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余録

「人民生活が大変なのに…

 「人民生活が大変なのに人工地球衛星などしょっちゅう発射してどうするのか。早く人民生活問題でも解決したらよい」。北朝鮮の現状についてのごくまっとうな意見だが、実は朝鮮人民軍のある部隊長がくり返していた「暴言」という▲これは「文芸春秋SPECIAL秋号」で紹介されている北朝鮮軍内部からの流出文書が挙げる将兵の「政治的事故」の一つである。文書を分析した鐸木昌之(すずきまさゆき)尚美学園大教授によれば「敵の暴言」、つまり西側の主張が軍の幹部にまで浸透していたことがうかがえる▲文書は物不足による軍紀の乱れや指導部への不満による「事故」続発を伝える。その中で使われている「陽奉陰異」は表向きは忠誠を誓い、陰で背信行為をなすことである。韓国や西側の情報や文化の浸透による面従腹背の広がりは軍の学習資料でも指弾されている▲ミサイル発射がくり返される中、5回目の核実験を行った北朝鮮である。爆発規模は過去最大で、北は「新開発の核弾頭」と称している。内外への宣伝効果を狙う手口は従来通りだが、ミサイルともども技術的進展は冷静に分析し、脅威のほどを見定めねばなるまい▲安保理のミサイル発射への非難声明のすぐ後に、国際社会の手詰まりを見透かしたような北の挑戦的行動である。それによる国内の結束にも自信ありげな金(キム)正(ジョン)恩(ウン)指導部だが、核ミサイルで先の文書が示すような北の将兵や民衆の信念の空洞化を埋め合わせできるのか▲くり返される粛清や幹部の脱北も「陽奉陰異」が当たり前の社会の疑心暗鬼ゆえだろう。核やミサイルでは制御できぬこれからの「政治的事故」である。

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