貸金回収を支援してと市に泣きついた」と混乱ぶりを伝える。市は再就職支援に奔走。企業誘致に取り組んだが、結果は芳しくなかった。

     ところが東西冷戦期後半、三沢基地は旧ソ連を警戒する「北の守り」と位置付けられ、機能が強化された。冷戦終了後も強化路線は続き、基地近くの射爆撃場は来年、横田基地(東京都)に配備される垂直離着陸輸送機CV22オスプレイの訓練地になる可能性も取りざたされる。

    「基地ありき」で進むまちづくり

     70年代の米軍縮小に伴う騒動の記憶はすっかり薄れ、「基地ありき」が前提のまちづくりが進む。市は今年度当初予算238億円の約2割を基地関連の補助金・交付金でまかなう。「基地は一つの産業」(三沢市議)という現実がある中、もし米軍が撤退すれば市の財政は大きな打撃を受ける。だが、基地返還を想定した議論はなく、トランプ氏の言動にも市幹部は「当選したわけではない」と様子見の構え。別の市議は「基地が無くなれば寒村に戻る。人口減少を補完するには基地しかない」と話す。

     津軽半島西部の青森県つがる市は2006年、ミサイル防衛用の高性能レーダー「Xバンドレーダー」を受け入れた。見返りに国が07年度から10年間、多くの分野に充当できる再編交付金を交付。今年度末で終了する予定だったが、延長される見通しだ。

     青森県は平均寿命が全国最下位。つがる市は、これまで交付された約32億円のうち約6割を「子ども医療費無料化」「がん検診」などの医療・福祉分野に充てた。将来に向け基金を積み立てているが、米軍撤退となれば福祉を直撃する恐れがある。市幹部は「表だって言えないが、本当は米軍にずっといてほしいと思っている人は多い」と打ち明ける。

    跡地利用を想定、発展見込む沖縄

     一方、私の故郷の沖縄県では状況は異なる。在日米軍専用施設の74%が集中する沖縄県は整理縮小が少しずつ進み、80年代には米軍ハンビー飛行場(北谷町)など3施設が返還された。跡地は商業施設となり、県の試算では、商業収入や不動産収入などでこれまでに7169億円の経済効果があった。返還の交渉や時期に遅れが生じたりするものの、基地の整理縮小は沖縄の念願であり、基地に頼らない自立した地域経済の展望を描くことはごく当たり前の行政の仕事だ。翁長雄志(おながたけし)・沖縄県知事が言うように「今や基地は沖縄経済発展の最大の阻害要因」との見方もあるのだ。06年には米軍嘉手納基地から南にある普天間飛行場など6施設を返還することが決まった。跡地利用構想は進み、現在、一部跡地では開発が進んでいる。

     沖縄の基地負担軽減が目的だった「普天間問題」は今、県と国との法廷闘争に発展した。安倍政権は沖縄に普天間の代替基地を置くことで抑止力が高まると説明し、名護市辺野古への移設が「唯一の解決策」との立場。「抑止力」の名のもとに、私の故郷には安保の負担が過度に押し付けられているが、沖縄は「基地はいずれ返還されるもの」としてその整理縮小と現実的に向き合ってきた歴史も持つ。

     部隊の配置は時の情勢や政治判断でいかようにも変わる。「トランプ発言」を奇異なものととらえるのではなく、米軍基地・施設を抱える地方自治体は、撤退も視野に入れた計画を真剣に考える契機とすべきだ。縮小、撤退を「想定内」にしておくことが、米軍基地問題を冷静に議論する土台になると思う。

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