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くれないにじむ あきいろ奈良

冬が終われば春が来て 春が終われば夏が来る そして秋 それはいまも変わらない

1300年前 日本の中心であった奈良 そんな奈良に にじむあきいろ 

写真・文 はしもとゆうすけ

洞川の街

ここは吉野郡天川村。

洞川(どろがわ)というこの一帯は温泉旅館の建ち並ぶ風情のあるたたずまい。

標高800㍍以上の高地であるため、夏でも窓を開けていれば涼しい風が心地よく通り抜けていく。私の立ち寄った旅館もエアコンはなかった。トイレは共同、部屋に鍵すらなかったが、特別不安になることはなかった。街中がやわらかい空気感に満ちているからだ。何もせずただゆっくりと過ごすためだけに来るのも悪くないと思わせる。

もちろん近くには修験者の訪れる龍泉寺や紅葉の美しいみたらい渓谷、鍾乳洞やキャンプ場、それに名水百選に選ばれた「ごろごろ水」の採水場もある。旅館や商店のおばあちゃんとの会話も楽しい。

ここに来れば「ああ、自分は疲れていたんだな」と気づく。洞川は心を浄化してくれる天然のフィルターのようなものだ。

平城宮跡

奈良の空は広い。

盆地であり、しかも高い建物があまりないからだ。とりわけこの平城宮跡は710年に都がおかれた当時よりも狭くなったとはいえ、現在でも1㌔四方以上ある。

そんな広い空は季節や天候によってさまざまな表情を見せてくれる。

シーズンか否かの瀬戸際でやってきた台風。幸い予報とは違い上陸はしなかったのだが、不安定でスリリングな朝を演出してくれた。

ホテイアオイ

毎年9月を盛りにホテイアオイが群生する。

橿原市にある本薬師寺跡(もとやくしじあと)を囲むように植えられ、天気が良く暑い日によく咲く。

またハスのように朝咲いて夜にはしぼんでしまうという。私も満開だと聞きつけて行ったが、ぜんぜん咲いていなかったという経験をした。花が開くよりもはやく行ってしまったということだ。

一面に広がるやさしいすみれ色の花弁。

この上に寝そべってみたい気持ちになるが、ここは水田なのであった。

般若寺 コスモスと十三重石宝塔

般若寺といえばコスモス、というくらいに、シーズンともなれば境内一面を鮮やかに染める。

住職のブログを拝見してみると、花数は25種類15万本にも及ぶそうだ。それほど広い境内ではないだけに、花の密度に圧倒される。

「コスモス寺」と呼ばれるようになったのは、50年もの間この花を愛し、増やし育ててきたからだ。

コスモスを見ていると、よくもあんな細い茎で大きな花を、しかも背高く伸ばし支えているものだと感心する。

太陽の恵みを最大限に浴びようと背伸びするコスモスを、十三重石宝塔(重要文化財)とともにとらえた。

般若寺 コスモスと石仏

般若寺でコスモスを撮るのは一種の挑戦である。そこが般若寺であることを無言のうちに示さねばならないからだ。私は境内にたくさんある石仏の力をお借りしようと思う。

石仏が好きだから何枚も何枚も撮るのだが、なかなか満足のいく1枚を撮らせてくれない。何度も通った。何度もシャッターを切った。なのに目で見た感動を写真にできなかった。

どうしたものかと悩みながらカメラを胸のあたりまで下ろし、液晶モニターを見ながら撮影してみた。

するとどうだろう。肉眼で見たあのやさしさが少しだけ表現できた気がした。

家に戻り、他の写真と見比べることでやっとわかった。この写真は水平が出ていなかった。ほんの少しだけ、石仏が下をむくような角度で撮ってしまっていた。

うつむきがちに、奥ゆかしくほほ笑むお姿。

自己満足だけど、これでいいのだ。

彼岸花

秋の花としてはコスモスと並んでかなりメジャーだ。いままで何もなかったのに、気がつけばスッと伸びた茎から攻撃的とも言える鮮烈な赤い花を咲かせる。

曼珠沙華(まんじゅしゃげ)と呼べば文学的でかっこいいのかもしれないが、そんな柄でもないのでどうも気恥ずかしい。

やはり彼岸花だ。

奈良で彼岸花といえば明日香村が有名である。ところが私は明日香村と相性が悪いらしく、ここ数年満開の時期を逃し続けている。サラリーマン写真家の最大の弱点である。

今回の写真も、これではどこで撮ったかまったく分からない仕上がりであるが、やはり秋色に彼岸花は欠かせないので採用した。

有名なお寺で撮ったものではあるが、どこかは言わないでおく。

法起寺 コスモスと三重塔

もうひとつコスモスの写真を。

般若寺とならんでコスモスの風景で有名な法起寺。地元の方々が休耕田を利用して育てている。

そして法起寺と言えば三重塔。車で走っているとカーブを曲がった頃に突然現れる三重塔。小さめで品のよい立ち姿にいつもハッとさせられる。

コスモスについて調べてみると、メキシコ原産で日本には明治になって入ってきたそうだ。

歴史の新しい外来の花ではあるが、般若寺の塔や石仏、そしてこの三重塔など、不思議と日本の原風景によくなじむ。

宇陀市の朝

私の住む奈良市は縦長の奈良県の中でも北の端っこにあり、宇陀市まで撮影に行こうと思えば、そこそこのドライブとなる。

思えば遠くへ来たもんだ、と思うのだが、宇陀市は地理的には奈良県の北東部ということになる。

松山という伝統的建造物の保存地区を歩けばタイムスリップしたようだし、室生寺や仏隆寺、そしてあの有名な又兵衛桜もここ宇陀市にあり、歴史と自然の宝庫と言える。

この街は秋の訪れとともに、早朝雲海に包まれることが多くなる。この日は雲海と言うほどではなかったかもしれない。濃い時には雲と山並みしか見えないのだ。

個人的にはこのくらい街の風景が見えるほうが好きだ。好んで人影を撮るタイプではないが、風景の中に人の「存在感」は必要だと思う。

鹿

会ったことはないがTwitterやFacebookで私を知る人は、「鹿ばっかり撮ってる人」「鹿の写真の人」などというイメージをもっているらしい。

むしろ鹿を撮ることはそれほど多くないのだが、やはり血の通った動物の写真はよりいっそう印象に残るものなのかもしれない。

そろそろ冬毛に変わろうか、という時期の鹿。

まんまると大きな黒目が可愛らしい。

食事のじゃまをしてしまったようだ。

大伽藍と紅葉

東大寺大仏殿とその右に興福寺五重塔。誰でも一度はこの配置の写真を見たことがあるかもしれない。この印象的な風景は若草山ドライブウェイの途中から見ることができる。もっとも奈良らしい風景のひとつであろうか。

この辺りは桜の木も多いが、一足早く散ってしまったようだ。一方ナンキンハゼは、ティアドロップ型の葉を真っ赤に染め、その存在を主張していた。

あまりにきれいだったので大伽藍は引き立て役に回ってもらった。こうすることで背景の現代的な建造物を目立たなくさせる効果もある。

ゆっくり座って風景を堪能できるベンチがないのが残念だ。

もっとも、深まりゆく秋の夕暮れにこの風景を見ていたら感傷的になりすぎてしまうかもしれないが。(つづく)

はしもとゆうすけ

サラリーマン写真家。1970(昭和45)年11月生まれの45歳。「奈良はよいとこ」 http://www.nara-wa-yoitoko.com/ で作品を公開中。鹿写真が好評。可愛いだけではなく、その「いのち」を撮ることに奮闘中。


 「ニッポン瞬・彩」は、各地のカメラマンが地元ならではの目線で撮った「わが街自慢写真集」です。

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